投資家の哲学
【お笑い芸人・パックンさん】投資を学んで人生を力強く生き抜く!ガールフレンドのパパから学んだ投資の金言とは
個人投資家の投資スタイルは千差万別。短期売買で稼ぐ人、長期保有でのんびり値上がりを待つ人、はたまた株主優待でお得な生活を送る人。いずれも肝心なのは、自分なりの哲学を持ち、投資に向き合うことだ。
そこで、個人投資家の哲学を知るべく、今回は大学講師やコメンテーターなどマルチに活躍中のパックンこと、パトリック・ハーランさんにインタビュー。
ハーバード大卒のお笑い芸人として、日本でブレイクしたパックンだが、意外にも貧しい家庭で育ったそう。25歳からコツコツと投資をはじめ、失敗を経験しながらも、“保守的”な投資に辿り着いたとのこと。投資に興味を持ったきっかけや、投資スタイルなどについて訊いた。
感情に左右された投資に後悔!そんな自分にもできる投資がある
――まず、パックンさんの投資スタイルについて教えてください。
パックン:僕の投資スタイルを一言で表すなら、めっちゃ保守的! 個別株もいくつか保有していますが、9割はファンド(投資信託)です。本業や家族との時間を大事にしたいから、毎日株価をチェックしたいとは思いません。ただ、昔は自分のことを賢いと思っていたので、いろいろな銘柄をしっかり調べて、投資していたこともあります。
――投資スタイルが変化したきっかけは、何だったのでしょうか?
パックン:インターネットバブルの崩壊で大火傷しちゃったんです。ITインフラの銘柄もいくつか買っていましたが、手放しちゃいました。保有し続けていたら、今頃すごく儲かっていたのにね。でも、当時は「もう損したくない!」という感情で売却してしまったんです。そのときに、感情で動く自分の恐ろしさに目覚めて、もう個別株の売買で儲けるのはやめようと思った、というわけ。
――でも、投資そのものはやめなかったのですね。
パックン:はい、勝負するような投資はしないと決めただけ。僕の本業はお笑い芸人です。毎日企業情報を調べるよりは、お笑い番組やライブを見て、刺激を受けて、自分のネタを書いた方がいいんじゃないかと思ったんですね。だって世の中には、ビジネススクールでちゃんと経済学を学んで、日経新聞を隅々まで読んでいる人がいるでしょ? 僕はその人たちに勝てる自信はないです。だけど、投資のメリットは理解しているから、老後の資産形成のために、世界の長期的なトレンドを踏まえた投資をしています。
――長期的なトレンドとは、たとえば?
パックン:日本は少子化ですが、ほとんどの国は人口が増加していますよね。それなら世界の建設業界は今後も伸びるはず。また、人口増加の傍ら、先進国は高齢化が進んでいくので、製薬会社やバイオテックは勢いが増すでしょう。つまり、僕がおじいちゃんになったとき、世界はどうなるだろうと想像して、僕が信じる未来に合うファンドを選ぶようにしています。
――個別銘柄を選ぶのではなく、世界が向かう先をイメージして投資する方法を選ばれているんですね。ちなみに、資産形成のゴールは決めていらっしゃいますか?
パックン:毎年の投資利益が自分の年収を上回るまで、ですね。だから、ゴールを教えると年収がバレちゃうので秘密!ちなみに、資産形成のゴールを決めたきっかけは、大学2年生頃のガールフレンドのお父さんなんです。
日米はお金に対するスタンスがまるで違う!
――どんな方だったんですか?
パックン:ハリウッドに住んでいて、セレブから依頼を受ける税理士でした。その彼が「自分の資産が自分よりも“稼ぐようになるまで”投資を続ける」と教えてくれたんです。確かにそれがベストだなと納得しましたね。もし年収1,000万円なら、2億円の資金で毎年安定して5%の利益を出す投資をしなければいけないので、なかなか大変。だから、たぶん彼は死ぬまで働けって言いたかったんじゃないかな……。
――というか、学生時代にガールフレンドのお父さんと、投資の話をするってすごいですね。そもそも日本人は家族でお金について話す機会も少ないと思うので、何と言うか、こう……日米の差を感じるエピソードです。
パックン:日本人は、お金のことを言うのは“いやらしい”とか“汚い”みたいなイメージを持っているせいか、ざっくばらんに話さないですよね。投資もギャンブルだと思っている人が多いから、投資をしている人は怪しく思われちゃう。でも、これは日本ならではの文化ですよ。あと、お金や投資の基礎を学ぶ機会も乏しいですよね。最近は、文部科学省や金融庁などの政府機関が若年層のマネー教育に力を入れているみたいなので、これから少しずつ変化するんじゃないかな。
投資を知ることは、人生を力強く生き抜くこと
――パックンさんは、投資を学ぶ意義って何だと思いますか?
パックン:最大の意義は、将来の安心が得られることだと思います。僕は子どもの頃、家が貧しくて、いわゆる生活保護を受けていた時期もありました。大学を卒業してすぐ日本に来ましたが、奨学金の返済額が何百万円もあって、めちゃくちゃ節約をして、収入のほとんどを返済に充てていました。
――そんな過去をお持ちだったんですね。
パックン:意外でしょ!? 当時、日本では、英会話教室の講師をして、月20万円くらい稼いでいたんですけど、奨学金の返済、家賃や光熱費の支払いで、手元に残るのはほぼゼロ。友達のお母さんにおかずをお裾分けしてもらったり、パン屋さんでパンの耳を貰ったりして食いつないでいたこともあります。
――いまのご活躍ぶりから想像できません!
パックン:本当は芸人で売れなかったことを理由に、帰国しようかと思っていたくらいです。デビューして売れちゃったから、想定外だったけど!だから、投資の知識はあっても、しばらくはお金がなくて投資ができなかったんですよね。実際にはじめられたのは25歳のとき。運よく芸人で売れて、少しお金に余裕ができてからですね。それからコツコツ投資を続けてきたことで、将来の安心を得ることができました。
――なるほど。投資が芸人として生きる自分を支えてくれた、ということですね。
パックン:そうかもしれませんね。あと、もうひとつの意義は、社会への関心や経済の知識が増えることです。株を買うということは、会社のオーナーになるわけですよね。そうすると、その会社の動向が気になるわけです。それによって、社会への関心の持ち方が変わってきます。個別株ではなく、インデックスファンドを持っているなら、市場の値動きが気になりますよね。なんで上がったのか、下がったのか、経済を学ぼうと思うかもしれない。
――経済を入り口に、世の中に対する好奇心を持つきっかけにもなりそうです。
パックン:そう。投資に興味を持つことで、自分の生活、仕事、社会、経済への理解度が高まる。それって、人生を力強く生き抜くことにもつながると思いますよ。そこにこそ、投資の大きな意義があるんじゃないかな。
取材・文:末吉陽子(やじろべえ)
撮影:菅井淳子