【日経記事でマネートレーニング25】データ編~ウクライナ侵攻と「どうなるかわからない」指標

提供元:日本経済新聞社

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このコーナーでは日経電子版や日本経済新聞の記事を題材に、投資のリテラシーや資産形成力の基礎知識を身につけることを目的にしています。

2022年からコンセプトを少し改めて数値やデータの読み解き方にスポットライトをあてていきます。数値情報やデータ分析は客観的な事実(ファクト)ですから報道系記事には頻出します。

データ編の3回目(通算25回目)は「予想変動率(ボラティリティー)」をとりあげます。わかりにくくて難しい印象がありますが、相場を読み解くうえで欠かせないキーワードです。

ロシアのウクライナ侵攻、“ボラティリティー”とどう関係?

2月に入って二六時中、ロシアによるウクライナ侵攻のニュースが伝えられていますが、マーケットの領域でも例外ではありません。株式相場や外国為替、金、原油…あらゆるマーケットがウクライナ情勢の動きに揺さぶられています。

このたぐいの記事でよく目にするのが「予想変動率(ボラティリティー)」ということばです。サンプル記事ではウクライナ情勢緊迫化により株式相場が下がり、予想変動率が上がるという見出しが躍っています。この予想変動率を理解することが株式投資や相場分析の基礎につながります。

予想変動率を字面通り咀嚼すると、これから先どの程度相場が動く(振幅するか)をみるマーケットの指標という意味になります。予想変動率にはいくつか種類があり、日本経済新聞社では日経平均株価の先行きを占う指数として日経平均ボラティリティー・インデックス(以下、日経平均VI)を算出しています。

日本経済新聞社によると、日経平均VIは「投資家が日経平均株価の将来の変動をどのように想定しているかを表した指数」としており、「指数値が高いほど、投資家が今後、相場が大きく変動すると見込んでいることを意味」します。そして、日経平均の先行きとは「現在の市場で見込まれている日経平均株価(日経平均)の1ヵ月先の変動率」になります。

ここで「あれ?」と疑問に思う方がおられるかもしれません。筆者もそうでした。

「相場が変動するのだから上がる可能性もある。株が下がるのはおかしいのでは?」

この点につき、わかりやすく説明した過去の記事や文献が見当たらないので解説しましょう。

株式や通貨はもちろん原油から金、穀物などすべてマーケットはこれらリスク商品の集合体です。相場がどうなるかはリスク要因をどう読み解くか、につきます。リスク要因の評価と相場の相関関係をまとめてみたのが上図で、なかなかうまく伝わったのではないかと自画自賛しています。

株式でいえば、良い材料には価値が増加(株高)、悪い材料には価値が減少(株安)で市場は応えるというふうになるのですが、実際はこのような教科書的な動きにはなりません。悪い材料でも想定より良いとなると好意的な評価がなされるし、良い材料でも事前の期待が過大であれば大きな失望を誘い、市場が崩壊することさえあります。後者の典型がバブル崩壊ですね。

さて、このように考えていくともっとも下がるパターンは何でしょうか。答えは「どうなるかわからず、リスク要因に対する評価そのものができない」状態に陥ることです。

評価不能=どうなるかわからない=の度合いや程度がボラティリティー

評価できない場合、投資家はほぼ確実に資金を退避させます。相場が急落しても適切な評価ができるのであれば「割安」と判定できる場合もありますが、評価不能であればそもそも運用対象になりえないからです。

つまり、予想変動率の実質的な意味はこのどうなるかわからない程度や度合いを表すわけで、予想変動率が上がるほど先行き「悪くなる」のではなく「どうなるかわからない」と読み解くわけです。今回のロシアのウクライナ侵攻では大きな国際紛争に発展する可能性があり、誰も読めない状況になったため、予想変動率が急上昇(投資判断が不可能)して株式相場が下がったわけです。

合点がゆきましたか?文字が意味する「相場の変動」とはだいぶ異なりますね。

同じような状況では、新型コロナ感染拡大の初期局面が典型例です。2020年2~3月の第一波のときは日経平均株価が30年ぶりの大暴落となりましたが、当時は「新型肺炎」などと称して正体や治療薬、予防法もわからず、「どうなるかまったくわからない」局面に陥ったためです。

従って日経平均VIと日経平均株価のグラフを重ねるとわかりますが、両指標はほぼ反対の動きをみせます。

最後にもう一度復習をしましょう。予想変動率は形式的には「相場の変動・振幅の大きさ」となりますが、本質的にはリスク診断の難しさ、もしくはリスク要因への評価・分析のしにくさ、を示す指標だと理解しましょう。

昨年暮れ、筆者は2022年がどんな株式相場になるか、を2回にわたってテレビ番組で解説しました。過去の寅年をさかのぼって探り、「キューバ危機など国際紛争が多い」という経験則(アノマリー)から「びっくり予想」のひとつに「台湾有事」を挙げました。今回、台湾ではありませんでしたが、ロシアのウクライナ侵攻が勃発するとはよもやよもやです。

そして、市場関係者による相場レンジの見通し(下限)ですが、なんとわずか1カ月余りでほぼ全員が外しました。専門家やプロの「よそうはうそよ」は、昨年暮れに配信したJPXオンライン・アカデミー第6回目の「みるみるわかる株式ニュース」で解説したとおりですので、視聴いただいた方はかなり納得いただいたことではないかと思います。

予想変動率をうまく活用することで運用益を得る手法もあります。次回もデータ関連の読み方を学んでいきましょう。

(日本経済新聞社コンテンツプロデューサー兼日経CNBC解説委員 田中彰一)

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