2023年の最大の注目点は「金融政策の転換」!
提供元:野村證券(FINTOS!編集部)
2022年の金融市場を振り返ると、米国では株、国債ともに年間騰落率がマイナスになる非常に厳しい年になりました。しかも、これは米国に限ったことではなく、程度の差こそあれ多くの先進国で同様の事態が生じました。
米国に関してみれば、株、国債ともにマイナスリターンを記録したのは、1974年以降の49年間では1994年に続いて2回目と、非常に珍しい事態と言えます。また、為替市場では円安・ドル高が進行し、2022年9月には本邦財務省・日銀が約24年ぶりに円買い・ドル売り介入を実施したものの円安基調を転換させるには至らず、ドル円相場は10月21日には1ドル=152円目前と約32年ぶりの円安水準を記録しました。
このように歴史的に見ても異例の相場展開となった要因として、コロナ禍への対策として世界的に講じられた大型金融緩和から一転し、2022年は主要な中央銀行が揃って急速な利上げを実施したこと、結果、景気の先行き懸念が高まったこと、などが挙げられます。
昨年は主要先進国・地域のインフレ率がインフレ目標を大幅に上回る上昇を記録しました。これを受けて各中央銀行は「インフレを抑制するためには景気悪化も辞さない」との姿勢を明確に打ち出し、近年では例を見ないようなペースで金融引き締めを行いました。この結果、先進国を中心に国債価格が下落、長期金利の急上昇に伴うバリュエーション調整と業績悪化懸念から株価が下落したと解釈できます。
ただし、今年、2023年はインフレ率のピークアウトを起点として、各中央銀行の金融政策が転換点を迎える結果、金融市場の動向も大きく転換することが予想されます。
各国の急速な金融引き締めに加え、資源価格の下落、国際的なサプライチェーン障害の改善などが功を奏し、欧米のインフレ率は既にピークに達したものと見られます。
消費者物価の前年比上昇率を見ると、米国では22年6月の9%をピークに12月には6.4%まで低下、ユーロ圏でも10月の10.6%から12月には9.2%まで低下しました。米国、ユーロ圏ともにインフレ率は未だ2%のインフレ目標を大きく上回っているうえ、労働需給の逼迫を背景に賃金上昇率が高止まりしていることから、いずれの中央銀行も利上げを継続する意向を示しています。
ただし、野村證券では欧米ともに金融政策は年内に転換点を迎えると予想しています。
米国に関しては3月に0.25%ポイントの利上げを実施し、政策金利を4.75-5.0%のレンジまで引き上げた後、利上げは打ち止めになると予想します。FRB(米連邦準備理事会)は当面の間、政策金利を据え置き、その後2024年3月から利下げを開始する見通しです。
ECB(欧州中央銀行)に関しては、追加1.0%ポイントの利上げを行い、6月には中銀預金金利を3.5%へ引き上げると予想しています。その後は24年6月まで金利を据え置き、7月から利下げを開始する見通しです。
これらの見通しに基づき、米国の長期金利は既に低下基調に転じたと見ています。ユーロ圏の長期金利は、足元でも一進一退を繰り返していますが、年前半のうちにはピークアウトが明確化すると予想しています。
長期金利の低下はバリュエーション面での割高感の低下を通じて、株価のサポート要因となることが予想されます。このため、市場の関心は業績見通し底打ちのタイミングへと移行していくと見られます。リスクとしては、2024年の台湾総統選挙や米大統領選挙をにらんだ米中関係の悪化、インフレの再燃による利上げ再開などが挙げられます。
日本に関して金融市場では、欧米とは逆に金融緩和策の修正期待が高まっています。日本銀行は昨年、主要国では唯一、金融緩和策を継続したことから、円相場は歴史的な円安に見舞われました。また、他の先進国と連動して国内でも金利上昇圧力が高まり、YCC(長短金利操作)政策による市場の歪みや市場機能の低下が懸念され、日銀は政策運営を一部見直しました。それでもなお、日銀総裁・副総裁人事と絡んで、市場では政策修正期待が高い状況にあります。
日銀の金融政策に対する野村のメインシナリオは年内据え置きですが、直近、メインシナリオの想定確率を4割に引き下げました。すなわち、6割の確率で今年中に何らかの政策変更が講じられる可能性があると見ています。
市場における政策修正期待は、金利上昇と円高を喚起することが予想されます。一方で、日本株への悪影響は、社債や金融機関からの借り入れによる資金調達比率の高い一部のセクターにとどまり、日本株全体にとっては大きな重石にはならないと考えています。
(野村證券投資情報部 尾畑秀一)