過去のニュースとともに金融商品の値動きを振り返ろう!

家族や同僚と相談しながら投資体験ができるシミュレーター「とうしくんとタイムトラベル」

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教育現場だけでなく、家庭や企業などでも重要視されている「金融教育」。さまざまな機関が個人でも取り入れられる形で、金融の知識を得られるツールを公開している。

消費者教育支援センターが教育現場で役立つ教材を表彰する「消費者教育教材資料表彰」で、2023年の優秀賞に選ばれたのが、日本証券業協会が公開している「とうしくんとタイムトラベル!~資産形成を体験しよう!~」。

「とうしくんとタイムトラベル」が開発された経緯や家庭での活用法について、日本証券業協会 金融・証券教育支援本部の金子敏之さん、鎌田賢一郎さんに聞いた。

「資産配分」を選択していくシミュレーター

「とうしくんとタイムトラベル」は、過去の金融商品の値動きを通じて、「長期・積立・分散投資」の重要性を体感してもらうことを目的としたシミュレーション教材。

この教材では、2000年から2022年までの間(※)の「預金」「国内債券」「外国債券」「国内株式」「外国株式」の実際の値動きが組み込まれていて、体験者は過去に“タイムトラベル”して、この5種類の金融商品のうち、どの金融商品にどれくらいの割合で資産を配分するか決めていく。

※過去データは毎年更新され、加えられていく。

合計100%になるように5つの金融商品に配分していく。

選んだ資産配分(ポートフォリオ)は5年を1タームとして運用を行い、積立投資を行った場合の結果が表示される。結果を確認したら、次の5年間の配分を決めて運用を行うというステップを最大4回(最大20年間分)繰り返すことができる。

タームごとの「各金融商品のリターンの推移」のグラフには青い半円が表示され、これをタップすると、当時のニュースを確認できる。

2008年9月のリーマンショックをきっかけに、株式が暴落していることがわかる。

この教材は1人で行うこともできるが、複数人・複数グループでシミュレーションすることで、それぞれの結果を比較できる面白さがある。というのも、もともと「とうしくんとタイムトラベル」は、大学で行われていた金融教育セミナーで使っていた教材なのだそう。

配分した金融商品によって、結果が大きく異なる。

複数人で同時にシミュレーションできるシステム

「十数年前、日本証券業協会主催で大学生向けに金融証券に関する知識を伝えるイベントを行っていました。その際に、ただ座学でリスクやリターンを学ぶだけでなく、体験できたら印象に残るのではないかというところで開発したのが、『とうしくんとタイムトラベル』のもとになる教材でした」(鎌田さん)

鎌田さんが主体となって開発した教材は、過去の値動きをエクセルとパワーポイントでまとめ、シミュレーター化したもの。「とうしくんとタイムトラベル」は複数人で同時にシミュレーションできるという特徴があるが、当時からその仕様だったという。

「1人で考えるより誰かと一緒に考えるほうが、いろいろな視点や気付きが得られるので、複数人でシミュレーションできる仕様にしました。大学向けのセミナーは1回に100人くらい集まっていたため、10人1グループで、グループごとに資産配分を考えてもらう形で進めていました」(鎌田さん)

「話し合いながら資産配分を決めると『堅実に債券』って人がいたり『外国株一択』って人がいたり、それぞれの意見が出て盛り上がるんですよ。教材なので学びが第一ですが、まずは楽しくないと関心が持てないので、『面白いね』って入り口でもいいのかなと」(金子さん)

過去の値動きをもとにした構成も、教材がつくられた当初から変わっていない。

「作為的につくられた数字ではなく実際のものなので、『こんなに損するんだ』『こんなに利益が上がるのか』と、実感が湧きやすいと思います」(金子さん)

「過去のニュースや出来事って、明確に覚えているもののほうが少ないじゃないですか。だから、過去を振り返ってシミュレーションしても、うまくいかないことがほとんどなんです。そうなると、未来はなおさらわからない。だから、リスクコントロールの方法をちゃんと身に付けよう、という意識になってくれたらうれしいですね」(鎌田さん)

実際にシミュレーションしてみると、株式が好調な時期もあれば、債券のほうが好調な時期もあることがわかる。常に成績がいい金融商品はないということを実感するだろう。

「常に儲かる資産配分を見つけ出すのは至難の業。『国内債券』『外国債券』『国内株式』『外国株式』に25%ずつ割り振ったらどうなるか、といった視点も出てくるでしょう。さまざまな配分で試してみてください」(鎌田さん)

金融教育教材として教育現場での導入も進む


大学のセミナーで活用している間は、日本証券業協会所有のパソコン1台だけで扱える教材だったそう。ウェブで公開されたのは、2022年3月のこと。

「大学でのセミナーは2017年頃に終わっていて、その後は学校の先生向けに行っていた金融教育セミナーのなかで活用していたのですが、そのときにも先生方からの反応がすごく良かったんです。ただ、1台のパソコンでしか使えないので、全国で気軽に使えるものではなかった。その打開策を考え始めたのが、4年くらい前の話です」(金子さん)

さまざまな方法を検討した結果、パソコンやスマートフォンさえあればアクセスできるように、インターネット上での公開に決まった。

「いまでも学校の先生向けのセミナーで体験してもらっているのですが、『学校に持ち帰って同僚とやってみます』って声をいただきます。子どもたちに教えるだけでなく、大人同士で共有したいと思っていただけるのはうれしいですし、資産形成に関心を持ってもらう効果があるのかなと」(鎌田さん)

「とうしくんとタイムトラベル」を授業にも取り入れられるよう、教授用手引きも公開している。まずは先生自身が経験し、このシミュレーターの面白さを知ることで、子どもたちにも伝えやすくなるだろう。

金融経済ナビ「授業用副教材」(ページ内に「とうしくんとタイムトラベル」の教授用手引きがある)

「教授用手引き」には使用方法に加え、活用のポイントが記載されている。

家庭での活用のポイントは「事前の学び」と「振り返り」


「とうしくんとタイムトラベル」はウェブで公開されており、誰でもアクセスできるため、家庭での金融教育にも活用できる。その際のポイントも聞いた。

「大切なのは、事前の学びです。『とうしくんとタイムトラベル』を始めると、シミュレーションを行う前に各金融商品の特徴やリスク・リターンの関係を解説するページが出てきます。ここを家族で一緒に読んだうえでシミュレーションを始めてもらうと、資産配分などを考えやすくなるでしょう」(金子さん)

シミュレーションを始める前に、金融商品やリスク・リターンが解説される。

「もうひとつ大切なのが、シミュレーション後の振り返りです。ただ結果を見て一喜一憂するだけでなく、シミュレーションすることで出てくるであろう『なぜ、損してしまったんだろう?』『果たして預金だけでいいのか?』『リスクを減らす方法は?』といった疑問を解消することが大切です。そのために用意している振り返り動画を見てもらうと、長期・積立・分散投資の仕組みがわかり、疑問の解消につながると思います」(鎌田さん)

シミュレーションを進めるうえで、「金融商品はどう選んだらいいんだろう?」「そもそも投資のリスクって何?」といった疑問が生じた際のお助けツールも用意されている。

「シミュレーションの途中に、とうしくんが出てくる解説漫画を用意しています。子どもに質問されたり、親もわからないことがあったりしたら、ぜひ一緒に読んで知識を得てほしいですね」(金子さん)

イラストをまじえながら、わかりやすく投資をひもといてくれるマンガ。

「1人で体験するのではなく、ぜひ家族で話し合いながら、それぞれの資産配分を考えてみてほしいです。親子でも投資の考え方は異なると思うので、親が『こうしなさい』と決めるのではなく、子どもの意見も尊重しながら、いろいろな形の投資を体験してみてください」(金子さん)

「安定志向だったり積極運用だったり、それぞれの性格が出るのも面白いところですし、そこに正解はありません。どのような考えでその資産配分に決めたのか、家族で話してみることで、資産形成を深掘りして考えるきっかけになると思います」(鎌田さん)

複数人でシミュレーションし、結果を比較できる「とうしくんとタイムトラベル」。家族それぞれに資産配分を考え、なぜ結果に差が出るのか考えてみると、投資にますます興味が湧くことだろう。
(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/山本倫子)

著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
用語解説

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