BtoB企業の知られざる大決断

ブルーオーシャンを突き進む!BtoB企業・トプコンが打つ、次の一手の数々(後編)

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戦前に陸軍向けの光学機器メーカーとして誕生したトプコンは、光学技術の枠組みから事業を広げ、今や各分野でDX化のイノベーションのキーを握るグローバルBtoB企業へと成長を遂げた。測量機器で培った精密な測位技術をベースに、“建機の自動化”という概念を世界でいち早く実現させたのだ。それだけでも大仕事だが、そこで満足しないのがトプコンという企業である。

トプコンは、注力する成長事業に「医・食・住」という3分野を掲げている。

「医」のヘルスケアの分野では、世界的な高齢化に伴う眼疾患の増加や医療費の高騰を社会的な課題ととらえている。眼疾患の早期発見や早期治療を目指した眼科健診(スクリーニング)への取り組みを進めている。執行役員で広報・IR室長の平山貴昭さんに詳しく語ってもらった。

専門性の高い眼科健診を自動で行うスグレモノを開発

「医療機器は安定した需要が期待できる事業分野です。幸い弊社は戦後から眼科用医療機器を製造してきて、世界各国に幅広い販売網を持っています。建設のDX化などの成功体験を踏まえ、眼科医療機器の分野でもビジネスを飛躍させる方法はないかと、取り組みが始まりました」

日本における眼科診療は専門外来などに足を運ぶ必要があるが、海外では比較的身近なものだ。たとえば欧米では眼鏡店やドラッグストアでも、簡易的な眼の健診が受けられるという。

「眼科での一番大きな市場は手術・治療機器分野です。しかし巨大な医療・製薬メーカーなどがすでに進出したレッドオーシャン。弊社の狙いはブルーオーシャン市場の創造です」

こうしてトプコンが作り上げたのが、緑内障などの眼疾患をフルオートで検査できる医療機器。これを海外の眼鏡店などの店頭に設置するだけで、簡単なオペレーションで専門性の高い眼科健診を受けられるというシロモノだ。

「25年前から建設現場のデジタル化をゼロから作り上げてきた、産みの苦しみを経験しているからこそわかりますが、既存市場を変えることは一朝一夕にはできません。眼の健診(スクリーニング)、眼疾患の早期発見・早期治療のニーズが高まっているために必要だとはいえ、各国にはそれぞれ規制があり、市場はすぐにできません。国や地域のレギュレーションによって許可を取得するには臨床試験で安全性を担保する必要があり、それには時間やお金だけでなく様々なノウハウも必要です」

農業の工場化という革命的なコンセプトを実現できるソリューション

また、「食」は今後飛躍的な成長が見込まれる分野だ。世界的な人口増加により、将来的な食料不足への懸念が取り沙汰されるなか、農業や酪農の効率を飛躍的に高める技術もトプコンは保有している。

「農業のDX化は、建設の応用からスタートしました。GPSはカーナビやスマホなど今やさまざまなものに利用されていますが、もともと軍事利用が目的でした。商用利用が認められ、測量用途に使用されるようになったのは90年代のことです。GPSによる精密測位の技術を応用してIT農業の分野に本格的に進出したのは、2006年にオーストラリアの精密農業ベンチャー企業を買収してからです。私たちのコア技術を活かせる分野を考えたときに、農機の自動化というアイデアはすぐに出てきました」

こうして生まれたのが、 “農業の工場化”というコンセプト。工場のファクトリーオートメーションのように、機械化・自動化できる部分は人の作業を排除し、計画から収穫までの農業サイクルにおいて最大限の生産性を生み出すというものだ。

このように、トプコンのソリューションで共通しているのはデジタル化や自動化、IoTによるネットワーク化といったキーワードだ。データを一元的に管理し、従来人の手で行っていたものを効率よく進めるためのノウハウを持っているということなのだ。それは「住」においても同様。

建築分野も、トプコンのDXで可視化

新興国でインフラ需要が高まり、人手や技能者不足の深刻化が進んでいる。建機が活躍する施工現場で自動化を推進してきたのが、90年代におけるトプコンのブレイクスルーだ。GPSやIoTで、土木工事現場のDX化を進めてきたトプコンが次に狙いを定めているのが、建築分野だ。

「建設には土木のみならず建築、ビルディングコンストラクションも含まれます。

この分野でも施工現場では、デジタル情報や自動化を活用する余地がまだ多くあります。設計のプロセスではBIMが活用されていますが、作業現場との連携という面でまだ課題が多く、当社のDXソリューションが提案できると考えています。この建築工事のDXを中長期的な成長分野として位置付けています」

建築工事におけるDX事業は伸びしろの宝庫だとか。日本の光学機器メーカーは、成長事業が減り伸びしろが少なくなってきている。しかしトプコンは社会が抱えている問題に対して、課題解決を行うというビジネスモデルを構築できたことで、将来性をつかみ取った。

「ただ過度な期待はいけません。市場をゼロから作り上げていくのはものすごい労力と時間がかかる。しかしその先には間違いなくブルーオーシャンがある」

一方で、コロナ禍の影響もあった。未曾有のイベントリスクは、トプコンにも少なからぬ影響をもたらしたという。多くの企業同様、テレワークやウィズコロナでの営業活動はグローバルで常態化し、多様な働き方を求めるきっかけになった。しかし業績に対してはネガティブな要因だ。

コロナ禍でも影響は比較的軽微。トプコンの強さと将来性

「2020年の第1四半期は中国から感染が拡大し、欧米でロックダウンがありました。その影響は甚大でした。特にアイケア事業ではエンドマーケットであるメガネ屋さんから病院、眼科クリニックがストップし、お客さまの購買が動かない事態に陥りました。ただ第2四半期以降の回復ペースは予想以上でした。建設や農業、また眼科の分野も、生きていくうえで必要なエッセンシャル分野です。そういった背景から、需要の回復が早かったと考えられます」

生活インフラに近い市場として、またしてもトプコンの取り組みが功を奏したわけだ。

「コロナの影響をまったく受けず、イベントリスクに強いとは言い切れませんが、このことで潮目が変わりました。労働力不足から、建機や農機の自動化技術が採用されていく。企業がDXに踏み出すきっかけになっているとも思います」

社会的な潮流に後押しされ、トプコンは追い風のなかでブルーオーシャンの航海を続けている。近い将来、トプコン=DXとして、あらゆる産業でその名を目にする日が訪れるかもしれない。そのときに「もともと精密光学機器のメーカーです」といわれても、誰が信じられるだろうか。大胆な転身を重ねてきたこの姿勢は、伝統的な日本企業とは一線を画すユニークな姿に思える。

(執筆:吉州正行)

<合わせて読みたい!>
BtoB企業・トプコンは、なぜ精密光学機器メーカーから世界的なDXの旗手になれたのか?(前編)

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