インタビュアー小島瑠璃子、お金の話聞いてきます!「東証の競合にあたる会社ってあるんですか?」

こじるりが聞く!「東京証券取引所のお仕事」と「これからの株式投資」

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前回、東証Arrowsを見学し、日本の株式市場の歴史を知った小島瑠璃子さん。案内してくれた東京証券取引所 金融リテラシーサポート部の長谷川高顕部長とのトークが盛り上がったので、その様子をお届けしよう。

東京証券取引所が行っている仕事の話から、この春に変化する制度の話まで、投資家として知っておきたい情報がたくさん飛び出した。

「上場会社の審査」「投資の啓発活動」さまざまな東証の仕事


小島「東証Arrowsという象徴的な場所を見学させていただきましたが、東京証券取引所のお仕事は取引所の運営や取引のためのインフラの整備が主ですか?」

長谷川「市場を開設してインフラとして適切に運用していくことは、東証の大切な仕事です。ただ、それだけではなく、東証の仕事は多岐にわたります。例えば、上場を希望する会社の審査を行うことも仕事の1つです。上場するということは、その会社にとっては信頼性や知名度が向上する、資金調達が有利になるなどメリットがあります。そして、不特定多数の投資家がその会社の株券を売買できるということになりますので、投資家保護の観点から、その会社に上場の適格性があるか、一定の基準を設けてしっかりとした審査を行うことが必要なんです」

小島「どのような部分を審査するのでしょう?」

長谷川「発行する株式の数や株主の数といった形式的な項目のほか、その会社の事業の継続性や収益性、経営の健全性、さらには重要な会社情報がきちんと公表される体制が整っているか、といったことを審査しています。ちなみに、上場審査は、東証からは独立した立場から行われることになっています。上場会社が増えるということは、これを商店に例えると商品が増えることになりお客さんも増えるので、東証自身を利することにもなります。しかし、単純に増やせばよいということではありません。投資した会社が上場後すぐに倒産してしまったり、上場会社としての責任を果たせないようでは、投資家にとっては不利益しかないので、公正・中立の目でしっかりと審査が行われるのです」

小島「だから、上場するのは大変なんですね」

長谷川「そうなんです。そのほかに、東証には売買の決済という仕事もあります。株券を買った人は売った人に代金を支払い、株券を売った人は買った人に株券を渡す必要があるわけですが、これらの受渡しの業務をグループの会社が行っています」

小島「決済業務も東証さんが担当するんですね。ふと思ったんですが、日本銀行は日本の経済に合わせて、お金の量を調整するじゃないですか。東証さんも、株価の変動を調整したりするんですか?」

長谷川「東証はあくまで株式を取引する場を提供する組織なので、株価をコントロールすることはできません。もちろん株価の監視や不公正な売買がないかといった審査は行いますが、経済状況に合わせて株価を調整するといったことはないんです」

小島「取引所を提供するサービス業というイメージですね。もうちょっと金融業寄りだと思っていました」

長谷川「いわゆる金融機関である銀行や証券会社は、皆さんから集めたお金をもとに、投資先や金額を独自に判断して、投資・運用しています。一方、東証は東証自身が投資・運用するのではなく、投資家の運用や会社の上場などの機会を提供することが役目なので、小島さんがイメージされている金融機関とは異なるかもしれませんね」

小島「そうですね。誤解が解けた部分もあって、今日初めて東証Arrowsに足を踏み入れたときよりも、だいぶレベルアップしている気がします」

長谷川「東証には、もう1つ大切な仕事があります。私が所属している金融リテラシーサポート部で行っていることですが、資産運用・資産形成に関する情報の発信や金融経済教育の推進も東証の役割です。4月からは新たに「JPXマネ部!ラボ」を設置してこの活動をさらに強化しているところです。前回お話しましたが、日本は、個人投資家が多いとはいえないので、正しい知識を届けて、投資に興味を持ってもらうことを目指しています」

小島「日本の個人の金融資産の半分が貯金で眠っているという話でしたよね。なぜ、投資にしり込みしてしまうのでしょうか?」

長谷川「『株式投資は後ろめたいことだ』といったイメージはまだ根強いのかもしれませんし、投資や資産形成について勉強する機会が少ないことも大きいと思っています」

小島「敬遠してしまう部分はありそうですよね。どうすれば、変わっていくでしょう?」

長谷川「“投資=会社を応援すること”と思ってもらえると、変わるかもしれません。応援する人が増えて、資金が集まれば、大きく成長できる会社も増えていく。会社が成長すれば、株価の上昇が期待できますし、賃金も上昇して従業員はさらなる投資ができるという循環が生まれます。最初は身近なところでいいんです。例えば、テレビのモニターがキレイだと思ったら、そのモニターのメーカーに投資してみるとか、そういうところから始めてもらえれば」

小島「生活の中で好きなものを見つけて、そのメーカーや販売会社が上場していたら株式を買ってみる。そういう始め方でいいんですね」

国内外の投資家のために行った「市場区分の見直し」

小島「東証さんの競合にあたる会社って、あったりするんですか?」

長谷川「取引所は各地にありますが、国内シェアでいうと東証は圧倒的です。ただ、東証の市場は毎日9時~11時半と12時半~15時が取引ができる時間帯ですが、証券会社が開設している私設取引所は東証の市場が閉まっている時間帯でも取引できるので、そういう部分で競合といえるかもしれませんね」

小島「確かに、いつでも取引ができるのは強いですよね。海外の取引所も意識したりしますか?」

長谷川「東証の市場は外国人投資家にも多く利用していただいているので、今後さらに国際的なマーケットになっていくために、海外にも目を向けることは重要です。特に、同じアジアに拠点を置く香港やシンガポールの取引所は意識しています」

小島「現状、東証はアジアでNo.1ですか?」

長谷川「アジアでは、東証もトップの座を争っていますが、さらなる努力が必要です。いかに魅力のある金融商品を揃えて流動性を増やしていくか、使い勝手の良いインフラを提供するか、といったことが大事になってくると考えています」

小島「取引所としての魅力を高めていくということを考えると、何かしらの工夫は必要ですよね」

長谷川「その1つとして、この4月4日に実施された市場区分の再編があります」

小島「市場区分って、東証第一部やJASDAQのことですよね。何が変わったんですか?」

長谷川「これまであった『東証第一部』『東証第二部』『マザーズ』『JASDAQスタンダード』『JASDAQグロース』という5つの区分を見直し、3つの市場に再編しました。グローバルな投資家の取引が見込まれる企業が属する『プライム』、基本的なガバナンスを備えた企業が属する『スタンダード』、高い成長可能性を有する企業が属する『グロース』の3つです」

小島「3つの市場になったことで、外国人投資家へのアプローチにどのようにつながるのでしょう?」

長谷川「再編に伴って、新規上場や上場維持の基準がより明確になります。その基準は流通する株式の時価総額だけではありません。『プライム』であれば、株主と対話する関係性の創出や気候変動リスクに関する開示なども含まれ、求める基準はかなり高いです。これらの基準によって会社の成長を促すことができれば、投資家の信頼につながります」

小島「なるほど。会社側からすると基準は厳しくなってしまうものの、上場できていることで価値のある会社だという証明になるんですね」

長谷川「おっしゃるとおりです。また、『プライム』『スタンダード』『グロース』という名称にして、市場のコンセプトを打ち出したことで、外国人投資家はもちろん、日本の投資家の皆さんにとっても、それぞれの市場に属す会社の特徴がわかりやすくなったのではないかと考えています」

小島「確かに、区分の特徴がそのまま名前になっているので、ベンチャーに投資したいと思ったら『グロース』から選ぶ、ということがしやすいですね」

こじるり世代は「資産形成」について積極的…?

小島「長谷川さん個人の考えでいいのですが、こんな施策があると日本人の投資へのモチベーションが上がるのではないかというアイデアはありますか?」

長谷川「そうですね。銀行口座をつくるように皆が証券口座をつくるようになると、変わっていく気がします。証券口座を持っていれば、一口でも株式投資をしてみようと思うのではないかなと」

小島「長谷川さんのアイデアに乗っかって、成人式に振袖を買ってあげるように、成人を迎えるタイミングで親が証券口座をつくってあげるのはどうでしょう?」

長谷川「それはいいアイデアですね。それに、すごくタイムリーな話題です。今年の4月1日に成年年齢が18歳に引き下げられたことで、18歳から親の同意なしに証券口座をつくることができるようになりました。とはいっても、正しい金融知識を身につけている18歳はおそらくまだ少ないのではないかと思いますので、中高生といった若い世代のうちからの金融経済教育が重要になります。しっかり知識を身につけたうえで、小島さんのアイデアのように18歳になる子に証券口座を持たせてあげたら、いいかもしれませんね」

小島「大人が投資への一歩目を踏み出させてあげないと、なかなか始まらないですよね。学校の授業で投資を教えてくれればいいのにって思ってたんですよ」

長谷川「これまた、台本があるみたいですね(笑)」

小島「再びタイムリーな話題を振っちゃいましたか?」

長谷川「はい(笑)。同じく今年の4月に学習指導要領が改訂されて、高校の家庭科の授業で資産形成を扱うことになったんです。中学校の公民ではすでに扱われていて、そのなかでは投資信託などについても触れられています」

小島「その授業を受けたかった! だって、たとえ少額だったとしても、投資は若いうちから始めた方がいいですもんね。私は27歳で始めましたけど、7年早く始めていたら…って思ったので」

長谷川「今回の学習指導要領の改訂も含め、若年層から投資を始めて、長く続けることが大事だということを伝えていきたいですね」

小島「そうですよね。最近感じるんですが、先ほど話に出た『投資に対する後ろめたさ』みたいなものは、私の世代の子はあまり抱いていない気がします。最近、お酒を交わす場で、投資や資産形成の話が出ることが多いんです。中学校からの同級生と銘柄について話すとは、思ってませんでした」

長谷川「日常の何気ない場で資産形成の話が出るのは、すごく理想的な形ですね」

小島「多分、いまの20代はお金を増やして贅沢したいわけではなくて、漠然とした将来への不安が大きいんですよね。就職しても会社が最後まで面倒を見てくれるとは思っていないし、年金を十分に受け取れるかもわからなくて、お金のリテラシーを上げないと自分が破綻するという急いた気持ちで情報交換してるんだと思います」

長谷川「必要に迫られている部分もありますよね。だからこそ、私たちも「JPXマネ部!ラボ」を通じて参考になる情報をどんどん発信しますし、皆さんにも正しい知識を得て投資判断を行っていただきたいと思っています」

小島「そうですね。私の世代って、大人から『借金はダメ』『貯金が一番』って教育を受けてるんですよね。その呪いから脱却する必要があるから、私も動き出しが遅くなったと思うんです。時代は変わるから、ゆっくりしているだけでは何も残らないんですよね」

長谷川「決して遅いとは思いません。いまは“人生100年時代”ともいわれていますし、健康寿命だけでなくお金の寿命も延ばしていくことは重要です」

小島「資産形成がマストになってきている時代だなっていう感覚はありますよね」

長谷川部長との対談を通して、改めて資産形成へのモチベーションを上げた小島さん。これから具体的な手法を学んで、さらなるステップアップを目指していけそうです。今後の連載にもご期待ください!

(取材・文:有竹亮介/verb 撮影:鈴木真弓)

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