育休中の年末調整はどうする?忘れた場合の対応方法も解説

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一般的に、育休中で収入が少なくても年末調整をしなければなりません。各種控除対象の支出がある場合、手続きをすることで還付を受けられることがあります。

本記事では、育休中の年末調整の必要性や、忘れた場合の対応方法、配偶者控除との関係などを解説します。

そもそも育休中とは

育休中とは育児休業中を略した言葉です。育児・介護休業法上、育児休業は子の養育を行うために期間中の労務提供義務を消滅させる制度とされています。

そのため、原則として育児休業期間中に就労することは想定されていません。ただし、労使の話し合いにより、子の養育をする必要がない期間に限り、一時的・臨時的に対象事業主の下で就労することは可能です。

育休についてより深く理解できるように、育児休業制度の概要や、産休との違いを解説します。

育児休業制度の概要

育児・介護休業法には、「育児休業」や「産後パパ育休(出生時育児休業)」といった育児休業に関する制度が定められています。

「育児休業」は、子が1歳(一定の場合は、最長で2歳)に達するまで、申し出により休業取得が可能な制度です。父母ともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2か月に達するまでの間の1年間各人が取得できます(パパ・ママ育休プラス)。

「産後パパ育休(出生時育児休業)」は、子の出生後8週間以内に4週間まで、2回に分割して休業を取得できる制度です。労働者と使用者の間での約束事(労使協定)を締結している場合は、合意の範囲内で休業中に就業することもできます。

育休と産休の違い

産休(産前産後休業)とは、産前6週間以内の産前休業と、産後8週間以内の産後休業を合わせた休業制度を指します。産休は母体保護の見地から定められているため、一般的に女性向けであるのに対し、育休は男女ともに取得できる点が主な違いです。

ただし、2022年より創設された産後パパ育休(出生時育児休業)を「男性版産休」と表現することがあります。

参考:厚生労働省「育児休業中の就労について」
参考:厚生労働省「育児休業を取る 育児休業制度とは」

育休中にも年末調整は必要?

勤務先の規定によっても異なりますが、育休中で労働することがなければ、給与が支給されなかったり、減少したりすることが一般的です。しかし、対象年度に育休期間が含まれることで、年収が低くなったとしても、基本的に年末調整はしなければなりません。

年末調整の概要を説明した後で、育休中でも年末調整が必要な理由や、具体的な書き方・やり方を解説します。

年末調整とは

年末調整とは、所得税の過不足を精算するための手続きです。具体的には、勤務先が従業員の毎月の給与等から天引き(源泉徴収)をした所得税・復興特別所得税の合計額と、対象の従業員が1年間に納めるべき所得税・復興特別所得税の合計額との差額を精算します。

基本的に、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人が、年末調整の対象です。年末調整について、より詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。

年末調整とは所得税の過不足の調整作業!確定申告との違いも解説

育休中に年末調整が必要な理由

育休中で収入が少なくても年末調整が必要な理由として、源泉徴収された税額と、本来納付すべき税額に差が生じる点が挙げられます。例えば、社会保険料や生命保険料など所得控除の対象となる支出がある場合は、所得税額に変動が生じるため年末調整が必要です。

所得控除の対象となる支出がなくても、育休で数か月しか働いていなければ、1年間働く前提で計算された源泉徴収額と差額が生じる可能性はあります。納付額が還付されることがあるため、自分自身にとっても年末調整が大切な作業であることを理解しておきましょう。

育休中の年末調整の書き方・やり方

育休中の年末調整のやり方は以下のとおりです。

1.勤務先から扶養控除等申告書・基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書・保険料控除申告書・住宅借入金等特別控除申告書を受け取る
2.各種控除の申告項目に必要事項を記入する
3.記入した書類に添付書類を付けて勤務先に提出する

2022年度分の各控除申告書の書き方や、記載例については、国税庁の以下サイトも参考にしてください

参考:国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和4年分)」

給付金や手当金も年末調整は必要?

産休・育休中は、以下のような各種給付金や手当金を受け取れることがあります。

1.出産育児一時金
2.出産手当金
3.育児休業給付金

それぞれ、支給理由や支給元が異なります。各種給付金・手当金の概要を説明した後に、年末調整が必要かを解説します。

1.出産育児一時金の場合

出産育児一時金とは、健康保険法第101条の規定に基づき、出産にあたって健康保険から支払われる給付金のことです。妊娠4か月(85日)以上の人が出産した場合、一児につき42万円が支払われます(全国健康保健協会の場合、2022年10月末現在)。

出産育児一時金の支給方法は、直接支払制度と受取代理制度の2種類です。直接支払制度を希望すれば、出産育児一時金は直接医療機関に支払われるのに対し、受取代理制度の場合は先に自分で費用を支払い、後から給付を受けます。

健康保険法第62条の規定により、出産育児一時金に課税はされないため、年末調整は必要ありません。

2.出産手当金の場合

出産手当金とは、出産のために会社を休んでいる間、給与の支払いを受けなかった場合に、健康保険法第102条の規定に基づき健康保険から支払われる手当金のことです。基本的に、出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から、出産の翌日以降56日までの間で休んだ期間を対象に支払われます。

出産手当金の1日あたり金額の計算式は、以下のとおりです。

支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 2/3

出産一時金と同様に、健康保険法第62条の規定で出産育児一時金に課税はされないため、年末調整は必要ありません。

3.育児休業給付金の場合

育児休業給付金とは、休業中の収入源を考慮して雇用保険から支給される給付金です。原則1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した際、雇用保険法第61条の7の規定に基づき支給されます。

育児休業給付の給付額の計算式は、「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」です。ただし、育児休業の開始から181日目以降は67%ではなく、50%を乗じて計算します。

育児休業給付金は、雇用保険法第10条に規定する失業等給付に該当し、課税されないため(同法第12条)、年末調整で記入する必要はありません。

参考:全国健康保健協会「出産育児一時金について」
参考:全国健康保険協会「出産で会社を休んだとき」
参考:厚生労働省「Q&A~育児休業給付~」

育休中の年末調整の疑問を解消しよう

最後に、育休中の年末調整に関する3つの疑問に答えていきます。

1.育休中に年末調整を忘れたらどうなる?

年末調整は、1年間の最後の給与支払をする際に行うことになっているため、通常12月までに済ませます。育休中で年末調整に関する書類の記入・提出を忘れていたとしても、翌年2〜3月に自分で確定申告をすることで対応は可能です。

万が一、11〜12月の年末調整時期が近づいているにもかかわらず、勤務先から書類が届かない場合は、担当部門(人事等)に相談するようにしましょう。書類の行き違いや遅れなどが理由で期日に間に合わない場合も、忘れた場合と同様に確定申告で対応できます。

2.育休中に配偶者控除を受けられる?

育休中で年収が低く(収入が給与のみの場合、給与収入が103万円以下)、一定の条件を満たしていれば育休取得者の配偶者が配偶者控除を受けられます。配偶者控除を受けることを「扶養に入る」と表現することはありますが、これは所得税法上の扶養のことであり、社会保険上の扶養とは異なる点に注意しましょう。

育休中でも、社会保険の加入は継続可能です。さらに、産前産後休業期間中に事業主が年金事務所等に申し出ることにより、被保険者・事業主の両方の社会保険料負担が免除されます。なお、免除されても、将来受け取れる年金の減額や被保険者資格の変更・喪失はされません。

3.出産や育児のため会社を退職していたらどうなる?

国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、2015〜2019年に第一子出産で退職した人の割合が23.6%であることから、出産を機に退職する人も少なくないことがわかります。しかし、年末調整の対象となるのは、1年を通じて勤務している人や中途で就職して年末まで勤務している人のため、年末時点で退職している場合は対象外です。

出産や育児のため会社を退職した人は、翌年2〜3月に自分で確定申告の手続きをするようにしましょう。

参考:国税庁「No.1191 配偶者控除」
参考:日本年金機構「厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)」

育休中も年末調整を忘れない

​​育児・介護休業法には、「育児休業」や「産後パパ育休(出生児育児休業)」といった育児休業に関する制度が定められています。育休中は、給与の減少が予想されますが、所得控除対象となる支出があれば税額に変動が出るため、年末調整が必要です。

万が一年末調整をしそびれてしまうと、自分で確定申告しなければなりません。育休中も年末調整を忘れないようにしましょう。

ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。

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