リタイア後のマネー事情

節税効果を高めるポイントは「受け取るタイミング」

退職金のはなし(3)あまり知られていない「退職金とiDeCo・企業型DCの関係」

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多くの人にとっては、退職金と同じタイミングで受け取ることになるiDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC(企業型確定拠出年金)の資産。退職金と同様に、「一時金」「年金」での受け取りが可能だ。

『定年後ずっと困らないお金の話』の著者であるマネーコンサルタント・頼藤太希さん曰く、「iDeCoや企業型DCの資産を『一時金』で受け取る場合は、注意が必要」とのこと。なぜ、注意すべきなのだろうか。

退職金と同時に受け取ると「退職所得控除」が一本化される

「iDeCoや企業型DCの資産を『一時金』で受け取る際には、退職所得控除が利用できます。資産から一定の控除額が差し引かれ、その分は所得税や住民税、社会保険料がかからないという制度です」(頼藤さん・以下同)

退職金で利用できる退職所得控除は「勤続年数」で算出されるが、iDeCo・企業型DCの場合は「加入年数」で算出される。

●勤続(加入)年数20年以下の退職所得控除の計算式
40万円×勤続(加入)年数

●勤続(加入)年数20年超の退職所得控除の計算式
800万円+70万円×(勤続(加入)年数-20年)

勤続年数と同様に、iDeCo・企業型DCの加入年数が長いほど節税効果は高くなる。ただし、退職金とiDeCo・企業型DCそれぞれの「一時金」を同じタイミングで受け取る場合は、長い方の年数が採用される。例えば、勤続年数が30年、iDeCoの加入年数が20年であれば、30年で退職所得控除が計算されるのだ。

「また、同じタイミングで受け取ると、退職所得として合算されてしまうため、『一時金』が退職所得控除をオーバーする可能性が高くなります。勤続年数38年の退職所得控除は2060万円なので、退職金が2000万円であれば控除の枠内に収まりますが、iDeCo・企業型DCの資産も合わせて2060万円を超えると枠内に収まらず、税金がかかってしまうのです」

受け取る時期をずらしても「退職所得控除」は変わらない!?

受け取るタイミングをずらせば、それぞれに退職所得控除を適用することは可能になるのだろうか。

「iDeCo・企業型DCの受け取り期間は75歳までとなっているので、受け取る時期をずらすことはできます。ただし、先に退職金を受け取り、後でiDeCo・企業型DCの『一時金』を受け取る場合は、同時に受け取るよりは節税効果が望めますが、大きく減るかというとそうともいえません。なぜなら、iDeCo・企業型DCの資産を受け取る際には、『前年から19年以内に一時金で受け取った退職金』が合算の対象となってしまうからです」

iDeCo・企業型DCは、60歳から75歳の間に受け取りの手続きを行わないといけない。そのため、60歳以降かつiDeCo・企業型DCより先に退職金を受け取った場合は、「前年より19年以内」に該当してしまうのだ。例えば、55歳以前に早期退職して退職金を受け取った後、75歳でiDeCoまたは企業型DCを受け取れば、それぞれの勤続年数・加入年数に応じた退職所得控除が使えることになる。

「退職金を受け取ってから19年以内にiDeCo・企業型DCを受け取る場合も、勤続年数と加入年数、どちらか長い方の退職所得控除が適用されるため、控除の枠をオーバーしてしまう可能性が高いといえるでしょう」

より節税効果が高いのは「退職金を後で受け取る」

逆に、iDeCo・企業型DCの「一時金」を先に受け取り、後で退職金を「一時金」で受け取る場合は、まったく違う条件になるそう。

「会社の退職金を受け取る際は、『前年から4年以内に一時金で受け取った退職金』が合算の対象となります。つまり、iDeCo・企業型DCの資産を受け取ってから5年以上の期間を空けて退職金を受け取れば、それぞれの勤続年数・加入年数に応じた退職所得控除が利用できるのです。ただ、会社によっては60歳以降の受け取りができないことがあるので、まずは確認してみましょう」

もし、退職金を受け取る時期をずらすことができれば、60歳でiDeCo・企業型の「一時金」、65歳で退職金を一括で受け取るなどの方法で、退職所得控除を二度利用できる。

以下の条件で、それぞれのパターンの税額を計算してみよう。

シミュレーションの条件
・勤続年数30年、iDeCo加入年数20年
・退職金1800万円
・iDeCoの資産600万円

●60歳で退職金・iDeCoの「一時金」を両方とも受け取った場合
退職所得:(2400万円-1500万円)×1/2=450万円
所得税額:450万円×20%-42万7500円=47万2500円

●60歳で退職金、61歳でiDeCoの「一時金」を受け取った場合
・退職金
退職所得:(1800万円-1500万円)×1/2=150万円
所得税額:150万円×5%=7万5000円
・iDeCo
 退職所得:600万円×1/2=300万円
 所得税額:300万円×10%-9万7500円=20万2500円
所得税額の合計:27万7500円

●60歳でiDeCoの「一時金」、65歳で退職金を受け取った場合
・iDeCo
 退職所得:600万円-800万円=0円(全額非課税)
・退職金
 退職所得:(1800万円-1500万円)×1/2=150万円
 所得税額:150万円×5%=7万5000円

「iDeCo・企業型DCを『一時金』で先に受け取ると、両方同時に受け取る場合と比べて所得税がかなり減ることがわかります。もし、会社で退職金を受け取る時期がずらせない場合は、iDeCo・企業型DCを後で受け取るといいでしょう。所得税は累進課税という方式で計算され、一時的な収入が多くなると税金も多くなるため、収入を分散させると所得税を抑えられるのです。どの方法を使っても退職所得控除をオーバーしてしまうのであれば、iDeCo・企業型DCを『年金』で受け取り、公的年金等控除を活用する方法もあります。定年を迎える前に、さまざまなパターンで検証してみましょう」

退職金もiDeCoや企業型DCも増えれば増えるほどいいと思ってしまうが、その分税金や社会保険料がかかることも忘れてはいけない。そこを踏まえて、受け取り方を考えてみよう。
(有竹亮介/verb)

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用語解説

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