グッズ販売で注意するべきポイントは「12月31日時点の在庫」
いまさら聞けない副業と税金の関係 ~ハンドメイド編~
4月は新卒入社に転職、異動などで、新しい環境での生活が始まるタイミング。仕事や職場にある程度慣れてきたら、すき間時間でできるような副業を始めようと考えている人もいるだろう。
始めやすい副業のひとつが、手作りのアクセサリーや編み物などを販売するハンドメイド作家。フリマアプリやハンドメイドマーケットなど、オンライン上で簡単に販売できるプラットフォームが整っているため、気軽に始められるだろう。
ただし、物品を販売して得た収入には、所得税や住民税がかかる。つまり、確定申告が必要になる可能性があるのだ。そこで、税理士の中山慎吾さんに、ハンドメイド雑貨の販売で得た収入と税金の関係について、教えてもらった。
ハンドメイド雑貨の販売収入は「課税」の対象
「フリマアプリで販売したものは非課税だと思われがちですが、それは不要になった中古品(生活用動産)を売った場合のこと。手作りのアクセサリーなどを販売して得た収入は、課税の対象になります」(中山さん・以下同)
ハンドメイド雑貨の販売で得た収入が課税されるということは、所得税や住民税を納めるため、確定申告しなければいけない。ただ、副業について調べると、「副業の所得が20万円以下であれば申告の必要はない」という記事をよく目にする。実際のところはどうなのだろう?
「確かに、所得税の規定では、『副業の所得が年間20万円以下の場合は確定申告の必要はない』とされています。ただし、『20万円以下であれば申告の必要がない』という情報には、2つの勘違いがあります」
●勘違いその1:医療費控除や住宅ローン控除を受ける際は、副業の所得の申告も必要
「医療費控除や住宅ローン控除、ふるさと納税などで確定申告を行う場合は、副業の所得も含めて申告しなければいけません。たとえ副業の所得が20万円以下だったとしても、きちんと確定申告書に記載しなければいけないのです。確定申告によって何かしらの恩恵を受ける場合は、20万円以下でも忘れずに申告しましょう」
●勘違いその2:住民税の規定では、20万円以下であっても申告が必要
「所得税に関しては、副業の所得が20万円以下であれば確定申告が免除されますが、住民税においては、金額にかかわらず副業の所得も申告が必要になります。住民税脱税ということにならないよう、20万円以下だったとしても副業による所得が発生している場合は、確定申告を行いましょう」
12月31日時点の在庫を「経費」に含めてはいけない
ここまで副業の所得の話をしてきたが、そもそも所得とは何を指す言葉か、改めて確認しよう。
所得とは、収入から「経費」を差し引いた額のこと。
つまり、副業で得た収入が50万円で、副業のために使ったお金(経費)が10万円だった場合、所得は40万円となる。
「ハンドメイド作家の場合、アクセサリーや編み物などの商品を製作するために購入した材料は『仕入れ』となり、その費用はすべて経費として計上できます。商品をつくるために必要な道具・機材の購入費も、経費として問題ありません。確定申告の際に経費を申告することで所得が減り、節税につながります」
ハンドメイド作家は仕入れをそのまま経費にできるため、領収書さえ残しておけば、計算はそこまで大変ではなさそうだ。ただし、注意点がひとつあるという。
「12月31日時点の在庫も踏まえて、経費を計上しなければいけません。その年の仕入れをすべて経費とするのではなく、仕入れから在庫(材料を含む)を差し引いた金額が経費になるからです」
例えば、1年間の売上が200万円あり、仕入れに150万円使っていたとする。この場合、売上から仕入れ(経費)を引いた50万円が所得となる。しかし、製作したすべての商品を、年内に売り切っているとは考えづらいだろう。
12月31日時点で在庫が50万円分(原価)残っているとすると、仕入れから在庫分の50万円を引いた100万円が経費となる。そのため、売上200万円から経費100万円を引いた残りの100万円が所得となるのだ。
「所得が増えて損をしているように感じるかもしれませんが、在庫分は翌年の売上に対する経費になる可能性があります。副業を続けている限り、仕入れは経費としてカウントされるのです。ただ、12月31日時点の在庫はその年の経費にはできないので、在庫を抱えすぎるのは避けたいところです」
仕入れや在庫を踏まえて確定申告するためには、その管理も重要になってくる。本業の合間に行っている副業だからといって適当にしていると、税務署から指摘を受けて税金を多く払う羽目になってしまうかもしれない。
「仕入れの領収書を残し、費用をきちんと管理していれば、在庫管理も大変ではないはずです。副業として継続的に収入を得ていくのであれば、仕入れや在庫をきちんと記録していきましょう」
ハンドメイド作家は「インボイス制度」の影響がある…?
2023年10月から始まるインボイス制度は、副業にも関係あるのだろうか?
●インボイス制度とは
適格請求書(インボイス)を売り手が買い手に発行し、双方が保存することで、消費税の仕入税額控除が適用される制度。適格請求書を発行できるのは、適格請求書発行事業者に登録した事業者のみ。
●仕入税額控除とは
売上にかかる消費税から仕入れにかかった消費税を差し引き、消費税の二重課税を解消する制度。例えば、売上が1100円(税込)、仕入れの費用が550円(税込)だった場合、売上の消費税100円から仕入れの消費税50円を引いた50円を納めることになる。2023年10月以降は、適格請求書がないと仕入税額控除が適用されない。
「これまでは副業の所得で確定申告をしても消費税は納めなかったため、関係ないと思うかもしれませんが、仕事相手が大企業の場合は、その大企業が消費税を納めている可能性があります。適格請求書を出せない相手との取り引きでは仕入税額控除が適用されないため、大企業は消費税の分だけ損をすることになります。そのため、2023年10月以降は、適格請求書発行事業者ではない相手とは取り引きをしなくなる可能性が出てくるのです」
ハンドメイド作家の場合、販売する相手は個人が多いだろう。そうなると、適格請求書発行事業者の登録はしなくても良さそうだが。
「買い手が個人であれば、そもそも請求書を求められることもないはずですから、適格請求書発行事業者になる必要はないでしょう。客としてラーメン屋さんに行って会計をする時に、わざわざ請求書をもらわないのと一緒です。ただし、副業の規模が大きくなってくると、買い手が企業になる可能性も出てきます。その場合は、適格請求書を求められる可能性がないとはいえません。10月が近くなってきたら、企業の動き方が見えたり、販売プラットフォームのシステムが変わったりするかもしれないので、関係しそうな企業や使っているサービスの動向を追いましょう」
副業が軌道に乗って収入が増えると、税金や在庫など、考えることが増えるだろう。ただ、収入が増えれば、将来に向けての備えなどができるようになるというプラス面があることを思えば、前向きに商品管理や在庫管理にも取り組めるだろう。
(取材・文/有竹亮介(verb))