とある市場の天然ゴム先物 32
【4月4日】天然ゴム先物の市場流動性が改善予定!
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第29回の記事では、2021年の天然ゴム先物市場の動向を振り返りました。
その際、RSS3先物の取引高や取組高(建玉残高、投資家が保有しているポジション)が減少を続けていること、そして市場の縮小トレンドを止めるために何らかの対応策が必要ということをお話しました。
この対応策について、大阪取引所では具体的なプログラムを取りまとめて4月4日より実施予定です。今回は2022年に入ってからの市場動向も振り返ったうえ、この新たに導入されるプログラムと期待される効果についてご紹介します。
2022年に入ってからの市場動向
2021年の市場動向の特徴の一つ目は、取引高が大きく低下したことです。
2021年の一日平均取引高は2,995枚であり、前年の4,464枚から大きく減少しています。2016年には10,000枚近くあったことを考えますと、市場縮小が顕著となっています。
RSS3先物価格(第6限月)、取引高推移(2021年1月~2022年3月)
2022年に入りますと、特に2月中旬から一時250円を超える動きを見せたことで、ある程度の商いを伴いながら相場が上昇しました。しかしウクライナ情勢で急騰を続ける原油や他のコモディティを尻目に、中国の天然ゴム先物市場が下落したことで、結局は元の価格水準まで戻ってきてしまいます。
その後は薄商いとなり、3月18日までの2022年の一日平均取引高は2,866枚と、2021年の水準よりもむしろ低くなってしまっています。
では誰が取引を減らしているかという点が気になるところですが、ここで投資家の主体別の取引高を集計した統計である「投資部門別取引状況」を見てみましょう。
RSS3先物 投資部門別取引状況(月次、売買合計)
前回では2021年2月以降に個人投資家(専業の国内ディーラーも含む)のシェアが下落しており、結果として海外投資家のシェアが増加していることをお伝えしましたが、2022年に入ってもその傾向は継続しています。
こちらはあくまでもシェアのデータですので、取引高全体が落ちていることで最大シェアの海外投資家も取引高自体は減っているのですが、それ以上のペースで個人投資家の取引が落ち込んでいることが分かります。
また前回、2021年の市場動向の特徴の二つ目として、投資家が新しく積み上げたポジションの合計である取組高(建玉残高)が大きく減少したことも取り上げました。
2021年に入り取組高の水準はじりじりと減少しており、7月に一度切り返したものの、10月以降に急減少して10,000枚を割り込み、2021年12月末で8,420枚まで落ち込みました。年末時点で取組高が10,000枚を割り込んだのは、2022年3月現在で203巻まで発刊されている漫画、「ゴルゴ13」の連載が開始された1968年以来となります。
RSS3先物 取組高推移
2022年に入ると、取組高は1月17日に7,891枚と8,000枚をも割り込むこととなります。2月に入って相場も上向きになったことで一時11,000枚まで回復しますが、相場が息切れをしたことでフローの流入は続かず、3月に入って再び1万枚を割り込んでしまいました。
市場流動性の減少
ここまで見てきたとおり、2022年に入っても取引高や取組高といった市場動向の下落トレンドには大きな変化は起きていません。
この間、例えばシンガポール市場のTSR20先物についても、取組高が2021年末の49,044枚から2022年3月18日には39,424枚に減少しています。他のコモディティが大きく値上がりするなか、上海の天然ゴム先物価格はずるずると下落を続けており、グローバルで天然ゴム先物の盛り上がりが欠けているという面は確かにあるでしょう。
とはいえ2021年からの取引高、取組高の減少はトレンド傾向となっており、ここにはやはり相場動向以外の要因も潜んでいそうです。
そこで市場参加者の方々にお話を伺ってみますと、特に国内外のディーラーや個人投資家の多くの方から、「もちろん相場動向の影響は大きいものの、市場(取引所の立会内)の流動性が落ちてきていることから、発注の手控えや発注量を減らすなどしており、それが市場流動性全体の減少に更に拍車をかけているのでは・・・」といったご指摘を頂きました。
そこでスナップショットではありますが、例としてRSS3先物で最も流動性のある第6限月の実際の取引状況(板状況)を見てみましょう。
RSS3先物(第6限月)の板状況
市場の流動性を測る指標はいくつかありますが、ここでは売注文と買注文の差である「スプレッド」を取り上げてみましょう。
2021年3月1日では、最優先の売注文の値段が271.5円、買注文の値段が271.2円ですので、その差であるスプレッドは「0.3円」となります。このスプレッドが小さいほど投資家は安い(高い)値段で買え(売れ)ることになりますので、市場流動性が高い状況であるといえます。
2021年12月1日ではスプレッドは「0.5円(241.5円-241.0円)」となっていますので、3月の時点よりも広がっている様子が分かります。
もちろんこの板状況はあくまでも一時点のスナップショットであり、注文状況は刻一刻と変化しますので、トレンドの把握にはこのスプレッドの中長期的な動向を確認する必要があります。
とはいえ、このスプレッドについては特に海外投資家やディーラーなどを中心に、「今までは0.3円から広くても0.5円くらいだったものが、最近では0.5円、更にはもっと広い水準になることもある。さらに板状の注文数量が少ないため、以前と比べて値動きが軽くなってしまっており取引しにくい」といった具体的な指摘を受けているところです。
例えば相場状況など、取引所としてはどんなに頑張っても改善することができないことも多々あるのですが、こうしたスプレッドなどについては対応策が考えられるところです。
市場流動性回復のための対応策
それではこうした市場流動性の改善にはどのような対応策があるのでしょうか。その鍵となるのは「マーケットメイカー制度」です。
マーケットメイカーとは継続的に市場に売注文と買注文を同時に提示して、市場に流動性を供給し続けるスタイルの投資家となります。こうしたマーケットメイカーは、大阪取引所が定める条件で売・買注文を継続的に出し、条件を満たせばインセンティブを受け取ることができる仕組みとなっています。
従来のRSS3先物のマーケットメイカー制度では、取引の中心である第5限月、第6限月が対象について、マーケットメイカーの気配提示義務である売注文と買注文の最低スプレッド幅は0.9円(9ティック)でした。この制度の下で、2021年3月22日現在では2社がマーケットメイカーとして登録されています。
これらのマーケットメイカーは現状の制度においても流動性を提供してくれていますが、取引の減少トレンドを止めるには、スプレッド状況について更なる改善を目指す必要があるところです。
そこで大阪取引所では、2022年4月4日より、より狭いスプレッドで第5限月、第6限月に売・買注文を発注してもらうための、新たなマーケットメイカー制度を導入いたします。
RSS3先物に新たに導入されるマーケットメイカー制度と気配提示例
従来の制度では、マーケットメイカーは売り注文と買い注文のスプレッドが0.9円(9ティック)の範囲で、最低5枚の注文を出す必要がありました。
これが新しく導入する制度では、マーケットメイカーが注文を出すスプレッドは「0.5円(5ティック)」となります。ただしマーケットメイカーとしても条件が厳しくなることから、最低注文数量は3枚としています。
こちらの新たに導入される制度について、複数のマーケットメイカーが4月4日からの参加に手を挙げており、着々と準備を進めているところです。
従いまして、順調に進めば「2022年4月4日の日中取引(9:00~15:15)より、RSS3先物の板の気配提示状況の改善が実現する」予定となっています。
なお取引高や取組高などが増加していくためには、こうした市場流動性の改善だけでなく、相場環境の好転や投資家層の拡大といった様々な条件が必要になってきます。
そして先ほどもお伝えしましたが、こうした市場の振興は取引所の力や制度変更だけでなんとかできるものではない、というのが実情です。実際、今回新たに導入する制度につきましても、趣旨に賛同してくれるマーケットメイカーの協力や尽力なしには実現できません。
1952年の取引開始から70年近くの歴史を持つ天然ゴム先物の灯を消さぬよう、今回の市場流動性の改善を起爆剤とするためにも、引き続き市場に参加する皆様と力を合わせて市場振興に取り組んで参ります。
なおRSS3先物の価格状況(最低20分遅れとなります)は「こちらのJPXウェブページ⇒商品先物価格情報(OSE)⇒ゴム(RSS3)先物」で見ることが出来ますので、4月4日以降、改善予定のRSS3先物の第5限月、第6限月のスプレッド状況をご覧頂けましたら嬉しく思います。
※次回の更新は2022年4月上旬頃の予定です。
【もっと知りたい方に!】
JPX「マーケットメイカー制度」
(著者:大阪取引所 デリバティブ市場営業部 矢頭 憲介)
(東証マネ部!編集部)