配信している自宅の家賃も「経費」になるって本当?

いまさら聞けない副業と税金の関係 ~ネット配信編~

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新年度がスタートしたのを機に、副業を始めてみようと考えている人もいるかもしれない。

YouTubeやInstagram、TikTokなどでの配信や投稿で収益化までこぎつけるのは大変かもしれないが、スマホ1台あればできるため、誰でも始めやすい副業のひとつといえるだろう。

ただし、副業にするということは、少なからず収入を得ることになる。その収入には所得税や住民税がかかるのだろうか? 税理士の中山慎吾さんに、ネット配信で得た収入と税金の関係について、教えてもらった。

副業をしている人は基本的に「確定申告」の必要あり

「SNSへの投稿や配信で得た広告収入、企業とのタイアップで得た収入、投げ銭といわれるものもすべて、副業の所得にカウントされます。基本的に、本業以外の所得がある会社員は、確定申告を行う必要があります」(中山さん・以下同)

所得税や住民税を納めるため、ネット配信で得たお金であっても申告しなければいけないのだ。ただ、「副業の所得が20万円以下であれば申告の必要はない」という話もよく耳にする。実際のところはどうなのだろうか?

「確かに、所得税の規定では、『副業の所得が年間20万円以下の場合は確定申告の必要はない』とされています。ただし、『20万円以下であれば申告の必要はない』という情報には、2つの勘違いがあります」

●勘違いその1:医療費控除や住宅ローン控除を受ける際は、副業の所得の申告も必要
「医療費控除や住宅ローン控除、ふるさと納税などで確定申告を行う場合は、副業の所得も含めて申告しなければいけません。たとえ副業の所得が20万円以下だったとしても、きちんと確定申告書に記載しなければいけないのです。確定申告によって何かしらの恩恵を受ける場合は、20万円以下でも忘れずに申告しましょう」

●勘違いその2:住民税の規定では、20万円以下であっても申告が必要
「所得税に関しては、副業の所得が20万円以下であれば確定申告が免除されますが、住民税においては、金額にかかわらず副業の所得も申告が必要になります。住民税脱税ということにならないよう、20万円以下だったとしても副業による所得が発生している場合は、確定申告を行いましょう」

カメラ代・衣装代・家賃も「経費」になる!?

ここまで副業の所得の話をしてきたが、そもそも所得とは何を指す言葉か、改めて確認しよう。

所得とは、収入から「経費」を差し引いた額のこと。

つまり、副業で得た収入が50万円で、副業のために使ったお金(経費)が10万円だった場合、所得は40万円となる。

「『経費』は、大切な要素です。ネット配信やSNSへの投稿の場合は、物品の仕入れが発生するわけではないので、経費になり得るものを経費と捉えていない可能性があります。例えば、撮影に使用するカメラや照明などの購入費は経費にあたるので、確定申告の際に経費として申告することで所得が減り、節税につながります」

副業を機にパソコンを新調し、配信や投稿に関することのためだけに使用しているということであれば、そのパソコン代も経費になる。

「配信のときに毎回同じTシャツを着ていて、普段はそのTシャツを着ていないということであれば、その購入費も経費になります。ただし、そのTシャツを本業やプライベートのおでかけでも着ているとなると、経費にはできません」

経費にするためには、副業のために利用していることを明確に証明できないといけないのだ。例えば、スポーツ選手のユニフォームやアイドルの衣装は試合やステージ上で着るもので、プライベートで着るものではないため、その購入費は経費にあたる。一方で、サラリーマンのスーツは、アフターファイブの飲み会や休日のおでかけの際にも着ている可能性があるため、経費にはならない。

「所得税の規定では、家事関連費(個人用と事業用の両方で使っていて区別ができない費用のこと)は経費と認められません。まさにサラリーマンのスーツがそれにあたります。ただし、『明確に区分できるときは経費と認められる』というルールもあります。ここがポイントです」

自宅でネット配信をしている場合、自宅の家賃すべてを経費にすることはできない。しかし、配信に使っているスペースの面積が自宅の総面積の3分の1だとしたら、家賃の3分の1は経費にできる可能性がある。

「土日だけ配信のために自動車を使っているということであれば、車代の7分の2は経費になるといえます。重要なのは『明確に区分できること』であり、費用を導き出す計算に根拠があれば、経費にできる可能性が出てくるのです」

仮に経費の内訳を税務署に聞かれたときに、明確に答えられる材料を揃えておくことが重要なのだ。

「明確に区分されていれば経費にできるため、その分だけ所得を減らし、節税につなげることができます。購入したものの領収書を残し、使用した部分の費用を算出するのは大変かもしれませんが、自分にとってプラスに働くと考えて取り組んでみましょう」

ネット配信者は「インボイス制度」の影響がある…?

2023年10月から始まるインボイス制度は、副業にも関係あるのだろうか?

●インボイス制度とは
適格請求書(インボイス)を売り手が買い手に発行し、双方が保存することで、消費税の仕入税額控除が適用される制度。適格請求書を発行できるのは、適格請求書発行事業者に登録した事業者のみ。

●仕入税額控除とは
売上にかかる消費税から仕入れにかかった消費税を差し引き、消費税の二重課税を解消する制度。例えば、売上が1100円(税込)、仕入れの費用が550円(税込)だった場合、売上の消費税100円から仕入れの消費税50円を引いた50円を納めることになる。2023年10月以降は、適格請求書がないと仕入税額控除が適用されない。

「これまでは副業の所得で確定申告をしても消費税は納めなかったため、関係ないと思うかもしれませんが、仕事相手が大企業の場合は、その大企業が消費税を納めている可能性があります。適格請求書を出せない相手との取り引きでは仕入税額控除が適用されないため、大企業は消費税の分だけ損をすることになります。そのため、2023年10月以降は、適格請求書発行事業者ではない相手とは取り引きをしなくなる可能性が出てくるのです」

ネット配信となると、SNS・配信プラットフォームの運営元やタイアップ先が大企業である可能性が高いため、適格請求書が出せないと仕事の依頼が減る可能性が考えられるのだ。

「また、マネジメント事務所と契約している人は、その事務所とのやり取りでも適格請求書の発行を求められる可能性があります。さまざまな企業とのやり取りが多いであろうネット配信を副業にしている場合は、適格請求書発行事業者の登録をしておいたほうが無難といえるかもしれません」

経費や消費税の話題が出てくると、副業が難しく見えるかもしれないが、収入を増やすことで生活が豊かになることは間違いない。要点を押さえつつ、楽しく副業できるといいだろう。
(取材・文/有竹亮介(verb))

お話を伺った方
中山 慎吾
トランス税理士法人代表税理士。大学卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)に入社、日本橋支店にて資産運用コンサルティング課に従事。その後、2020年にトランス税理士法人を設立。現在は、個人向けの税務を中心に顧客の資産形成をサポートしている。
著者サイト:https://zeikinherasu.jp/
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