【三宅香帆の本から開く金融入門】
確定申告に苦しむ個人事業主こそ、必読の一冊『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』
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確定申告に苦手意識をもつ人こそ、財務3表を読むべきだ
決算書。財務3表。――そんな単語を見ると「よく分かんないけど、そんなの会社のビジネスに必要な人だけ分かればいいんじゃないの?」と思われるかもしれない。
実際、会社に勤めている人の方が「財務3表を理解しろ」とか「決算書を読めるようになっといた方がいいよ」とか言われがちだ。
しかし。実は、個人事業主こそ、財務3表を理解しておいた方がいい! と私は思っている。
というのも、財務3表が理解できれば、個人事業主の大敵、確定申告の理解が確実に進むからだ。
個人事業主として毎年青色申告で確定申告をおこなってはいるものの、そこで作り上げられる表の意味をしっかり理解できていない人は案外多いのではないだろうか。かく言う私も、そのひとりだ。
確定申告の作業をおこなう際、会計ソフトに今年度の数字を入力したら自動的に「貸借対照表」や「損益計算書」は作り上げられるし、その数字がおかしくないかをチェックすることはできる。が、なぜそんな表が必要なのか、そしてなぜこんな作業をしなくてはいけないのか、確定申告で提出するものの意味を分かっていない人は……私だけではないだろう。
もしあなたが確定申告をぼんやりおこなっているとすれば、ぜひ、企業が毎年出している「決算書」の存在を知ってほしい。
「決算書」を理解することができれば、あなたが毎年作業して作り上げている、確定申告書の意味が理解できるからだ。
財務3表に関する基礎と応用、どちらもカバーする一冊
企業が毎期発表する、決算書。それは、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、株主資本等変動計算書の4点を総称したものだ。
なかでも貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書は特に重要なので、まとめて「財務3表」と呼ばれる。
「財務3表」はなぜ重要なのか? それは、その企業の現在のビジネスがどうなっているかを、すべて数字で把握することができるからだ。儲かっているのか? 現金はどれくらいあるのか? 黒字なのか? 広告宣伝費にどれくらいかけているのか? その答えはすべて「財務3表」を読み解けば、理解することができる。
今回紹介する『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』(大手町のランダムウォーカー:著/KADOKAWA)は、その「財務3表」の読み解き方を、クイズ形式で具体的に教えてくれる本だ。
この本の何がいいかといえば、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」について、それぞれ個別に、具体的な会社の事例とともに解説してくれているところだ。たとえばこの連載では以前『決算資料からビジネスの仕組みが見えてくる』を紹介したが、これはある一社の決算資料からさまざまな点を読み解くのが特徴だった。これは入門として決算書に触れるのにはとてもいいのだが、本を読み終わり、いざ決算書を自分で読み解こうとすると「えーと、そもそも貸借対照表って何だっけ……?」と具体的な読み解き方が分からないという欠点があった。
しかし本書の場合は、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」を読むために必要な単語の意味をそれぞれ解説したうえで、クイズ形式で具体的な企業の決算書を読んでいく形式になっている。つまり①概念の理解→②企業の具体例のどちらも触れることができ、そしてクイズ形式になっているので、楽しく勉強することができる。
これ以上ないくらい、財務3表を分かりやすく学べる一冊になっているのだ。
企業も個人事業主も、同じことをやっている
青色申告の場合、個人事業主が税務署に提出する青色申告決算書においては、「貸借対照表」「損益計算書」の提出が求められる。――そう、このふたつ、実は世の中の企業が毎期発表している決算書と同じ構成になっているのだ。
企業が「今期の事業に関する資産はどのように変わったのか」「今期どのようにして利益を出したのか、出せなかったのか」を世の中に公表するのと同様に。個人事業主は、税務署に対して、「今年の事業に関する資産はどのように変わったのか」「今年どのようにして利益を出したのか、出せなかったのか」を説明し、そのうえで税金控除を求める。それが確定申告の作業なのだ。
だからこそ、企業の財務3表を読めるようになると、個人の確定申告の作業の意味が理解できるようになる。それはまさに、あの有名企業も、自分の事業も、同じことをやっているのか! と分かるようになるからだ。
むしろ確定申告で自分の事業の決算書を扱うことに慣れている分、企業の決算書も一度分かればすんなりと理解できるようになるのではないか、とすら思う。決算書は個人事業主こそ読むべきなのだ。
確定申告にげんなりしていても、「ああ、あの大企業ですら同じような作業を経て、決算書を毎年出しているのか……」と思うと、もしかすると自分の事業についての決算書を作る気力が湧いてくるかもしれない。もちろん企業やビジネスについての理解も深まり、世間について分かることが増える。
個人事業主の方こそ、この本を読んで、「財務3表」を理解することに挑戦してみることを、ぜひおすすめしたい。