とある市場の天然ゴム先物 25
RSS3先物の対象となる天然ゴムの商品スペックを見てみる
第11回では天然ゴム先物取引の対象となる天然ゴムについて、第16回ではTSR20先物の受渡対象となる承認工場について取り上げました。
今回は、取引開始から70年近い歴史を持ち、大阪取引所の主力商品の一つでもあるRSS3先物について、その対象となる天然ゴムの商品スペックをもう少し掘り下げて見てみることにします。
RSS3先物 受渡供用品の要件
大阪取引所の天然ゴム先物では、取引最終日までポジションを持っている場合、売り手が現物の天然ゴムを用意して、買い手に渡すことによって最終決済をすることになります。これを「現物受渡し」と言います。
このとき、売り手が渡す天然ゴムはどのようなものでもよい、という訳ではなく、「こういったスペックの天然ゴムを渡してくださいね」というものが定められており、このスペックの要件を満たしている天然ゴムを「受渡供用品」と呼びます。
このRSS3先物の受渡供用品となる天然ゴムの要件などについては、大阪取引所の規則等によって規定されています。そこで少し細かくなりますが、備忘メモの意味も兼ねて書き振りを見てみましょう。
まず大阪取引所の業務規程第7条の3の2号において、RSS3先物の標準品(先物取引の元となる商品)は「国際規格によるRSS3号に該当するもの」とされ、受渡供用品は、第36条の4で「各市場ごとに本所(大阪取引所)が定めるものとする」とされています。
この受渡供用品につき、「本所が定め」ているのは業務規程施行規則第32条2号aとなり、そこでは「国際規格によるRSS3号及び同4号のうち本所(大阪取引所)が定める要件を満たすもの」と書かれています。
この「本所が定める要件」の詳細については、商品先物取引に係る受渡済関係事務処理要領に記載されていまして、まずIV.1.(1)①において、受渡供用品は「国際規格によるRSS3号及び同4号とし、業務規程施行規則第 32 条2号aの規定に基づきOSEが定めるRSS3号に対する同4号の格差は1キログラム当たり 3.0 円下げとする」と表現されており、加えて受渡しに使うことのできる期限や重量、包装についてなどが細かく規定されています。
ただし、ここまででは「国際規格は具体的に何を意味しているか?」は書かれておりません。
こちらについては、同事務処理要領の「参考11 受渡品の検品方法」において、RSS3の受渡供用品の検査時における品質及び外装の判定は、「天然ゴム各種等級品の国際品質包装標準(International Standards of Quality and Packing for Natural Rubber Grades、通称「グリーンブック」)」を基準とし、日本ゴムトレーディング協会が定める「シッパー及びパッキングハウスの登録制度」に基づき行うものとされています。
受渡供用品は実際の受渡しまでに検品または検量を行い、検査証明書を取得する必要がありますが、この(JSCCの)検品時において求められる品質基準が「グリーンブック準拠」、業者の基準が「登録制度で登録された業者が取り扱うもの」となっており、これがRSS3先物の受渡供用品となる天然ゴムの実質的な基準となっています。
グリーンブック制定の経緯などについては第11回で詳しくまとめていますが、このグリーンブック内において、RSSについては「第2章 天然ゴムの国際品種および等級明細」、「第5章 天然ゴム包装規格」などで規定されています。
ところでここからは余談となりますが、RSSはその製造過程において、シート状で乾燥したゴムを重ね合わせて約 50cm角の立方体にプレス成形し、外側はダスティング処理(粉打ち)をされます。そしてこの1塊の単位のことを「ベール」と呼びます。
ベール単位で倉庫に保管されているRSS
グリーンブックの「第5章 天然ゴム包装規格」のSection1 (b)において、RSSの包装単位である1ベールあたりの重さは最低101.7kg、最大113.5kgであることが定められており、もし買い手の契約書で明示されている場合はそれ以下の重量も認められる、という記載になっています。
昨今よく議論になっているのが、このRSSのベールの重さです。TSRなどでは、スモールベールと呼ばれる、重量が約三分の一のサイズが一般的であるところ、RSSはまだ100kg超のベールであることが多く、これだけの重量は運送や保管の際にリスクがあることから、改善を求める声が出てきています。
ちなみに先ほど見たように、大阪取引所のRSS3先物は国際規格に準拠していますので、受渡供用品は100kg超のベール単位が前提となっています。
もしスモールベールをRSS3先物の受渡供用品の要件として入れる場合、グリーンブックの改訂を働きかけるか、何らかの形でスモールベールの基準を取引所の規則上などで手当てする必要が出てきます。
グリーンブックは1979年に更新されて以来、現在までアップデートされておらず、組織としての活動もほとんど止まっていますので、スモールベールをRSS3先物の受渡供用品とする場合には、規則上などで手当てを行う方が現実的かもしれません。
とはいえ、スモールベールを追加する場合、受渡供用品に重量の違うRSSが混在することになりますので、受渡しの際に先物の買い手にどのように割り振るのかといった問題や、またそもそもの先物価格や受渡単位をどのように調整するのか、といった論点も数多く出てきます。
したがって、RSSのスモールベール化を進めるにあたっては、投資家の需要や制度変更による実務上のインパクトなどを詳細に確認しながら、しっかりと検討していく必要があることになります。
シッパー及びパッキングハウスの登録制度
さて、少し脱線してしまいましたが、次にRSS3先物の受渡供用品の要件になっている、「シッパー及びパッキングハウスの登録制度」を見てみましょう。
まずここで「シッパー」は原産地国における輸出業者のことを言い、農家が生産した天然ゴム原料をディーラーから購入し、その処理施設(スモークハウス)で燻煙し、RSS として選別、格付けしたうえ、パッキングしたのちに輸出します。
この過程のなかで、コーティングやマーキングなどを含めたパッキング業を行う場所がパッキングハウスであり、その業務を行う業者のことを「パッカー(プロセッサー)」と言いますが、通常はシッパーがパッカーも兼ねるケースが一般的です。
タイにおける天然ゴムの流通経路
さて、シッパー及びパッキングハウスの登録制度ですが、1979年から80年にかけ、タイの特定のパッカーからの荷口について、燻煙・乾燥不足や金属片等の異物混入などが相次いで発生したことから、1981年より当時の日本ゴム輸入協会(現・日本ゴムトレーディング協会)が導入したという経緯があります。
現在登録されているシッパー、パッカーですが、制度導入の経緯から全てがタイの業者となっており、リストに掲載されているシッパーは23社、パッキングハウスは43ヶ所となっています(2021年10月現在)。
また登録の運用について、日本ゴムトレーディング協会の申請登録要綱によると、①原則当会会員経由であること、②シッパーとして取引の信頼性、製品の品質を評価できる実績を有すること、③日本国内での実績を有すること、④申請は、当会の所定の申請様式を使って当会会長あてに申請をすること、とあります。
シッパー及びパッキングハウスの登録リスト
リストに掲載されているシッパーの特徴として、ほとんどがタイゴム協会(The Thai Rubber Association, TRA)の会員であり、また地理的には、下図の青色で示されているようにタイ南部にパッキングハウス所在地が集中しており、特に濃い青色のソンクラー県やナコーンシータンマラート県(共に南部)、ラヨーン県(中部)が特に多くなっています。
登録パッキングハウスの所在地(タイ)
このように登録されているパッキングハウスがタイ南部に集中しているのは、歴史的にタイ南部が天然ゴム生産の中心であったことが挙げられます。実際、タイゴム協会に登録されている46社のうち、本社が最も多いのは首都バンコクと同率で南部のソンクラー県であり、続いて南部のナコーンシータンマラート県や中部のラヨーン県となっています。
TSR20先物の承認工場の追加の際にもありましたが、最近ではタイ北部での天然ゴムの生産も伸びていますので、今後RSS3先物の対象となるパッキングハウスを拡大して欲しいという話が出てくるかもしれません。
さらに、現在の登録制度はタイの業者が前提になっていますが、ベトナムといった他の国の天然ゴムを受渡供用品として欲しいといったニーズも出てくるかもしれません。実際、中国やシンガポールの先物市場では複数国産の天然ゴムが受渡供用品として認められています。こうした他国産のゴムを受渡供用品として追加するためには、こちらも規則上の手当てなどが新たに必要になると思われます。
何れにせよ、天然ゴム先物の受渡供用品となるには、何よりも実際にその天然ゴムを使用するユーザーがその品質を信頼することが第一です。したがって、今後シッパーやパッキングハウスの追加といった案件が出てくる際には、状況をしっかりと確認したうえで、業界全体で調整をしていくことが重要になるでしょう。
※次回の更新は2021年11月9日(火)頃の予定です。
【もっと知りたい方に!】
International Standards of Quality and Packing for Natural Rubber Grades (The Green Book)
The Thai Rubber Association
日本取引所グループ「定款等諸規則/諸規則内規」
日本取引所グループ「商品先物取引に係る受渡決済関係事務処理要領」
日本ゴム輸入協会「日本ゴム輸入協会記念誌 40年のあゆみ」「50年のあゆみ」
(著者:大阪取引所 デリバティブ市場営業部 矢頭 憲介)
(東証マネ部!編集部)