景気後退と利下げが織りなす米国株の未来
提供元:野村證券(FINTOS!編集部)
米国のFRB(米連邦準備理事会)は5月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で大方の市場予想通り0.25%ポイントの利上げを行い、政策金利の誘導目標を5.00~5.25%へ引き上げました。声明文では従来の追加利上げを示唆する文言が削除されたうえ、パウエル議長はFOMC後の記者会見で、今回の会合に限らず、予てから利上げ停止の適否を議論していると説明しました。
5月のFOMC以降、市場では追加利上げ観測が後退する一方、1回当たりの利下げ幅を0.25%ポイントとした場合、23年中に2~3回の利下げを織り込んでいます。
野村證券では、米国の実質GDPの前期比成長率は2023年7-9月期以降、3四半期連続でマイナス成長となり、米国は景気後退に陥ると予想しています。このため、FRBの利上げは5月で停止され、2024年3月以降は利下げ局面に入ると予想しています。
このような経済・金融政策見通しの下で注目されるのが、米国株の行方です。これまでは利上げと、それに伴う市場金利の上昇が株価の重石と見られてきました。このため、米国の利上げ停止や、早期の利下げ実施は株価にとっては好材料とみなされる可能性があります。一方で、景気後退は米国株にとっては悪材料でしょう。今後の米国株の行方を考えるにあたって、まずは過去の経験に着目してみましょう。
上のグラフは赤色の折れ線が米国の株価としてS&P500株価指数の動きを、階段状の折れ線が政策金利の動きを表しています。また、網掛け部分は利下げ局面であったことを示しています。
1985年以降の推移を見ると、利上げ局面では概ね株高基調であった一方、利下げ局面ではむしろ株安基調であったケースが確認できます。特に2000年以降はその傾向が強まっているようです。この背景には、2000年以降の景気後退は、ITバブル崩壊やリーマンショックなど大きなリスクイベントの発生に起因するものであったことが影響していると考えられます。
では、今回はどうでしょうか。S&P500株価指数の前年比騰落率をEPS(1株当たり利益)とPER(株価収益率)に寄与度分解してみると、昨年来の株安局面では、金利上昇によるPERの低下と業績見通しの下方修正が寄与していたことがわかります。足元では長期金利が低下してきた恩恵から、PERは下げ止まり、株価押し上げに寄与し始めています。今後は利上げ停止から利下げへの転換が予想されることから、長期金利の低下を伴ってPERは押し上げ方向に寄与することが期待できそうです。
一方で、企業業績の悪化による株安圧力には当面注意する必要がありそうです。野村證券では、米国は今年の夏場から来年にかけて景気後退に陥ると予想しています。このため、代表的な景況感指数であるISM製造業指数は、当面の間、景気判断の分岐点である50ポイントを下回って推移する、あるいは更に低下するリスクがあります。このISM製造行指数は、1年後の1株当たり利益を示す12ヶ月先予想基準EPSと高い連動性があり、企業業績見通しの良い先行指標になっています。
市場では既に予想EPSは前年比でマイナスとなることが織り込まれています。ただし、マイナス幅が底打ちするタイミングに関しては、23年1-3月期決算の発表受けて従来の23年1-3月期から4-6月期へ先送りされました。今後の景気動向次第では、底入れのタイミングに対する見通しが更に後ずれし、株価を下押しする可能性も否定できません。
ただし、来年の景気回復とそれに伴う企業業績の復調が視野に入れば、利下げ局面であっても米国株は上昇基調を取り戻すことが期待できそうです。
リスクとしては、政府債務上限を巡る議論が紛糾し、米国債のデフォルトや格下げリスクが高まること、あるいは中堅・地方銀行の破綻に伴う金融不安が、金融システミックリスクへと拡大することなどが挙げられます。前者に関しては、目先の山場は6月初旬です。後者に関しては、金融当局が迅速に対応する姿勢を維持している間は、現実化するリスクは小さいと見ています。
これらはいずれも発生する可能性の低いテールリスクの位置づけですが、決着を見るまでの間は、相場の重石やかく乱要因となることが想定されるため注意が必要です。