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アバターロボットで接客も。DXを活用し、イノベーションを加速するJALの働き方(後編)

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ここ最近、DXというキーワードが市場のトレンドのひとつになりつつある。デジタル技術で事業がガラッと変わる概念は、コロナ禍の影響もあって加速度的に進行している。

だが付け焼き刃のDXではなく、長年にわたって取り組んでいる企業がある。それがJALだ。スムーズなフライト体験から空飛ぶクルマにドローン空輸など、徹底した未来志向は、働き方にも及ぶ。

羽田空港第1ターミナルは、JALの国内線における拠点のひとつだ。

タッチパネルに触れることなく操作ができる自動チェックイン機に、手荷物をやさしく扱うベルトコンベア式の自動手荷物預け機がズラリと並び、かつて出発ロビーの主役であった有人チェックインカウンターはもはや補助的な役割を担うに過ぎない。非対面・非接触のコミュニケーションで上質なサービスを提供する姿勢は、コロナ禍という未曾有の事態において高い評価を得た。

働き方改革が高じて、アバターロボットを開発

もちろんグランドスタッフもいるが、出発ロビーの南ウイングにはちょっと珍しい係員がいる。身長1mほどのロボット「JET」だ。AIによる自律型ロボットではない。自宅などの遠隔地にいるグランドスタッフが操作し、お客さまと対面してサービスを提供するアバターロボットなのだ。

たとえばライフステージに応じて、育児などで家にいなければいけなかったり、場合によっては離職せざるを得ない社員がでてきたりもする。

アバターロボットを介することで知識や経験を引き続き職場で活かし、社会との接点を持ち続けてほしいという思いに加え、発展途上のAIロボットではJALらしいおもてなしの質が担保できないということで、アバターロボットの導入に踏み切ったのだという。

現在は2代目で、空港利用者からの視認性を高めるべく大型化を果たし、カメラ機能と操縦性の向上を図ったモデルだとか。

大山さん「働き方の面でもDXが推進されつつあるのは、コロナ禍で非接触、非対面が急務となり、結果的にJETへの注目が高まった側面もありますが、もともと働き方改革が会社にとってのミッションだったこともあります。コールセンターのスタッフも会社に来ないと電話に出られなかったものが、セキュリティを担保した回線を繋げて自宅でもテレワークができるようになっています」

このように語るのが、JAL デジタルイノベーション本部イノベーション推進部の大山彩花さん。膨大な個人情報を預かる事業者として、セキュリティには万全の配慮をしなければならないが、その点は比較的スムーズにシステムを構築できたと、JAL IT企画本部の中村晴美さんは振り返る。

コロナ禍で期せずして功を奏した、リモートワークへの取り組み

中村さん「JALはコロナ禍以前からリモートワークの環境整備を進め、システム作りに取り組み、運用ルールの整備をしてきました」

長年にわたる取り組みの成果が、結果的にコロナ禍で功を奏したという見方ができる。さらにいえば付け焼き刃ではないからこそ、DX銘柄2021に選定されたという側面もある。テレワークも、コロナ禍以前から準備していた取り組みのひとつだ。

大山さん「働き方が変わると仕事と観光を両立するワーケーションができますから、航空会社としてモデルケースになるべく進めていた経緯もあります。現在はグランドスタッフや客室乗務員はiPadを携帯していますが、iPad内の特定のアプリケーションを通しお客さまの情報にアクセスできるようになりました」

テレワークの取り組みができるようになったのは、このように顧客データベースを持つ基幹システムの刷新を進めてきたことも大きな要因といえる。乗客データや、旅行代理店・JALパックのツアー参加者、JALマイレージバンク会員など、JALの顧客情報は多岐にわたるが、それらをクラウドで一元化するという試みだ。

中村さん「多くの顧客情報を取り扱う航空業界ですが、一元的に管理集約して活用が可能な、クラウドネイティブにデータベースを変えている最中です。お客さまのデータベースを高いセキュリティで保護するため、決められたルートでしかアクセスはできませんが、各部署の社員の端末から必要なときに必要なものを取得できるようになる予定です。これにより業務は飛躍的にスムーズになり、現場スタッフの働き方変革にも寄与しますが、システムの構築は大変です。数年がかりで進めています」

将来的には顧客ごとにパーソナライズしたサービスの提供も可能になるほか、マーケティングにも役立てられる期待もある、前途有望な取り組みだ。

こういったDXに関わる施策は、JAL Innovation Labという社内機関が中心となって検証や体験デザインの検討が進められている。見渡すだけでも5GアンテナやAFIDの端末、顔認証の実験端末などが置いてあり、さながら最新技術の見本市のような拠点だ。

DXを推し進める拠点、「JAL Innovation Lab」

大山さん「JALにおけるイノベーションの象徴的な拠点です。シートの試作品を運び込んで使用感の検証をしたり、お客さまをお招きしてヒアリングしたりと、従来とは違うアプローチとスピード感をもって検証できる場所なのです。また社内人財活用のためラボ会員制度を設置。会員は約3万6000人のJALグループ社員を対象に挙手性で集めており、組織横断的なプロジェクトを推進しやすくしたり、試作品の被験者になっていただいたり、一緒にイノベーション活動を推進しています。私たちはイノベーションの拠点である『JAL Innovation Lab』と社内人財活用の『ラボ会員』、社外パートナーの『ラボアライアンス』の3つをイノベーションプラットフォームとして重視しており、ラボは社内外の方々が集うオープンイノベーションスペースとしてご利用いただき、アイデアを自由に創造する場として活用してほしいと考えています」

DXと聞くと最新の技術をいかに事業に取り入れるかということが重要に思えるが、JALの場合は少し違う。技術もさることながら、それを使う人を重視しているというのだ。

大山さん「近年イノベーション領域で注目されている“OODA(ウーダ)の行動様式”というものがあり、JALでも『JAL OODA』として取り入れています。『個人個人が観察して判断して行動に移す』という考え方で、自発的な判断と結果を見据えた行動が大切なのです。DXというキーワードが社会的な注目を集めるなか、社内の期待も高まっていますが、お客さまと現場があってこそのイノベーション推進だということを忘れてはならないのです。たとえば先ほど申し上げた顧客データの統合は、使うのは現場の社員ですから、どうサービスに反映され、どう活用されるかがもっとも大切。JALならではのDXを考えると、それは社員の力だと思うのです」

連綿と続いてきたDXの先にあるのがイノベーション

今でこそDXというキーワードがトレンドだが、この取り組みはずっと続いてきたことでもある。古くはWeb上で航空券が予約できるようになったeコマース初期から始まったことだ。そしていずれの取り組みも、JALにとってはサービス品質の向上が大切だ。

大山さん「人財とテクノロジーの強みを融合したJALならではの顧客体験やサービスをご利用いただいたお客さまの満足度は、着実に上がってきています。また取材や企業からのお声がけが着実に増えているのは、間違いなくこのようなJALの取り組みが広がっているからだという実感があります」

地道な改良を重ねて着実にサービスの質を高めていくのが、JALならではのアプローチ。未来はすぐに訪れるわけではなく、連綿と続く取り組みの延長線上にあるということだ。コロナ禍が一区切りし再び自由な空の往来が訪れたとき、久しぶりに足を運んだ空港で、DXによるサービス品質の向上が実感できるに違いない。

 

<合わせて読みたい!>
空飛ぶクルマはなんと4年後にデビュー。空の夢物語を可能にする、JALのDX(前編)

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