乙武先生!金融教育、見にきてください

教育シーンを席巻する「うんこドリル」シリーズが、「お金」の分野に進出中

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金融に関する早期教育の必要性が指摘されて久しい昨今、最近では子どもや学生を対象とするさまざまな取り組みが見られるようになった。そこで「東証マネ部!」では、教員経験を持つ作家の乙武洋匡氏をレポーター役に、金融教育の最前線を追っていく。

第1回の今回は、一世を風靡した「うんこドリル」の文響社を訪問。うんこアンバサダーの石川文枝氏と、うんこ編集者の駒井一基氏に、金融教育に関する数々の取り組みについて話を聞いた。

「うんこドリル」シリーズはなぜ生まれた?


乙武 今や子どもたちを中心にすっかりおなじみになった『うんこドリル』ですが、学科ドリルだけでなく、最近は非常に多岐にわたるレクチャーを行っていますよね。そもそもこの企画の発端は何だったのでしょうか?

駒井 最初に『うんこ漢字ドリル』を発売したのは、2017年3月のことです。作者の古屋雄作さんがもともと、「うんこ」が小学生に対して非常に引きの強いモチーフである点に着目して、「うんこ川柳」を制作されていたのがきっかけでした。その名の通り、子どもたちにうんこを用いて川柳を作ってもらうという取り組みですね。

この「うんこ川柳」を弊社の社長が見て、漢字ドリルにすれば面白いのではないかと着想したことが、企画の始まりでした。従来の漢字ドリルというのは無機質な例文ばかりで、子どもたちにしてみればどうしても興味が持ちにくいですから、うんこを活用することでより意欲的に学べるのではないかと考えたわけです。

乙武 お二人の名刺もまた、いいですねえ。駒井さんがうんこ編集部、石川さんがうんこ事業部の所属となっています。

石川 ありがとうございます(笑)。うんこ事業部は「うんこドリル」シリーズの好評を受けて、この企画の価値をより高めていくために、今からちょうど4年前に新設された部署になります。

駒井 「うんこドリル」の発売初年度には、グッドデザイン賞をいただいたり、流行語大賞にノミネートされたり、大きなブームになりましたので、弊社としてもこの取り組みをより広げていこうと本腰を入れた形ですね。お陰様で、シリーズ累計で1000万部を突破しました。

乙武 それは凄い! そんなに人気があるなら、横展開しようと考えるのも企業としては当然ですよね。石川さんは「うんこアンバサダー」なる肩書きもお持ちですが、任命された時はどう思われましたか?(笑)

石川 それまでは私は広報としてこのシリーズに関わっていたのですが、社長から突然、「君にはこの、『うんこ』シリーズの顔として頑張ってもらいたい」と言われた時には、思わず固まってしまいました(笑)。でも、冷静に考えてみれば弊社の看板シリーズですし、これはありがたいお話だなと理解して、「うんこアンバサダー」を拝命することにしました。

金融庁、財務省ともコラボレーション


乙武 それにしても、今でこそ人気シリーズとして定着してはいますけど、最初に『うんこドリル』が世に出た時には、保護者の方などからクレームはなかったんですか?

駒井 おそらくそうしたお声もあるだろうということは、我々も想定していました。そのため例文の制作方針として、うんこをなるべく汚いものとして扱わないよう気をつけたり、いじめを誘発したりするものにならないよう、最大限に配慮しています。

乙武 私も小学校で教員をやっていたので、子どもたちにとって漢字ドリルがいかに苦痛なものかはよく理解しているんです。だからこそ、そこに純粋な楽しさを加えたことは、素晴らしい功績だと思います。これは他の分野についても同様で、今回はまさにお金という、やはり子どもたちにとってとっつきにくいものにまで取り組みを広げられている点に注目しました。具体的な取り組み内容について教えていただけますか。

石川 うんこをモチーフにするだけで、全国のお子さんが進んでドリルを開いてくれるようになったことを我々は体感していますから、これはきっとお金の勉強であっても同様だろうと考えました。そこで金融庁とコラボしたのが最初で、2021年3月にウェブで『うんこお金ドリル』の「生活編」をリリースしています。

乙武 反響はいかがでしたか?

石川 公開直後から、SNSなどで拡散していただいたり、ヤフー・ニュースのトピックで扱っていただいたり、大反響をいただいて驚きました。とりわけ印象的だったのは、イギリスの『フィナンシャル・タイムズ』で「日本ではpoop(うんこ)を戦略的に金融教育に活用している」といった記事が掲載されたことですね。そうした反響もあり、2021年10月には同じく『うんこお金ドリル』の「経済編」をリリースしています。

乙武 また、財務省ともコラボされていますよね。こちらは?

石川 こちらは冊子形式で、『うんこ税金ドリル』を発行したのが2021年11月。幸いこれもご好評いただき、今年の2月に第2弾が発行されたところです。3月の国会答弁で鈴木俊一財務大臣が、『うんこ税金ドリル』について「小学生が税金について考えるいいきっかけになる」といった内容のご発言をされていたのが嬉しかったですね。

乙武 たとえば第2弾の『うんこ税金ドリル』では、税金のある世界とない世界をイラストで対比させていますが、これはわかりやすくていいですね。税金がなければ行政のサービスが止まり、社会がどんどん悪い方向へ行ってしまう様子が明快に表現されています。

石川 ありがとうございます。内容については、時にセンシティブな領域もありますので、弊社としては面白さとリスクのギリギリのラインを見極めて、慎重を期して制作しているつもりです。お子さんを傷つけてしまうようなことがあってはならないので。

駒井 そのあたりは社会情勢と共に人々の考え方も変わってきますから、よく見極めなければなりません。

科学で証明された、「うんこ」の学習効果

乙武 たとえば『うんこ税金ドリル』であれば、あまり税金の重要性に偏り過ぎてしまうと、減税派の人たちから異論の声があがるかもしれません。「うんこドリル」シリーズは楽しげな反面、リスクと隣り合わせの一面もありそうです。

石川 その半面、これほど話題の取っ掛かりにしやすいワードは他にないですから、我々の存在意義として、そこは大切にしていきたいとの思いもあります。実際、全体としてネガティブなご意見は少なくて、「勉強が楽しくなるならいいのではないか」という肯定的なお声をたくさんいただいていますので。

乙武 なかには『うんこドリル』のおかげで成績が上がったという子どももたくさんいるのでしょうね。

石川 そうですね。ありがたいことに、「『うんこドリル』のおかげで100点取れました」という声は少なくありません。

駒井 これについては実は、東京大学との共同研究で、科学的に実証されているんですよ。『うんこドリル』を使った場合と、うんこではないドリルを使った場合の、脳の働きや集中力を測定して比較したデータがありまして、『うんこドリル』を使ったほうが高い学習効果が得られることが判明しました。

乙武 それは素晴らしい! 私は勉強の入り口は何でもいいと思っているんです。これはスポーツにたとえるとわかりやすくて、サッカーを見ていてイケメン選手が目について、それを機に競技のファンになることがあっても、結果的にファンが増えるのだから経営的にも良いことじゃないですか。

勉強も同じで、結果として学習効果が高いなら、何を取っ掛かりにしてもいいはずで、私の教員時代にこうした教材が存在していたら、たぶん喜んで使わせてもらっていたと思います。金融という分野に絞っても、まだまだやれることはたくさんありそうですよね。

石川 そうですね。国家戦略として金融教育を推進していく方向性がありますから、我々としてもぜひそこに貢献したいと思っています。たとえばお金の運用の話とか、金融経済の仕組みの話とかですね。

乙武 お金の話というのは生々しくなりがちですから、なおさらうんこが介在すると、子ども向けにマイルドになっていいかもしれません。お二人には今後も頑張っていただいて、ぜひ日本の子どもたちのお金に対する理解度を底上げしてほしいですね。

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お話を伺った方
乙武 洋匡
1976年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。大学在学中に出版された『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活動。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。地域に根差した子育てを目指す「まちの保育園」の経営に参画。2018年からは義足プロジェクトに取り組み、国立競技場で117mの歩行を達成。2000年、都民文化栄誉章を受賞。
著者/ライター
友清 哲
1974年、神奈川県生まれ。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て独立。主な著書に『日本クラフトビール紀行』『物語で知る日本酒と酒蔵』(共にイースト・プレス)、『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)ほか。また近著に、『横濱麦酒物語』(有隣堂)がある。
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