「『上場』って、知っているようで知りませんでした」
村上佳菜子が知りたい「投資の話」を東証社員に聞いた!
プロフィギュアスケーターの村上佳菜子さん。バラエティ番組や情報番組で活躍している彼女は、現在28歳。徐々に将来の“お金”のことも気になってきたようだが、「投資に興味はあるけど、知識がないから始められない…」とのこと。
そこで、投資の第一歩を踏み出すため、お金のプロの力を借りながら知識を深めていくことに。その様子を「東証マネ部!」で追いかけていく。
第一回となる今回は、東京証券取引所 金融リテラシーサポート部の富田貴之さんに、東京証券取引所の役割と投資のいろはについて、教えてもらった。
1日の間に東証で取引される株式の総額は?
富田「今日は東京証券取引所に来ていただきましたが、『東証』って聞いたことはありましたか?」
村上「名前は知っていました。円形の掲示板もニュースで見たことがあるんですが、何をしている会社かはよく知らなくて」
富田「東証は、会社の株式を取引する場を提供している会社です。円形の掲示板がある場所はマーケットセンターと呼ばれていて、かつてはそこで東証の社員が株式の取引をリアルタイムで監視していました。コロナ禍になってから、社員がいることはほとんどありません」
村上「そうなんですね!? 人がたくさんいらっしゃるイメージでした」
富田「今は取引がデジタル化されているので、マーケットセンターに常時いる必要がなくなったという側面もあります。ちなみに、東証の市場で1日に取引される株式の総額は、平均いくらくらいになると思いますか? (1)3億円、(2)300億円、(3)3兆円の3択から選んでみてください」
村上「額が大きすぎてよくわからない(笑)。3億円は少ないと思うので、300億円!」
富田「正解は3兆円です」
村上「全然ピンとこないし、ゼロが何個かもわかりません(笑)」
富田「私もピンときません(笑)。もちろん日によって取引額は異なり、1日1兆円の日もあれば、1日5兆円の日もあるのですが、平均すると3兆円くらいです。市場は、昼休みを除くと1日5時間しか開いていないので、その間に平均3兆円分の株式が売買されているというわけです。規模の大きさを感じてもらえましたか?」
村上「想像を絶するレベルで、びっくりしてます」
「上場企業」ってどんな会社のこと?
富田「『上場』という言葉を聞いたことはありますか?」
村上「あります。出演している番組でも耳にすることがあるのですが、詳しい意味までは理解できていないかもしれません」
富田「上場とは、『特定の会社の株式を、金融商品取引所で取引ができる状態にすること』。わかりやすく言うと、世界のどこにいても、誰であっても、取引所(市場)にアクセスすれば株式を買える状態のことです」
村上「上場という漢字から、どんどん業績がよくなることを意味しているのかと思っていました」
富田「そのイメージも間違ってはいません。株式を誰にでも買ってもらえるようにすることで、多くの資金が会社に入ってきて、大きく成長する可能性につながるからです。ただし、上場には審査があり、承認(合格)されないと上場できません」
村上「上場したい会社が申請を行うんですか?」
富田「そうなんですが、思い立ったらすぐにできるものではないんです。過去2年間の業績も審査の対象になるので、上場を希望する2~3年前くらいから上場に向けて準備し始める会社が多いと思います」
村上「そんなにかかるんですね。上場があるということは、上場していない会社もあるんですか?」
富田「『非上場』といわれる会社ですね。非上場企業の株式は市場に出回っていないので、その会社と直接取引することになります。どこからでも買えるわけではないので、購入できる人も限られるのです。二つ目のクイズですが、日本の上場企業は何社あると思いますか?(1)約40社、(2)約400社、(3)約4000社、(4)約4万社の4択から考えてみてください」
村上「5時間で3兆円取引されるというからには、多いはずですよね。だから、約4万社!」
富田「読みは鋭いのですが、正解は約4000社です」
村上「たった4000社で、1日に3兆円も取引されるんですか!? すごーい!?」
富田「日本の株式会社は約260万社あるので、上場会社は全体の0.1~0.2%程度だけなんです。それだけ上場企業は珍しく、裏を返せば非上場企業はたくさんあるということになります」
「株価」ってどうして上がったり下がったりするの?
村上「株式って、価格が上がったり下がったりしますよね。何をすると、株価が上がるんですか?」
富田「簡単にいうと、その会社の株式が欲しい人が多ければ上がり、少なければ下がります。『欲しい』と感じさせる理由はいくつかあり、そのひとつが業績がいいこと。例えば、『コロナ禍の巣ごもり需要で冷凍食品の売上が上がりそう』というニュースが出ると、成長が見込まれる冷凍食品メーカーの株式が欲しくなりますよね。そのほかの理由として考えられるのが、配当金です。株式を買ってくれたお礼として会社が株主に支払うお金で、業績が上がると増える傾向にあります。高い配当金を出す会社の株式はみんなが欲しがるので、株価が上がるのです」
村上「会社は、配当金を出すことも考えないといけないんですね。例えば、私がスケートリンクをつくるために株式を発行したら、そのリンクで開催するショーのチケット代などは配当金を出すことを見越して設定することになるということですか?」
富田「非常にいい観点です。配当金を出すことで株式の需要が高まり、株価が上がる好循環につながるので、株主のことも考えて商品やサービスの価格を決めることは重要になるといえます」
村上「配当金は『売上の●%』のような形で、固定にするものなんですか?」
富田「固定ではなく、必ず配当金を出さなければいけないということもありません。業績が悪く赤字になれば配当金を出さないこともあるでしょうし、業績がよければ当初の予定より配当金を10%増やすということもあるでしょう。配当金は、会社と株主の対話で決まっていくものです」
村上「だんだん株式投資の仕組みが見えてきた気がします。株価が上がるときとは逆に、よくないニュースが出てしまうと、株価は下がってしまいますか?」
富田「よくないニュースによって、株主に『業績が悪くなりそう』『配当金が減りそう』と思われてしまうと、株式を売りたい人が増えて、株価が下がる可能性があります。このようなケースでは、『株価が下がる前に売りたい』という人が出てくるので、より下がりやすくなるのです」
村上「株主が安値で売ってしまうから、株価が下がっちゃうんですね。でも、株価はまた上がることもあるでしょうから、持っていたほうがいい気がします」
富田「おっしゃる通りで、よくないニュースが出たら売らなければいけないわけではありません。なかには、よくないニュースが出たときに、あえて買う人もいます。1~2年後に業績が回復すると予想して、株価が下がったときに買い、儲けを狙うという考え方もあるのです」
村上「なるほど、株式投資はセンスも問われそうですね」
富田「見極める力も必要かもしれませんね。ただ、株式投資そのものが社会の好循環を生み出すという考え方もあります。会社が株式を買ってもらったお金でよりよい製品をつくると、世の中の多くの人が恩恵を受けられますよね。その売上で会社が潤えばもっといい製品ができるし、働く人の給料も増える。配当金が増えれば株主もうれしい。三方良しの循環を生み出すのが株式投資で、そのお手伝いをするのが東証の仕事と考えています」
村上「投資というと儲けるものというイメージがありますが、世の中をよくすることにもつながるんですね。投資には興味があったものの、いまさら『上場』の意味を聞くこともできなかったので、今日改めて1から説明してもらって理解度が深まった気がします」
知識を取り込むことで、より深い部分に興味が湧き、自然と質問も増えていった村上さん。次回は、富田さんに東証の“もうひとつの顔”について伺う。
(取材・文:有竹亮介/verb 撮影:鈴木真弓)