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ゴルディロックスが長く続かない理由

提供元:SBI証券

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ゴルディロックスは英国童話『3びきのくま』に登場する主人公の少女の名前です。少女は留守中のくまの家に入り、ちょうどよい温度のスープを飲み、ちょうどよい大きさの椅子で休憩し、最後はちょうどよい固さのベッドで眠った、というお話(内容はかなり端折りました)なのですが、金融市場では、ゴルディロックス=適温経済(適温相場)と捉えられます。

経済が良好すぎる(熱すぎる)と、株式市場では金融引き締めによる金利上昇懸念が相場の逆風となります。逆に経済が悪化する(冷たすぎる)と、投資家は安全資産である債券への投資を積極化(金利低下)させ、リスク資産である株式投資が敬遠されます(株安)。

ゴルディロックス相場とは、経済が熱すぎず、冷たすぎず、ちょうどよい状態にあり、金利低下を伴いながら株高が進みます。2010年代の米国株式市場は、まさにゴルディロックス相場の中、長期的な株高が続きました。

今年初めの米国株式市場は、金利低下を伴いながらグロース株(成長株)主導の株高となり、まさにゴルディロックス相場の様相となりました。昨年に大幅な金融引き締めが行われたにもかかわらず、市場参加者は米国経済の先行きは、緩やかな後退(ソフトランディング)か、もしくは経済が後退することなく再加速(ノーランディング)し、金融政策については年後半にも利下げへ転じるとの見方を強めました。

しかし、2月3日発表の米1月雇用統計で、失業率が約54年ぶりの水準に低下するなど、雇用市場の力強さが再認識されると、年後半の利下げ期待は後退し、金利上昇を伴いながら、株式市場は上値の重い展開となりました。一方、3月に入ると、今度は米国の銀行が相次いで経営破綻し、金融システムに対する不安(ひいては経済の急激な悪化=ハードランディング)に対する懸念が強ました。年後半の利下げ観測が復活し、金利は低下したものの、株式市場は銀行株を中心に軟調となる場面が見られました。

端的に言えば、1月はゴルディロックス相場で株高、2月は経済が熱すぎて株安、3月上旬は経済が冷たすぎて株安、といった具合であり、年初のゴルディロックス相場は思いの外、長続きしなかったことになります。

<米国株価指数と米10年国債利回り>

(出所)BloombergよりSBI証券作成

2010年代のゴルディロックス相場は長期的な大相場でした。当時の金融政策は実質ゼロ金利政策に加え、量的緩和政策(QE)による資金供給が行われるなど、非常に緩和的な政策が行われていました。

こうした政策が行われていた背景には、米国経済の成長が鈍く、インフレが鈍化傾向にあったことが挙げられます。米FRBとしては、なりふり構わずに金融緩和を強化させ、更にはインフレ率が目標値である2%を一時的に上振れすることを容認する姿勢を示していました。それでもなかなか経済やインフレが強まらず、ちょうど良い経済成長と莫大な緩和マネーに支えられながら、株価が上昇してきました。

<米国インフレ指標と政策金利>

(出所)BloombergよりSBI証券作成

しかし、現状はインフレ率がFRBの目標値を大きく上回り、金融政策は引き締め方向へ進んでおり、ブレーキをかけながら景気のスピード調整を行っている状況です。

ブレーキの利きが悪いと、景気は抑制されずインフレも高い状態が続くでしょう。逆に、ブレーキが利きすぎると景気が大きく悪化(ハードランディング)し、インフレも鈍化しすぎるでしょう。間違ってデフレに転換すれば、それこそ厄介な状況になります。FRBはインフレ目標から大きく乖離することなく、絶妙な匙加減でインフレをコントロールする必要があります。

とにかく、インフレの大幅な上振れだけに注意して、大規模な金融緩和を進めておけばよかった2010年代に比べると、FRBははるかに困難な政策運営を迫られていることは容易に想像がつきます。米国のインフレ率が目標値である2%に安定的に近づくまでは、まだまだ金融政策や経済、インフレに対する思惑により、市場は不安定な動きが続くことが予想されるでしょう。

(提供元:SBI証券)

著者/ライター
淺井 一郎
投資情報部  シニア・ストラテジスト

北海道大学工学部卒。大和証券に約20年間在籍した後、2022年にSBI証券に入社。大和証券では主に個人投資家や機関投資家向けに投資情報を提供。日本株や米国株、欧州株など国内外の株式市場や為替市場などの分析を歴任し、幅広いマーケットに精通していることが強み。
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