働き方を委ねることがモチベーションに?
調査から見えたテレワーク「地域格差」と成功させる肝「裁量権」
テレワークの普及は、働き方に新しい議論をもたらした。通勤が少なくなり、時間や場所に縛られず仕事ができるのは、多くの人にプラスだっただろう。一方、バラバラに働く個人をどう組織として管理するのか、あるいはコロナ終息後、リモートと対面の業務をどう使い分けるのか。そういった悩みが生まれた側面もある。そもそも、テレワークに対してネガティブな反応も少なからず聞かれた。
そこで取材したのが、リクルートキャリアHR統括編集長の藤井薫氏。2020年に起きたテレワーク普及の実態はどんなものなのか。そこから考える、企業や組織が進むべきテレワークのあり方とは。リクルートキャリアの調査結果も参考にしながら話を聞いた。
東京と地方で明らかになった、テレワーク経験の差
テレワーク普及について、まず藤井氏が口にしたのは「地域による二極化」だ。2020年にリクルートキャリアが行った調査「新型コロナウイルス禍での仕事に関するアンケート」によると、都道府県別のテレワーク経験は、都市圏とそれ以外で大きな差が出た。トップの東京都が71.1%、大阪府が64.8%、神奈川県が63.8%に対し、他の44都府県は38.5%と開きがあったのである。
また、テレワーク経験者の多くはこの働き方に好感を持っており、転職先の検討要素として「テレワークが認められている」ことを重視する傾向が強くなったことも同調査でわかった。
そこで藤井氏が警鐘を鳴らすのは、今後、都市圏に労働力が集中するケースだ。
「都市圏と地方でテレワークの格差が進むと、テレワークを好む多くの人は都市圏の企業で働くことを選択するはず。それは、テレワークで人材の地方分散が期待されているのとはうらはらに、労働力が逆に都市圏に集中してしまう可能性をもたらします。日本は、地方に人材を分散させることが喫緊の課題ですが、逆行する可能性があるのです」
労働力の求心力を考えると、今後は地方にもテレワークを浸透させることが重要。まずはこれが、テレワークの実態調査から見えたポイントだ。
もうひとつ、テレワーク経験者にアンケートを取ると、ポジティブな声とともに、ネガティブな声も少なからずあったという。
「バラバラな場所で働く分、定期的に会社に報告する義務や頻繁に確認の電話がくるなど、会社にペースを握られ、かえって不自由を感じたという意見もあったのです」
こういった声を踏まえ、藤井氏は「企業が個人に仕事の進め方の裁量権を与えるかどうかが、テレワークの満足度を左右する」という。離れた場所で働くからと“監視”を強めるのではなく、働く時間や場所は一人ひとりの自由にして成果で評価する。そうしたテレワーク時代の人材マネジメントが重要になるようだ。
「そのためには、仕事の評価項目やゴールを成果中心にすると良いでしょう。日本は成果よりも、態度や頑張りが評価される文化が強かったと言えます。それを引きずると、テレワークで相手が見えない分、働きぶりを細かくチェックしてしまい、社員にとってはマイナス。働き方の裁量権を与えて、最終的に社員が出した成果で評価するのが良いでしょう」
この裁量権こそ、働く人のモチベーションに関わる項目だという。労働者のやる気や満足度を計る指標の1つにMPS(Motivating Potential Score)というものがあり、仕事の内容や環境をもとに、ある計算式によって各職種のMPSを算出することができる。
その計算式で重要なのが「自律性」の項目。どれだけその仕事を自分の判断で進められるか、いわば裁量権の大きさがMPSスコアを高くする。経営者や文芸家、記者、美術家といった職種はMPSが高い傾向にあるという。
MPSの観点で考えると、テレワークではきちんと裁量権を与えてMPSを上げるべき。それが社員のモチベーションを伸ばすことになる。
さらに、一度テレワークで裁量権を与えられた人は、この働き方に満足し、今後も裁量権を求めるだろう。その代わり、仕事の成果をきちんと出そうとする姿勢も強くなると予測。藤井氏は、その動きを「個人の“法人化”が進む」と表現する。
オフラインの仕事は「マイクロスリップ」を狙う
コロナ終息後は、オフラインとオンラインの使い分けも重要なテーマになるだろう。この点についても、藤井氏の意見を尋ねた
「人は会話の中で脱線や寄り道をしたり、質問に対して言葉を編集するうちに回答が見つかったりということがあります。これは“マイクロスリップ”と呼ばれ、この過程からイノベーションにつながるケースが多いといわれます。オンラインとオフラインの会話を比べると、マイクロスリップが起きやすいのはオフライン。対面での業務や会議は、その効果を意識して行うのが良いでしょう」
目的やゴールが決まっており、素早く行う打ち合わせはオンラインで。一方、雑談やディスカッションなど、自由にアイデアを出し合う場は、あえてオフラインにする。そんな使い分けが良いのかもしれない。
「また、テレワークは仕事のムダを省くことが多い一方、オフラインは仕事の付加価値を上げることに寄与しやすいでしょう。たとえば、顧客との信頼関係をつくる、顧客の声にならない声、想定外の痛みや希望といったインサイトを知る。こういった潜在的な付加価値向上の兆しは、やはり冗長な対面の場で話し合うが生まれやすい。その視点でもオンライン/オフラインの使い分けが重要になるでしょう」
生産性向上を考えるとき、「分母」となるムダの圧縮が主になりやすい。しかし、分子の付加価値を上げるのも生産性向上の一環。藤井氏は「生産性とは本来、付加価値生産性のことであり、生み出す付加価値と投入コストの両方を見ることが大切です」という。
今はテレワークによって、分母のムダを減らしている段階。しかし今後は、ムダを減らしつつ付加価値をどう上げるかも問われてくる。そこでオフラインの出番。この使い分けをうまく行える企業・組織が成長していくのかもしれない。
(取材・文/有井太郎)
※記事の内容は2021年2月現在の情報です
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