【日経記事でマネートレーニング33】データ編~景気敏感とディフェンシブの判別とリターン
提供元:日本経済新聞社
このコーナーでは日経電子版や日本経済新聞の記事を題材に、投資のリテラシーや資産形成力の基礎知識を身につけることを目的にしています。2022年からコンセプトを少し改めて数値やデータの読み解き方にスポットライトをあてていきます。
今回はデータ編11回目(通算33回目)で、株式投資をする際に知っておくべきそのほかの指標について解説します。
株価指数=相場全体と比べた値動きの大・小で判別
サンプル記事をご覧ください。マーケットの報道記事には頻繁に「景気敏感株」「ディフェンシブ株」という表記が出ます。どのような銘柄なのでしょうか? 収益が景気に左右されやすいのが景気敏感株、不況に強いのがディフェンシブ株というような説明が用語辞典には書かれています。定性的には正しいですが、もやっとしていますよね。
チャートのイメージをご覧ください。日本経済新聞社や東京証券取引所が相場全体を映す株価指数を公表していますがこれを相場の平均的な値動きとすると、景気敏感株は青色の値動きに、ディフェンシブ株は赤色の値動きに近くなります。
つまり、景気敏感株は値動きの振れが大きくなりやすく、相場の上昇局面では上げ幅がより大きくなるのです。業種では、たとえば半導体や消費財などにその傾向が強くなります。反対に値動きが小さくなるのがディフェンシブ株です。景気後退局面でも業績が比較的安定しているとして、相場全体の下落局面で注目を集めます。医薬・日用品や電力・ガスなど公益性のある企業が代表例です。
日経会社情報では、景気感応度やディフェンシブ性の有無を数値で判別できるようベータ(β)値を個々銘柄のページに表示しています。β値が1より大きいと景気敏感株、1未満だとディフェンシブ株というのが目安です。β値が理解できなくても、株価指数と個別銘柄の動きを対比させるとある程度判別ができます。そして局面にあわせた銘柄選択によって運用成績を改善させることが期待できます。
では、その運用成績を表す投資収益率=リターンについてみていきましょう。
長期リターンは「配当」が左右、“テンバガー”発掘の近道
リターンも市場関係者によっていろいろな定義があり、構成因子もまちまちです。投資信託など大口投資家が言うリターンは株価騰落率つまり元本の損益に、毎年もらう配当を再投入して運用したと考える配当込みリターンが一般的です。配当を複利で考えるということですね。しかし、個人にはできないので配当の単純累計を合算します。株主優待があればネットオークションなどで換金した際の価額を上乗せすると優待込み・配当込みの実質リターンがわかります。
日経電子版・日経会社情報には個々の銘柄ごとに最大20年までの保有リターンが掲載されています。代表的な3社の株価を比べてみましょう(11月28日時点で比較)
トヨタ自動車は10年間保有したとすると株価は154%高、つまり2.5倍になっています。これだけでも高い評価を与えられると思いますが、配当を加えると369%です。約4.7倍。
だいぶ違いますね。配当の重みを実感できるのではないでしょうか。
神戸製鋼所は10年保有して元本割れです。これだけをみると「買って損した」「塩漬けだ」という評価につながるかもしれませんが、配当を含むとなんとプラスに転じます。運用成績は高くはないですが、長期保有ではいちおう報われるわけですね。
テーマパークを運営するオリエンタルランドはすごい上昇率ですが、おもしろいのは騰落率とリターンにほとんど差がない点です。
トヨタ自動車と比べると違いは歴然ですが、この差はなぜ生まれるのでしょうか。オリエンタルランドは成長期待が高く株価上昇率が大きかった一方、配当は相対的に少なかったということですね。長期運用では配当を踏まえた銘柄選びが重要なポイントになるということです。
最後に本コラムを読んでいただいた方にとっておきの情報を教えましょう。個人投資家のひとつの夢は「お宝株」発掘です。株価が何倍にもなる銘柄で、特に10倍に値上がりするような株式を「テンバガー株」というときがあります。いわゆる「億り人」や「FIRE」への有力なすべになるとされ、このテンバガー株探しに多くの個人投資家は血眼になり、とりわけ誰も知らないような中小型株に照準を定める方が多いようです。
表の2銘柄は国民のほぼ全員が知っている知名度の高い銘柄です。10年はともかく、20年保有したらそのリターンはどうでしょう?
10月末までのリターンは片方が約10倍、もう一方は約45倍。仰天ですね。
お宝株は確かに眠っているかもしれないけれど、その探索に労を費やすよりも長期保有・長期運用こそが何十倍も簡単にテンバガーにたどりつくすべではないかと考えます。
有望株探しには高いリテラシーも求められますが、有望株に育つのを待つということであればリテラシーは不要です。中長期投資の重要性をこういう点からも学んでいただければ幸いです。
3~20年間の株式運用のリターンについては日経電子版・日経会社情報でいつでも確認できますのでご活用ください。
今年1年、データ編の解説を届けてまいりました。2023年からは少し装いを改めて、よりおもしろいシリーズを配信していきたいと思います。
(日本経済新聞社コンテンツプロデューサー兼日経CNBC解説委員 田中彰一)
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