マネ部的トレンドワード

街づくりやヘルスケアの事業に進出

ソフトバンクが進めるのは「日本のDX」。通信の枠を超えた新ビジネスを続々展開

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DXという言葉を近年よく見かけるが、ひとくちにDXといっても、自社の事業をデジタルやテクノロジーでアップデートするケースもあれば、ほかの企業や既存の産業に自社の技術を注入し、DXを後押しするケースもあるだろう。

後者に取り組んでいるのが、ソフトバンクだ。同社は、街や社会のDX、あるいはヘルスケアという既存産業のDXを積極的に行っている。さらに、5G技術で他の企業や産業のDXを支援する取り組みも行ってきた。その活動が評価され、経済産業省と東京証券取引所が選定するDX銘柄2021にも選ばれている。

通信事業者の枠を超えて、DXの支援役として存在感を高めるソフトバンク。市場に起きている潮流を深掘りする「マネ部的トレンドワード」。DX編の今回、ソフトバンクの行う取り組みを取り上げる。

リアルタイムのデータで街の価値を高める。「スマートシティ竹芝」とは

最初に紹介したいのは、街や社会に対するDXの取り組みだ。ソフトバンクは、東急不動産と共同で、2019年7月から最先端テクノロジーを街全体で活用するスマートシティのモデルケース構築に取り組んでおり、その延長として「スマートシティ竹芝」というプロジェクトを進めている。

「プロジェクトは3つのフェーズに分かれており、①ビルのスマート化、②竹芝エリアのスマート化、③竹芝エリア周辺のスマート化という流れを想定しています。①はすでに実現しており、東京ポートシティ竹芝に1400個以上のセンサーを設置。ビル内の人流や混雑情報、あるいはAIが解析した来場者の性別や年代といった情報を、ビル内のテナントなどにリアルタイムで提供しています」

こうプロジェクトを説明するのは、ソフトバンク 法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部 第三ビジネスエンジニアリング統括部 統括部長の宮城匠氏。

ビル内に設置したセンサーでデータ収集するケースは近年増えており、それ自体は珍しいものではない。ただ、このプロジェクトでポイントになるのは、収集したデータをリアルタイムで分析して活用できること。データ流通のプラットフォームとして開発した「Smart City Platform」がそれを可能にした。

「ビル内のデータと天候などのオープンデータを組み合わせると、例えば店舗の混雑率が低く、かつ突然の雨で屋内に向かう人が増えると考えられる場合にクーポンを配信するなど、状況に応じた集客促進も可能になります」

さまざまなアプリに連携できるのも、このプラットフォームの特徴だ。そのため、アプリやソフトウェアを問わず、データを活用した施策の展開が期待できる。今後、ビルだけでなく竹芝エリアやその周辺のスマート化を進める際にも、街のデータを同じプラットフォームで流通していく構想だ。

スマートシティ竹芝のプロジェクトは、現在、フェーズ②となる竹芝エリアのスマート化にとりかかっており、エリア内にセンサーやカメラを設置していく予定。その進捗は随時アナウンスしていくとのことだ。

24時間365日、健康医療のチャット相談が可能な「HELPO」

次に取り上げたいのが、ヘルスケアという既存産業のDXだ。ソフトバンクは2018年10月、オンラインヘルスケア事業を行うヘルスケアテクノロジーズを設立。同社は「HELPO(ヘルポ)」というアプリを開発した。

HELPOの説明に入る前に、なぜソフトバンクがヘルスケア分野に進出したのか、不思議に思う人もいるかもしれない。ソフトバンクでは、数年前から「Beyond Carrier」戦略を打ち出してきた。これは、通信事業者(キャリア)としての基盤をより強固にするとともに、その領域を超えて新たな事業の立ち上げを目指すものだ。

新事業を考える上で、テーマに据えられたのが社会課題の解決。実は上述のスマートシティ竹芝もこの流れで生まれたもの。同じく、ヘルスケア事業もここで誕生した。

「近年続く医療費の増加や、医師の過重労働は大きな社会課題です。それを解決するひとつの手段は、重篤患者を減らすこと。大きな病気にかかる前に、より初期の段階で病気に対処する、あるいは普段から健康をバックアップできるインフラを作れればと考えました」

立ち上げの経緯を語るのは、ヘルスケアテクノロジーズ代表取締役社長兼CEOの大石怜史氏。そうして、第1弾のサービスとして作られたのがHELPOだ。

「チャットによる健康医療相談をはじめ、病院検索や一般用医薬品のEC購入などができるアプリです。コアサービスになるのが健康医療相談。24時間365日、どんな些細な内容でも相談でき、30秒以内にはレスポンスが返ってきます」

ユーザーの相談に対応するのは、医師、看護師、薬剤師、栄養士、保健師という面々。しかも全員がヘルスケアテクノロジーズの社員であるため、サービスの質が担保されていることが特徴だ。

「オンラインでのチャット相談は、対面とは違うノウハウが必要です。お客さまからの相談に社員が対応することで、HELPOならではのノウハウを構築したいという思いがありました。また、健康に関わることなので、表現なども重要。クオリティコントロールの意味でも内製化が重要でした」

2021年11月からは、新機能として「HELPO 遠隔特定保健指導」の提供を開始。健康診断の結果によって特定保健指導の対象となった人について、ビデオ通話やチャットによる健康指導、健診やウェアラブルデバイスのデータをもとにしたリスク予測などが行える。

「私たちが目指すのは、ヘルスケアのプラットフォームを作ることです」と大石氏。医療だけでなく、未病、介護など、広い領域へのアプローチを思い描く。ヘルスケア領域のDXは、まだ始まったばかりである。

5Gの可能性を企業と模索する場所「5G X LAB OSAKA」

最後に紹介するのは、5Gなどの最新技術を使ったDX支援の取り組み。ソフトバンクは、大阪市、大阪産業局、一般社団法人i-RooBO Network Forumと共同で「5G X LAB OSAKA」を運営してきた。5Gの技術検証や体験ができるスペースがあるほか、5G関連のビジネスを創出するための開発支援やビジネスサポートも行っている。

「企業や自治体とともに、5Gによって可能になるビジネスや施策を考えるほか、実際のサービス開発や実証実験も行っています。大阪市や大阪産業局と連携したことで、ソフトバンクのパートナー企業以外にも、地域の中小企業を含めて、幅広い方に足を運んでいただいています」

そう話すのは、ソフトバンクの法人プロダクト&事業戦略本部 デジタルオートメーション第2統括部 法人5G推進室 パートナー企画課で担当課長を務める日野行祐氏。すでに実証実験に至ったプロジェクトも出ているという。

2021年7月に行われた、5Gを使った歯科手術の遠隔支援もその一例。大阪にいる若手の歯科医に対し、東京にいる指導医がVR・AR映像を通して治療の指導や手術の支援を行った。

「VRなどの高画質映像を送信するには大容量通信が必要です。また遠隔手術は、通信の遅延を最小限にすることが欠かせません。どちらにも強い5Gの特性が生かされた事例です」

今後も「企業や自治体と共創しながら、5Gを使った新ビジネスや事業改善を増やしていきたい」と日野氏。そうして各企業、あるいは各産業のDXを後押しできればと考える。

「特に中小企業の方と多くの事例を作れればうれしいですね。日本企業の99%以上は中堅・中小企業です。それらのDXが進んでこそ、社会全体のDXが実現するのではないでしょうか」

スマートシティ、ヘルスケア、5Gをキーワードに展開する3つの事例。そこに見えるのは、ソフトバンクが社会や産業、企業のDXを後押ししている姿だ。通信事業者(キャリア)の枠を超えて挑む、さまざまな事業。言うなれば、これらは「日本のDX」なのかもしれない。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2022年1月現在の情報です

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