「決算月の権利確定日」に株主でいないと参加できない!?
オンライン化&シンプル化が進む「株主総会」って何をするところなの?
6月に開催されることの多い株主総会。株式会社にとって重要な催しであることは察しがつくものの、実際に何が行われているのか、その内容を知らない人は多いだろう。
「株主総会とは、株式会社における最高意思決定機関です。会社にとって重要なことを決める会議と考えるとわかりやすいでしょう」
そう教えてくれたのは、ファイナンシャルプランナーの氏家祥美さん。改めて株主総会とは何なのか、聞いていこう。
「定款変更」「役員人事」などの重要事項を決める場
「まず押さえておきたいのは、株式会社のオーナーは社長や役員ではなく株主だということです。そして、会社の役員人事や事業の方向性、お金に関することを決めていく会議が、株主総会です。従業員からすると、社長や役員がすべてを決めているように見えますが、実際に決めているのは株主。社長や役員は、株主に経営を任された人たちなのです」(氏家さん・以下同)
そのため、株主総会では次のようなことが決議される。
●会社の組織や事業に関する事項
定款の変更や事業の譲渡、合併など、会社にとって重要な行為に関する事柄。
●役員等の人事に関する事項
社長や役員の選任、退任など、役員人事に関する事柄。
●株主の権利に関係する事項
会社の決算をもとに導き出される資本金や配当金に関する事柄。
「これらの内容について、株主総会で株主が集まり、会社の提案をもとに決議を行います。株主総会では1人1票ではなく、1株1票(または1単元1票)となり、持ち株数が多い人ほど影響力が大きくなるのです」
決議は重要度によって、普通決議、特別決議、特殊決議という3つの方式に分かれている。
●普通決議
原則として、株主総会で行われる決議。定足数(議決に必要な最小限の出席者数)・賛成数の2つの要件を満たす必要がある。
・普通決議の定足数要件
行使可能議決権(票を入れられる権利)を持つ株主の過半数が株主総会に出席していること(定款によって定足数を排除することもできる)
・普通決議の賛成数要件
株主総会に出席する株主が持つ議決権の総数に対して、過半数以上の賛成を得ること
●特別決議
定款の変更や事業の譲渡など、重要度の高い事項について行われる決議。定足数・賛成数の2つの要件を満たす必要がある。
・特別決議の定足数要件
行使可能議決権を持つ株主の過半数が株主総会に出席していること(定款によって定足数を行使可能議決権の3分の1までに緩和することもできる)
・特別決議の賛成数要件
株主総会に出席する株主が持つ議決権の総数に対して、3分の2以上の賛成を得ること
●特殊決議
特別決議の事項よりもさらに重要度の高い事項について行われる決議。次の2つのパターンの要件が定められている。
(1)発行株式のすべてに譲渡制限を設ける旨の定款変更を行う場合の要件
・定足数要件
行使可能議決権を持つ株主の過半数が株主総会に出席していること
・賛成数要件
株主総会に出席する株主が持つ議決権の総数に対して、3分の2以上の賛成を得ること
(2)剰余金の配当・残余財産の分配・議決権に関して、株主ごとに異なる内容を定める旨の定款変更を行う場合の要件
・定足数要件
株主の過半数が株主総会に出席していること
・賛成数要件
総株主が持つ議決権の総数に対して、4分の3以上の賛成を得ること
株主総会が6月に開催されるワケ
株主総会は6月に開かれることが多いが、理由があるのだろうか。
「株主総会は決議を行うだけでなく、会社の決算結果の報告の場でもあるので、決算月の3カ月後に株主総会が開かれるケースが多くなっています。日本の会社は3月を決算月としているところが多いため、6月に開かれることが多いのでしょう。ちなみに、6月に開催される株主総会は、一般的に定時株主総会であることがほとんどです」
株主総会には、定時株主総会と臨時株主総会の2種類がある。
●定時株主総会
会社法によって、年1回開催することが義務付けられている株主総会。開催時期は指定されていないため、会社が個々に決定できる。
●臨時株主総会
定時株主総会以外に、必要に応じて開催される株主総会。開催時期や回数に制限はなく、いつでも開催できる。
「コロナ禍を経て、株主総会の雰囲気が変わってきている」と、氏家さんは話す。
「コロナ前は株主総会=お祭りのような雰囲気で、コンサートを開いたり、自社商品をお土産にしたりする会社もありました。しかし、コロナ禍で1カ所に集まることが難しくなり、オンライン化が進んだことで、本来の姿に戻ったように感じます。最近はオフラインでの株主総会も再開されていますが、以前のようなお祭り感はなく、シンプル化しているところが多い印象です」
コロナ禍から引き続き、オンラインで株主総会を開催している会社も存在する。初めて出席する人や遠方に住んでいる人も参加しやすいだろう。
株主総会に参加する条件と方法
そもそも株主総会に参加するには、条件があるのだろうか。
「株主総会に参加できるのは、決算月の権利確定日に株主の権利を得ている人です。例えば、3月が決算月の会社であれば、3月の権利確定日までに株主になっていれば参加できます。ただし、権利確定日に株を買えばいいというわけではありません。株主としての権利を得るためには、権利確定日の2営業日前の権利付き最終日までに株を購入しましょう」
ちなみに、2024年3月の権利確定日は29日、権利付き最終日は27日となっている。3月決算の会社であれば、2024年3月27日までに株を買うことで、次年度開催の株主総会に参加できる。
「この条件を満たしていると、株主総会の2週間前までに『株主総会招集通知書』が届きます。同封されている『議決権行使書』を会場で提示することで、株主総会に参加できます」
基本的に100株以上保有していれば議決権が与えられるが、稀に100株以上持っていても議決権が与えられないことがある。株を購入する予定の会社ではどのように定義されているか、事前に確認しよう。
株主総会への参加で「客観的視点」が手に入る
株主総会への参加経験がある氏家さんは、「株主総会は社会勉強につながる」と話す。
「株主総会に出席することで、会社は株主のものであり、経営するのが社長を筆頭とした従業員であるという形が客観的に見えてきます。1年間の売上や利益、今後の戦略などについても説明してくれるので、一歩引いて株式会社という組織を見る機会になるでしょう」
客観的に会社を見るという視点が、自身のキャリアにも重要な意味を持つという。
「仕事をするうえで、目の前の仕事しか目に入らない人よりも、大きな視点で会社を捉え、自分には何ができるか考えられる人のほうが伸びやすいといえます。興味のある会社の株主総会に参加して、客観的な視点を知り、その視点をもって自分の勤める会社を見てみると発見があるはずです」
株主総会に参加することで、普段はできないような経験を積むこともできるようだ。
「基本的に質疑応答の時間が設けられているので、その会社の事業や業績で気になることがあれば、直接社長や役員に質問できるチャンスがあります。オフラインの会場に行くと、その会社に投資をしている人たちの雰囲気を知ることもできます。参加するだけでも、収穫は多いでしょう」
まだ株を保有していない人でも、株主総会の情報を得て、社会の動きを知ることはできる。
「株主総会のシーズンになると、新聞やニュースサイトに各社の株主総会に関する記事が掲載されます。その記事を読むだけでも、さまざまな会社の状況や動向が見えるので、今後の投資先を選ぶヒントになるかもしれません」
株主総会に出席することで、その会社の魅力をより深く知り、自身の視野も広がっていく可能性がある。株主になったら、ぜひ参加してみよう。
(取材・文/有竹亮介(verb))