金融サービス仲介業は海外事業者も惹きつける

日本参入のきっかけは法改正。“選べない”悩みに向き合う金融アプリ「Habitto」

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アプリで投資や貯金ができる金融サービスが増えるなか、外資系企業が日本に入り、この種のプロダクトを作って展開するケースも出てきた。2023年6月にサービス提供を開始した「Habitto(ハビット)」がそれだ。

開発したのは、サービスと同名の株式会社Habitto。2021年、シンガポールに本拠地となるSJ Mobile Labs (エスジェイ・モバイルラボ)を設立すると、日本で事業を行うために同年11月にHabitto社(当時はエスジェイ・モバイルラボジャパン)を立ち上げた。

事業の“舞台”に日本を選んだ理由は大きく2つ。金融リテラシーの課題の根深さと、2021年11月に創設された「金融サービス仲介業(新仲介業)」の可能性の大きさだという。課題と可能性、2つの対称的な要素はこの国での事業展開にどんな意義を与えたのか。創業者兼CEOのサマンサ・ギオッティ氏に聞いた。

新仲介業は海外で話題。むしろ「日本の静けさに驚いた」


ギオッティ氏はもともと、イギリスの企業でベンチャー投資を行っていた。ヨーロッパや中東、アジアなど、広い地域のビジネスを見る立場だったという。

その後、事業者に転身し、日本で新しい金融サービスを作ろうとしたのは2021年のこと。11月にエスジェイ・モバイルジャパンを設立し、2023年3月に現在の社名へと変更した。

事業の舞台に日本を選んだ理由として、まず彼女が口にするのは「金融リテラシーの課題」だ。

「私は、誰もがお金に関する知識や、生涯をかけてどのように貯蓄・運用するかというマネープランをきちんと持つべきだと思っています。しかし日本の特に若い世代の方は、まだ十分ではないと感じました。投資を行う若年層が少ないことがそれを物語っています」

もう1つ、この国で事業を行おうと考えた理由が「金融サービス仲介業」の創設だ。

銀行・証券・保険の分野において、商品を紹介・販売するといった“仲介業”を行う場合、これまでは銀行なら銀行代理業者、証券なら金融商品仲介業者……と、業種ごとに法的な登録をする必要があった。しかしこの新制度では、1つの登録で3業種横断での仲介業が可能に。たとえば同じサービス内で、証券と保険の商品を両方紹介するなどが容易になる。制度の詳細は、東証マネ部!でも過去に詳しく取り上げた

この制度ができたとき、海外の金融業界では大きな話題になったという。むしろ「日本であまり盛り上がっていないことに驚いたほどです」と、ギオッティ氏は振り返る。

「それほどインパクトの大きな法改正だと言えます。なぜなら生活者の立場に立ったとき、これまでは銀行・証券・保険がタテ割りになっていて、別々のルートで商品を検討することが多かった。しかし生活者にとって業種の区切りは重要ではなく、自分の人生設計に合う商品を求めている。だからこそ、3業種を横断してその人に必要なものを提案できるこの制度は価値があるのです」

ギオッティ氏は「規制の変化によりイノベーションが起きた国はたくさんあります。金融サービス仲介業も、それだけの可能性を秘めているのではないでしょうか」と笑顔を見せる。同社も2022年10月に登録を済ませており、外資系企業としては初めてとなった。

日本で投資が進まない理由を追求し、作り上げた「Habitto」


2つの理由から日本で金融サービスを開発しようと考えた後、「私たちは若い世代に入念なリサーチを行いました」という。そこで分かったのは、この世代の投資が進まないのは、自分たちが直面しているお金の課題に気づいていないからではないということだ。

「人生が長くなり、今まで以上に資金が必要なことは若い方も十分理解しています。ではなぜ投資のアクションが起きないのか。金融教育が足りていないからとも言われますが、そうは思いません。インドは金融教育がかなり乏しいにもかかわらず、日本よりも積極的に資産運用が行われています。だとすると、行動を起こせない理由は他にあると思いました」

そこで日本のオンライン証券を見ると「たくさんの人が口座を開設しているものの、取引が行われていない“休眠状態”が多い」と感じたという。

「せっかく証券口座を作っても、実際に金融商品を買うアクションまで到達できない、あるいはそれが継続できない。原因を考えたとき、選択肢が多すぎるのではないかと感じました。日本の証券サービスは、ありとあらゆる銘柄の株や投資信託を買うことができます。これがかえって初心者のハードルになり、選びきれずに離脱するのではないかと。私たちはこの部分を改善するもの、最初の選択をできるだけ簡単にするものを作ろうと考えました」

こうして生まれた金融サービスがHabittoだ。1つのアプリで預金口座の管理から、投資、保険の商品購入まで行える。

ポイントになるのは、投資や保険の商品を買う際、ユーザーの選択を簡単にする仕組みだ。

「ファイナンシャルプランナーなどの“Habittoアドバイザー”を用意し、チャットやビデオ通話で無料相談ができます。自分の悩みや不安を伝える中で、アドバイザーがその方に合った商品をいくつかに絞って紹介。その中から選ぶので、たくさんありすぎて困ることはなく、また自分の人生設計に沿った商品が提示されます」

現在、投資についてはセゾン投信、保険についてはライフネット生命の商品から提案されるとのことだ。なおこれらのサービスを使う上で、ユーザー側の利用料は一切発生しない。

そのほか、預金口座はいつでも出し入れ可能で、発行されたVISAデビット付キャッシュカードで現金引き出しや買い物ができる。口座は提携先のGMOあおぞらネット銀行に作る。0.3%という高い金利も特徴だという(※税引き前、100万円まで。100万円を超えた預金の金利は0.001%)。

業種を横断したアプリは金融サービス仲介業の真骨頂。ただし今回、銀行・証券に関する機能はこの制度を活用しているが、保険については「金融サービス仲介業では取り扱いできる生命保険が1000万円以下に限定されるため、お客さまのニーズを考えて保険のみ従来型の代理店としての登録を個別に行いました」とのこと。

6月にサービス提供が始まったばかりであり、「まずはお客さまのフィードバックをいただきながら、より良い形に改善していきます」と話す。扱う商品を増やすことも視野に入れている。

日本の金融リテラシーの課題に目を向け、また法制度の変更を足掛かりに生まれたHabitto。“選択を簡単にする”という信念で作られたサービスは、この国でどんな浸透を見せるのか。これからの成り行きを見守りたい。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2023年7月現在の情報です

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