乙武先生!金融教育、見にきてください

お金の心得を学ぶオンラインゲーム。その制作の舞台裏を直撃

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2017年の発売以来、子どもたちに絶大な人気を誇る「うんこドリル」シリーズ。今では学校の教科だけでなく、金融庁や財務省とコラボレーションするなど、金融教育の分野でも大きな反響を呼んでいる。

昨秋にはマネーフォワード社とのコラボレーションで、『Money Forward×うんこドリル お金の心得』という、お金の心得を学べるオンラインゲームがリリースされたばかり。前回に引き続き文響社を訪問し、うんこアンバサダーの石川文枝氏と、うんこ編集者の駒井一基氏に、コラボの舞台裏を聞いた。

お金との付き合い方を学ぶオンラインゲーム


乙武 オンラインゲーム『Money Forward×うんこドリル お金の心得』は、お金に関するリテラシーがクイズ形式で養えて、非常に有用なコンテンツだと感じました。企画の発端は何だったのでしょうか?

石川 こちらは金融系ITサービスを手掛けるマネーフォワードさんが、創業10周年に合わせてオファーしてくださった企画になります。昨年の11月下旬、「みんなで学んで、一生役立つ。」をテーマに催された、大人や子どもにお金にまつわる学びを届けるオンラインイベント『お金のEXPO 2022』内のコンテンツの1つとしてローンチしたものです。

駒井 最初の段階でいただいていたご要望は、お子さんやその親御さん向けに、何らかお金について学べるコンテンツを作れないかという、コンセプトのみでした。では、それをどういったスコープでコンテンツに落とし込んでいけばいいのか、事業部でかなり議論しましたね。

乙武 紙のドリルのイメージが強いので、個人的にはオンラインゲームという形式はけっこう意外だったんですよ。

石川 そこはマネーフォワードさんのイベントがオンラインで実施されるとのことでしたので、わりと自然に着地したアイデアでした。この分野ではこれまでにも、金融庁とオンラインゲーム形式でコンテンツを作った経験がありましたし、企画が作りやすかったんです。

乙武 たとえば冒頭で「夢はお金持ちになること。これってだめ?」とか、「お金もうけはいいこと? 悪いこと?」といった出題があって、お金を稼ぐことが即ち悪いことではないという、肯定的な構成になっているのが印象的でした。内容や方向性については、どのような議論を?

石川 お金というのは大人にとっても複雑で難しいもので、だからこそ未来を担う世代にしっかり学ぶ場を提供したいという考えがまずありました。重要なのは、お金を稼ぐことは経済や社会にとって良いことであると知っていただくことですが、その反面、人を騙すなど悪いことをして稼ぐのはいけないことであるという常識を、できるだけ楽しみながら知ってほしいというのが一番の狙いでした。

乙武 しかし、対象年齢が小学生であることを踏まえれば、どこまで込み入った話をするのか、線引きが難しそうですよね。

石川 おっしゃる通りで、たとえば闇金融に手を出してはいけないとか、借り入れをし過ぎないようにとか、ネガティブな部分に警鐘を鳴らすようなアイデアも多数出ていたのですが、ブレストの中で違和感を覚え、再考した経緯があります。

というのも、マネーフォワードさんの理念として、お金とうまく付き合っていくことで人生を豊かにしようというメッセージがあったためで、だったらもう少しお金の捉え方や見え方を良い方向に変えられる、ポジティブなコンテンツにしようとなったわけです。

乙武 なるほど。相手が子どもだからこそ、それは大切なテーマですね。

専門知識を“うんこ化”して噛み砕く


石川 お金というのは、以前であればがんがん働いて稼ぐことがよしとされ、最近であればきっちり倹約を心掛けて老後に備えることが大切といったような、時代に合わせてさまざまな考え方が付きまといます。でも、そうしたお金とのしがらみのようなものを持つことで、人生の選択肢が狭まってしまうようではいけません。今回のコンテンツでは、そのあたりにだいぶ配慮したつもりです。

乙武 つまり、お金に関するテクニカルな知識に主軸を置くのではなくて、お金に対する価値観、あるいはお金との距離感といった部分を重視した、と。

石川 そうですね。何かに対するアンチテーゼを伝えるのではなく、純粋にどういうお金の使い方をするのがいいのか、自分で考えられるようになってもらうことが目的でした。

乙武 お二人とも「うんこ」を介在させた学びを作るプロフェッショナルですが、お金に関する知識の面で、専門家の知見を借りることもあるのでしょうか?

駒井 それについてはお金に限らず、毎回その分野の専門家の方と議論しながら制作を進めるようにしています。

石川 識者の方々から積極的に知識や情報をいただいて、弊社がそれを“うんこ化”する、という流れですね。

乙武 “うんこ化”というのは、まさに御社ならではのパワーワードですよね(笑)。毎回いろんな専門家と組みながら、うんこを交えて情報を噛み砕いていくためには、自分たちも学ばなければならないわけで、なかなか大変なお仕事だと思います。しかしその分、制作者である皆さんもさまざまな気付きや学びがあったのでは?

石川 たしかに、今回のオンラインゲーム制作を通して、自分自身もお金との距離感を学べたように感じます。私はもともとお金の勉強に苦手意識があったのですが、お子さんに正しい知識を届けるものだという前提に立ったことで、自然とニュートラルな視点を持てた気がします。

駒井 私は小学3年生になる娘がいるのですが、そろそろお小遣いをどうするか考えなければならないタイミングなんですね。そこで、どのくらいの金額をあたえるのが適切なのか、家族でじっくり話し合いまして、週に1度300円渡して、お手伝いなどをしたらさらにプラスするという仕組みが出来上がりました。こうしてルール化する発想が得られたのも、このコンテンツを作った経験があればこそだと思います。

乙武 なるほど。ただ自動的に定額を渡されるよりも、はるかに学びが大きいでしょうね。

駒井 これから子どもが成長していくにあたって、ますますお金との関わりは深くなっていきますから、今のうちからお金との付き合い方をちゃんと学んでほしいと思ったんです。

大人からも好評を得た『うんこドリル お金の心得』


乙武 このオンラインゲーム『うんこドリル お金の心得』、リリース後の反響はいかがでしたか?

石川 お子さんはもちろんですが、意外と大人の方にもプレイしていただけたのは想定外でした。とくにSNSなどを見ていると、「これを早いうちから子どもにやらせたい」とか、「大人も勉強になる」といったコメントをいただいていて、思いのほか広い層に楽しんでいただけています。

乙武 わかる気がします。私ものっけから「夢はお金持ちになること。これってだめ?」と突きつけられて、けっこう考えさせられましたから。大人はどうしても格好つけてしまいますから、かえって子どものほうが迷わず答えられるのかもしれないですね。2問目の「お金もうけはいいこと? 悪いこと?」にしても、拝金主義だと思われたくないという気持ちがあって、決断を鈍らされましたし(笑)。

石川 なまじ直球の問いだからなのか、そういう感想は多いですね(笑)。

乙武 つまり、お金に対して自分なりの価値観を確立することが、いかに難しいかということでしょう。だからこそ、取っ掛かりは「うんこ」でもいいから、早いうちからリテラシーを養わなければなりません。

駒井 そうですね。だから今回も、お金持ちになることが良いか悪いかよりも、お金持ちを目指すのは悪いことではないということを伝えたかったんです。ただし、誰もがお金持ちを目指す必要はなくて、人それぞれ選択肢があっていい、と。大人の方に刺さったのも、そういうところだと思います。

乙武 ちなみに、コラボしたマネーフォワードさんからは、どのようなフィードバックがありましたか?

石川 こうして「うんこ」を取り入れたことで、イベント自体がすごく盛り上がったというお言葉をいただきました。当初案ではもう少しお金に関するテクニカルな出題が中心だったので、結果的にこういう価値観や距離感に寄せた構成にして正解だったのだと感じています。

乙武 個人的にも、ひと通りやってみて、もっとお金のことを知りたいという気持ちにさせられました。これも「うんこ」の学習効果ですね。ぜひこれを皮切りに、第2弾、第3弾の制作にも期待したいです。

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お話を伺った方
乙武 洋匡
1976年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。大学在学中に出版された『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活動。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。地域に根差した子育てを目指す「まちの保育園」の経営に参画。2018年からは義足プロジェクトに取り組み、国立競技場で117mの歩行を達成。2000年、都民文化栄誉章を受賞。
著者/ライター
友清 哲
1974年、神奈川県生まれ。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て独立。主な著書に『日本クラフトビール紀行』『物語で知る日本酒と酒蔵』(共にイースト・プレス)、『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)ほか。また近著に、『横濱麦酒物語』(有隣堂)がある。

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