給与明細は要チェック!

「4・5・6月に残業すると社会保険料が増え手取りが減る」のはいつから?

提供元:Mocha(モカ)

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「給与明細を見たら手取りが減っていた」という経験はありませんか?基本給やもらえる手当が変わったわけではないのに、どうして手取りが減ってしまったのでしょうか?

その理由は、残業が多くなったことで社会保険料が増えたからかもしれません。そこで今回は、手取りを左右する社会保険料の金額が変わるしくみとその影響が出る月をご紹介します。

9月(10月)から手取りが減ったのはなぜ?

9月(会社によっては10月)の給与明細を見ると、手取り額が8月分よりも減っていることがあるかもしれません。このように手取りが減るのは、給与によって決まる標準報酬月額が影響しているからです。

●給与の額面と手取り

給与明細を見ると、「総支給額」と「差引支給額」が記載されていますね。

総支給額は、いわゆる額面と呼ばれているもので、基本給と家族手当、通勤手当、住宅手当、役付手当、残業手当などの諸手当を合計した額のことです。

この総支給額から所得税、住民税と健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料(40歳以上の場合)などの社会保険料を差し引いたものが差引支給額、いわゆる手取りになります。

●手取りが減った理由は標準報酬月額が上がったから

給与の手取りを左右するのは社会保険料です。総支給額から差し引かれる社会保険料の額が大きくなれば、手取りは減ります。

なかでも、健康保険料と厚生年金保険料を決めるのは標準報酬月額です。

標準報酬月額とは、社会保険料や傷病手当金や出産手当金などの保険給付の額を計算するときのもととなる金額のこと。区切りよく幅を持たせた標準月額ごとに等級と標準報酬月額が設定されています。

自分の給与に当てはまる標準報酬月額が上がれば、健康保険料と厚生年金保険料の金額が増えるため、手取りが減るのです。

標準報酬月額が決まるのは4月・5月・6月の給与

手取りを左右する標準報酬月額ですが、ここで標準報酬月額の決め方を解説しましょう。

●標準報酬月額の決め方「定時決定の場合」

すでに会社に所属している人は、毎年「定時決定」によって標準報酬月額が決まります。

定時決定とは、毎年7月1日現在に所属している会社において、4月・5月・6月の支払基礎日数が17日以上ある月の総支給額を合計して算出した平均額を標準月額とし、該当する等級区分に当てはめることで標準報酬月額を決める方法です。こうして決まったものが、その年の9月から翌年8月の標準報酬月額になります。

ここでわかることは、4月・5月・6月の総支給額が標準報酬月額の増減を左右しているということです。給与の総支給額に含まれる諸手当のなかで、毎月変わる可能性のあるものは「残業手当」でしょう。

つまり、4月・5月・6月の残業が多くなると、その分残業手当が増えて標準報酬月額が上がります(残業手当は翌月払いとしている会社もあるため、その場合は、3月・4月・5月に残業が多くなった場合に標準報酬月額が上がります)。標準報酬月額が上がれば、健康保険料と厚生年金保険料が上がるので、結果として9月からの手取りが減ってしまうのです。

また、会社での社会保険料の納付期限によっては、10月から手取りが減る場合もあります。

●標準報酬月額による保険料の変化

ではここで、標準報酬月額が変わると、健康保険料と厚生年金保険料がどれくらい変化するのか見てみましょう。

(例)会社員のAさん(35歳女性)、定時決定の場合

・4月・5月・6月の総支給額の平均(標準月額):24万8000円
・全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入
・協会けんぽの令和3年度保険料額表(東京都)により試算

Aさんの標準月額は24万8000円。令和3年度保険料額表(東京都)によると、標準報酬月額は24万円となります。

標準報酬月額24万円の場合、該当する保険料(会社と折半した後の額)

・健康保険料:1万1808円
・厚生年金保険料:2万1960円

保険料の合計は、3万3768円

では、Aさんが4月から6月の間、仕事が忙しくなり残業手当が増えた場合、保険料はどうなるのか見てみましょう。

・4月・5月・6月の総支給額の平均(標準月額):27万2000円

この場合、該当する標準月額27万2000円に当てはまる標準報酬月額は、28万円となります。

標準報酬月額28万円の場合の保険料(会社と折半した後の額)

・健康保険料:1万3776円
・厚生年金保険料:2万5620円

保険料の合計は、3万9396円

以上をまとめると、

・標準報酬月額24万円の場合、保険料の合計は3万3768円
・標準報酬月額28万円の場合、保険料の合計は3万9396円

Aさんの場合、標準報酬月額が上がることで、保険料が5628円増えることがわかります。
つまり、健康保険料と厚生年金保険料の変化だけで見ると、手取りが5628円減るということです。

定時決定では、その年の9月から翌年8月までの1年間の標準報酬月額が決まります。

標準報酬月額の変化でAさんの1ヶ月の手取りが5628円減るということは、1年間では6万7536円手取りが減るということ。この減額は大きいですね。

標準報酬月額が増えると、実はメリットもある

4月・5月・6月の残業が増えて標準報酬月額が上がると、9月もしくは10月からの手取りが減ります。こうなると一見損をしているように思われるかもしれません。

けれども、実は標準報酬月額が上がることでお得になることもあるのです。それは、標準報酬月額をもとに決まる保険給付と厚生年金の受給額です。具体的には次のようなメリットがあります。

●傷病手当金が増える

病気やケガで会社を休んだ場合、休業中の生活を保障してくれるのが傷病手当金です。業務外の事由でケガをしたり病気になったりして連続3日間会社を休んだ後、4日目以降の欠勤した日に対し、傷病手当金が支給されます。

支給期間は最長1年6ヶ月で、支給開始日以前の継続した12ヶ月間の標準報酬月額を平均して30日で割った額の3分の2が支給日額となります。つまり、標準報酬月額が高ければ、受給できる傷病手当金が増えるのです。

●出産手当金が増える

出産で会社を休み、その間給与の支払いを受けなかった場合、出産日(予定日以後に出産した場合は出産予定日)以前の42日、出産の翌日以後56日目までの間で欠勤した日に対し、出産手当金が支給されます。

支給日額は、支給開始日以前の継続した12ヶ月間の標準報酬月額を平均して30日で割った額の3分の2です。この場合も、標準報酬月額が高い方が受給できる出産手当金は多くなります。

●各種厚生年金が増える

厚生年金の加入者が受け取れる老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金は、いずれも加入期間中の標準報酬月額をもとに年金額が計算されます。

つまり、標準報酬月額の高い期間があれば、その分算出される年金額が増えるのです。

まとめ

会社員になると、毎年定時決定によってその年の9月から翌年8月までの標準報酬月額が決まります。その際、もととなるのが4月・5月・6月の給与です。

この3ヶ月間の残業手当が増えると、場合によっては標準報酬月額が上がり、結果として9月(会社によっては10月)からの手取りが減ってしまうかもしれません。

しかし、標準報酬月額が上がれば、健康保険から給付される傷病手当金や出産手当金、あるいは老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金の受給額が増えるというメリットもあるということを覚えておきましょう。

[執筆:ファイナンシャルプランナー 前佛朋子]

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