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BtoB企業・トプコンは、なぜ精密光学機器メーカーから世界的なDXの旗手になれたのか?(前編)

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60代以上の読者なら、トプコンをカメラメーカーとしてご存じかもしれない。実際、1980年までは民生用のカメラを製造していたが、もともとはBtoB企業。現在はいち早くDXの先鞭をつけ、BtoBの取り組みのなかで売上高約1500億円にのぼるグローバル企業に成長した。その歴史とブレイクスルーは、チャンスを確実に掴むベンチャースピリットによるものだった。

太平洋戦争を約10年後に控えた1932年。世界中で戦争の火種がくすぶり続ける情勢のなか、現在のトプコンである「東京光学機械株式会社」は産声を上げた。陸軍省の要請で、測量機を国産化するための国策企業だ。創業を引き受けたのはセイコーを築いた実業家として知られる服部金太郎だという。

もともとは軍需用の測量機を作る光学機器メーカー

「大戦前の測量機はほとんどがヨーロッパ製でした。地図製作や、都市や道路建設の為、測量機の国産化は戦略的にも重要な意味がありました。また同じ光学技術を活用して、双眼鏡や照準器なども製造しており、戦時中のピーク時には7000人もの従業員が従事していたと聞いています。

こう語るのが、執行役員で広報・IR室長の平山貴昭さんだ。日本やドイツ、世界の名だたる光学機器メーカーは、軍需産業由来であることが多い。そして戦後、民生用に乗り出していく点も共通している。

「戦後、光学技術をベースに事業を多角化していきました。眼科医療機器などは戦後に始めました。カメラのほか、工業用顕微鏡や半導体検査装置なども製造していました」

1938年に造られた地上標定機

ジャパンアズナンバーワンといわれ、敗戦の意趣返しのように日本経済が存在感を増していく70~80年代、トプコンも建設現場などで使われる測量機や、眼科用医療機器などのオプトメカトロニクス製品の海外への輸出を中心に業績を伸ばしていった。

そして90年代、トプコンに大きな転機が訪れた。舞台はアメリカだ。

「これは面白い!」と目を付けた分野に、思い切って大規模投資

「近い将来、建設現場は自動化されるだろうと考えたベンチャー企業のオーナーがいました。建機を自動制御するためには位置情報が必要です。そこに当社が作っている測量機をセンサーとして使用していたのです。当時営業を担当していたレイモンド・オコーナー(現 専務執行役員兼米国子会社社長)は、『これは面白い』と唸った。当初は『建機の自動化にセンサーが使われるならうちの商品が売れるよね』くらいのノリでした。しかしそのオーナーのビジョンはユニークで具体的であり、夢を感じました。確かに建設現場はアナログで、熟練のオペレーターが現場に打たれた杭を目印に建機を操作している職人技の世界でしたので、我々も将来デジタル化される要素が十分あるとイメージが持てたのです。そこでそのオーナーが描く未来に賭け、その会社を買収したわけです」

 

1994年当時、建機の自動化ソリューション視察の光景

この決断はまぎれもない転機で、トプコンがグローバル市場でM&Aに乗り出すきっかけになった。それはハードを売る企業から、ソフトを組み合わせたソリューションプロバイダーとしての躍進につながる。

「これを皮切りに、当社の技術を活かせるような周辺技術でユニークな特徴を持つ企業を見つけて買収していきました。GPS(米国)やGLONASS(ロシア)の衛星情報から精密に位置を計測する技術を持つ米国の企業や、豪州の精密農業技術を持ったベンチャー企業などを買収したのです。以降積極的なグローバル化により、現在の海外事業比率は8割にも及びます」

建設機械にトプコンのシステムを後付けで搭載すれば、熟練の技術者でなくても工事がスムーズに進む。かつてないBtoB商品が生まれたのは98年。世界で初めて3次元座標データで建設機械を自動で制御するシステムがリリースされた年のこと。しかし、最初は見向きもされなかったという。

新たな概念を普及させる難しさと、他社が真似できない強み

「現場の作業員からは『効率化もいいけど、うちは昔からのやり方で十分だよ』と。そこで建設会社などのオーナーに直接アプローチしました。このシステムを導入すると、これだけ生産性や品質が向上し、経営も効率化できるとアピールしたのです。しかし現場は『仕事を取られる』と思ってしまいます。このシステムのメリットはデジタル化、自動化により、熟練のスキルが無くても建機の操作が簡単にできるということなのです。米国、ヨーロッパでは2000年代から事業が立ち上がり、日本でも2016年の国交省提唱のi-constructionを皮切りに火がつき始めています。新興国と呼ばれる国々もまだ少し時間は掛かりますが、これから需要が高まるでしょう」

意外にも、日本では建機の自動化は普及し始めたばかりというが、近い将来に確実に起こるDX化に先鞭を付けた優位性は大きい。高齢化や熟練者不足は世界レベルで進んでいるのだ。

しかし建設現場のDX化といっても、トプコンは建機メーカーではない。たとえばクルマではかつてはAVメーカーなどの他社製ナビが載せられたが、近年では自社製品に制御システムを備えた純正ナビが標準搭載される時代になっている。建機の世界でも同様に、自動制御システムに純正品があらかじめ備え付けられる……というほど、単純な話でもないらしい。

トプコンが持つ膨大な特許の数々

「弊社の計測に使用するGPS測位データは測量用に解析されたものでありカーナビやスマホのものより高精度です。建設現場のワークフローである、測量、設計、施工、検査のプロセスで設計図面通りに精度良く仕上げるためには、精密な測量データが鍵となります。そのコアな精密測量の技術を有しているのが当社です。我々のように測量から建設工事のプロセスすべてをデジタル化し、自動化を推進している企業は世界でも当社を含め3社しかありません」

躍進の理由は「89年もの伝統を持つベンチャー企業」だから

つまりトプコンは、世界中の建機におけるDX化のキープレイヤーの一社なのだ。そして今後さらに存在感を増していきそうだ。

「90年代から積極的な海外ベンチャー企業の買収を重ね、売り上げは約3倍に伸長しました。それまでのハード売りから、ソリューションプロバイダーに転身し、これからもDXを推進していきます」

この一連のブレイクスルーを間近で見てきたのが、ほかならぬ平山さんだ。軍需産業という出自から、ルーツである光学機器技術を大事に育てる企業は少なくないが、トプコンは本流の傍らにブルーオーシャンを見つけて飛び込むことができた。その理由をこう語る。

「弊社はBtoBに特化し、グローバルに事業を展開していますが、「モノづくり」の観点でいうと創業来新しいものにチャレンジし、社会に貢献しようというスピリットがあるんだと思います。90年代半ばからの成長シフトを牽引した現社長である平野は当社を『89年の伝統あるベンチャー企業』と表現しています。つまり、歴史を重んじながらも、ベンチャー的精神を忘れない会社であってほしいということ。面白いと思うことに飛びついたのが94年で、そこからさらにワクワクする方に舵取りをしていった。そういうチャレンジスピリットがあり、それを後押しするカルチャーがあるということなんです」

(後編に続く)

 

(執筆:吉州正行)

<合わせて読みたい!>
ブルーオーシャンを突き進む!BtoB企業・トプコンが打つ、次の一手の数々(後編)

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