とある市場の天然ゴム先物 30
天然ゴム先物の取引時間の変遷を追う!
2022年に入ってあっという間に一ヶ月が経過してしまいました。光陰矢の如し、時間が過ぎるのは早いものだということで、今回は天然ゴム先物市場の「取引時間」について、変遷やその当時の背景などを見てみましょう。
現在の天然ゴム先物の取引時間
大阪取引所ではRSS3とTSR20の2種類の天然ゴム先物が取引されていますが、その立会取引時間は「日中取引で9:00~15:15、夜間取引(翌営業日の取引扱い)で16:30~19:00」となっています。
これが例えば日経225先物などの指数先物や、金や白金といった商品先物では、「日中取引が8:45~15:15、夜間取引が16:30~翌6:00」となっていますので、特に夜間取引の長さが大きな違いとなっています。このあたりの背景は後ほどご紹介いたします。
JPXデリバティブ商品の取引時間(2022年2月7日現在)
ゴム先物取引所設立からの変遷
日本の天然ゴム先物市場は1952年に設立されましたが、当初の取引はもちろんシステムなどではなく、立会場に人が実際に集まって複数回の板寄せを行う方法でした。
東京ゴム取引所における板寄せ取引の模様
この板寄せによる取引は「単一約定値段による競売買」とも言われ、一定時刻に開始される各場節の売買立会において、売り手と買い手が注文を申し込み、最も多数の売買取引を成立させることのできる単一値段を決定し、条件に合致した全ての注文を単一の値段で約定させるというものです。
この取引方法は厳密には「板寄せ法」と「板寄せザラバ折衷法」の2つがあり、両者の違いは、板寄せ法では取引所の会員が高台にいる取引所職員に対して売りまたは買いの枚数を申し出るものですが、板寄せザラバ折衷法では取引所の会員が他会員との間で直接売買を行い、その取引状況をもとに単一の約定値段が決定されるというものになります。
一般的に板寄せザラバ折衷法の方が市場に活気が出ると言われ、東京ゴム取引所では1952年の開設当初は板寄せ法でしたが、翌年10月より板寄せザラバ折衷法に切り替えられました。ただしその後、1973年6月より再び板寄せ法に変更されています。
なお取引時間(板寄せ時間)ですが、設立以降に何度か変更されています。例えば1953年3月には後場に第3節(15:30)が導入されましたが、これは当時シンガポールの前引相場が15:00頃に入電していたことから、その値段を反映させるための取引時間を用意したという背景があったそうです。
開所以降の東京ゴム取引所の取引時間変遷
なお取引所会員は立会場において相手方を求めて売買を行わなければなりませんでしたが、商品取引員(会員のうち売買の委託を受けることにつき通産大臣の許可を受けた者)については、市場で売買が成立した後の一定時間内の間、委託注文について自己が相手方となって売買を成立させる「バイカイ付出し」が認められていました。ただしこのバイカイ付出しは、商品取引員と委託顧客間の利益相反という点で後年問題視されていくことにもなります。
システム売買の導入以降の取引時間
1991年4月1日、当時の東京工業品取引所の下で貴金属(金、銀、白金)のシステム売買が開始されます。これにより貴金属の取引は株式と同じ板寄せザラバ取引に移行され、合わせて取引時間も変更されることとなります(前場9:00~11:00、後場12:30~15:00。なお後場終了時刻は1991年8月に15:30に再度変更)。
一方、天然ゴム先物は立会場での板寄せ取引が続いていたことから、取引時間が変更されることはありませんでした。
天然ゴム先物がシステム売買による板寄せザラバ取引へ移行されるのは2005年1月4日となります。天然ゴム先物の取引時間は1967年8月から変更ありませんでしたが、この板寄せザラバ取引への移行によって約40年振りに変更され、前場9:00~11:00、後場12:30~15:30となりました。
システム売買への移行前の板寄せ立会いの様子
2000年代に入ると、中国を含めた新興国の急速な経済成長と資源需要の急拡大により海外の主要商品市場では取引が活況となっていましたが、日本の商品市場では2003年の取引高をピークに商いの減少が続いていました。
そこで状況打開のため、当時の東京工業品取引所は、世界最高水準の新たな取引システムの導入、24時間取引の実現を目指すための取引時間の延長、取引制度の変更、株式会社化等を目指していくことになります。
こうした方針に基づき、取引時間については、現行の取引システム下においても出来る範囲でまず取り組むこととし、2008年1月7日、天然ゴム先物を含めて後場の立会時間が2時間延長されることとなります(後場終了時刻15:30→17:30)
2009年5月7日には、NTTデータがシステム・インテグレータとして導入されたNASDAQ OMXの取引・清算パッケージソフトを用いた取引システムの稼働を開始します。それに伴い商品先物の取引時間は日中立会が9:00~15:30(昼休みは撤廃)となったほか、夜間立会が17:00~23:00と大幅に延長されました。
ただし天然ゴム先物の取引時間は他の商品先物と異なり、この新システム導入時に夜間立会は23:00に延長されず、「19:00まで」とされます。
この背景としては、天然ゴム先物取引の中心はアジアの取引所に集中しており、欧米の取引所との間での裁定取引の機会がないこと、天然ゴム先物を取引するプレイヤーもアジア中心であること、当時のアジアの天然ゴム先物は夜間取引をしていなかったことなどが挙げられます。
さらに2010年9月21日には、商品先物の夜間立会の取引時間は23:00から翌朝4:00まで延長されます。
こちらの取引時間延長の背景は、金や原油は国際商品であるところ、ニューヨーク市場の取引市場と重なることで裁定取引の取り込みが可能となること、金の取引高増加の要因となる為替レートの変動が起きやすい時間帯であること、個人投資家の取引が見込めること、などとなります。実際、夜間立会終了時間の翌朝4:00は、当時のニューヨークの原油フロア取引の終了時刻に合わせるという意図があったそうです。
ただし天然ゴムについては前述の背景があったことから、取引時間は「19:00まで」のままで変更されませんでした。
その後、2014年7月22日に、日中取引の終了時間が15:30から15:15に、夜間取引の開始時間が17:00から16:30に変更されます。
2016年9月20日にはJPXの取引システム(J-GATE)を導入することにより、ゴム以外の商品先物はJPXの先物と合わせる形となり、日中立会は8:45~15:15、夜間立会は16:30~翌5:30となりますが、天然ゴム先物の夜間立会は16:30~19:00のままで変更されませんでした。
また直近の変更として、2021年9月21日に天然ゴム先物は従来の東京商品取引所(TOCOM)から大阪取引所(OSE)に移管されることになりますが、この際に取引開始時刻が8:45から以前の9:00に戻されています。
2000年以降の天然ゴム先物の取引時間変遷
今後の取引時間の考え方
さて、それでは今後、天然ゴム先物の更なる取引時間の変更は考えられるのでしょうか?
2009年や2010年の(天然ゴム先物以外の)夜間取引時間の延長において、ポイントとなっていた考え方の一つは「(特に欧米の)海外市場との裁定取引や、価格変動に対するヘッジ機会の拡大」です。
以前にも天然ゴム先物市場はアジアが中心というお話をしたところですが、ここで改めてシンガポール、中国の天然ゴム先物の取引時間(日本時間)を見てみましょう。
世界の主な天然ゴム先物の取引時間(日本時間)
まずTSR20、RSS3先物を上場するシンガポール取引所(SGX)ですが、取引時間は8:55~19:00となっており、日本の日中取引(9:00~15:15)と夜間取引(16:30~19:00)間のインターバルを除けばほとんど重複しています。
一方、成長著しい中国の上海市場(SHFE、INE)では、昼休みが12:30~14:30の2時間あることに加え、2014年12月より夜間取引(22:00~24:00)を開始しています(INEのTSR20は2019年8月の上場時より夜間取引開始)。
SHFEのサイトに掲載されている記事によると、夜間取引導入の背景としては、ゴムの現物市場では先物取引終了後16:00~19:00(日本時間)に取引が活発になり、翌営業日に日本およびシンガポール市場がオープンするまでの間でヘッジ等の取引ニーズがあること、などが挙げられています。
では日本の天然ゴム先物市場は、投資機会の拡大のためにこうした上海市場の取引時間に合わせていくべきなのでしょうか?
まず日本の日中取引と夜間取引間のインターバルですが、この時間帯には清算値段の算出やブローカー側でのオペレーションなどが数多くあり、また他の先物と同様、日中取引終了(15:15)でその日の取引が終了し、続く夜間取引は翌営業日の取引扱いとなりますので、このインターバルを天然ゴム先物のみ無くすというのは、システム的にも運用的にも非常にハードルが高く、現時点では現実的ではありません。
また現在19:00までとなっている夜間取引の延長の可能性ですが、システム導入等で過去に何度か延長できる機会はあったものの、その当時は目立ったニーズは聞こえていませんでした。
むしろ流動性の高い国際市場であるシンガポール市場が19:00でクローズとなるなか、たとえ取引時間を延長したとしても、市場の流動性が薄くなることでむしろ意図しない価格での約定や激しい値動きが生じ、逆に投資家の利便性を損ねてしまうリスクが懸念されていたところです。
こうした観点から、現状では天然ゴム先物の取引時間変更は予定しておりません。
とはいえ、市場環境などが中長期的に変化していくことで、新たな取引時間での需要が生じてくることは十分に考えられます。こうした新たなニーズにもタイムリーに応えることができるよう、今後もマーケットのプレイヤーと意見交換を続けながら、よりよい市場を創っていくように努力して参ります。
※次回の更新は2022年2月下旬頃の予定です。
【もっと知りたい方に!】
JPX「先物・オプションの立会時間」
東京工業品取引所「東京工業品取引所の 競争力強化策について」(2007年 11月9日)
東京ゴム取引所「20年史」
東京工業品取引所「10年の歩み」
東京工業品取引所「20年の歩み」
(著者:大阪取引所 デリバティブ市場営業部 矢頭 憲介)
(東証マネ部!編集部)