投資術や最新制度の情報だけでなく、個人投資家の“人となり”が見えるイベント
投資家から投資家への情報発信イベント「インデックス投資ナイト2023」に潜入!
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2023年7月8日、渋谷のイベント会場には約150人の参加者が集まり、お酒やソフトドリンクを片手に談笑していた。フランクな雰囲気の漂う空間だが、ここで行われるのは“インデックス投資”をテーマに個人投資家や金融のプロが座談会を繰り広げるイベント「インデックス投資ナイト2023」。
2009年にスタートしたこのイベントだが、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年の中止を挟み、2年間のオンライン開催を経て、対面での開催は4年ぶり。今年は対面&オンラインのハイブリッド開催となり、渋谷の会場のチケットは完売するほどの盛り上がりを見せた。
今回の実行委員長である投資ブロガー・水瀬ケンイチ氏に開催の経緯を聞くと、「『インデックス投資を盛り上げよう!』という思いを持った個人投資家が集まって始めたイベントで、2009年の初回から形を変えず、登壇してくださる皆さんは手弁当で参加してくれています。4年ぶりのオフラインでの開催に、気合が入っています」と、話してくれた。
15年続く「インデックス投資ナイト」の魅力を探るべく、イベントに参加させてもらった。
3人の個人投資家の個性あふれる“投資術”
「インデックス投資ナイト2023」は3つのセクションで構成され、その幕開けとなった第一部は3人の個人投資家が投資経験や工夫を語る座談会「インデックス投資家さん、いらっしゃい!」。
登壇したのは、それぞれにブログやTwitterなどで情報発信を行っているパーサモウニアス氏、とある庶民のインデさん、ずずず氏。司会を務めたのは、同じく投資ブロガーの吊ら男氏。
10年前後の投資経験がある3人が投資を始めたきっかけやインデックス投資の手法、過去の失敗談などを話しながら、ときに吊ら男氏が「ネット証券と対面販売、どっちをメインで利用していますか?」など、会場に質問を投げかけながら進行していく。ちなみに、会場のほとんどがネット証券をメインにしているようだった。
話題は2024年から始まる「新しいNISA」へと移っていく。とある庶民のインデさんは「年間最高360万円、最短5年間で枠を埋める予定」、パーサモウニアス氏は「つみたて投資枠は全世界株か米株、成長投資枠ではウィズダムツリー米国配当グロース指数に連動するETF『DGRW』が購入できたら使いたい」、ずずず氏は「基本的につみたてNISAと同じ使い方で、逆張りで相場が悪いときに金額を増やし、相場が良いときに金額を減らす方法を想定」と、三者三様の活用案を披露した。
投資経験者の3人にこそ聞きたい「資金の捻出方法」についても迫っていく。パーサモウニアス氏は「結婚して子どもができると難しいが、配当金や副業で得た収入など、しっかり稼いだ分を投資に回す」、とある庶民のインデさんは「超過勤務が投資の財源。積極的に仕事を受けて頑張ってます」、ずずず氏は「妻と生活費や子どもの養育費を分担して、余裕資金を投資に」と、これまたそれぞれに異なる方法で捻出していた。
現役金融税制調整官が語る「新しいNISA」のこと
続いて、第二部は金融庁 総合政策局総合政策課 金融税制調整官の今井利友氏を迎えた勉強会「おしえて金融庁さん!『新しいNISA』」。タイトルの通り、2024年から始まる「新しいNISA」について、解説してもらおうという企画だ。
司会の投資ブロガー・虫とり小僧氏が「せっかくNISAの制度設計者である今井さんを迎えるので、制度そのものの解説ではなく、NISA誕生秘話を聞いていこうと思います」と宣言し、「総額管理の考え方はどのように生まれたのですか?」「簿価残高方式での管理になった理由は?」など、「新しいNISA」が現在発表されている形式になった背景を尋ねていく。
「それは答えられない」といった回答になるかと思いきや、今井さんは「2018年につみたてNISAが開始すると決まった時点で、『一般・つみたて・ジュニアの3つのNISAを統合する案を考えろ』と指示され、総額管理の案を出した」「将来的に病気で入院したらNISAのお金を下ろさないといけないかもしれない。そう考えたら、下ろした分が翌年リセットされる簿価残高方式がいいと思った」と、ほぼすべての質問に率直に回答し、会場を驚かせた。
さらに虫とり小僧氏が「ところで、『新しいNISA』の名前は決まっているんですか?」と、多くの人が気になっている質問を投げかけると、今井氏は「実は決まっていまして、『新しいNISA』の名前は…」と間を置いた後、繰り出した答えは「NISA」。「既に皆さんに愛されて使われている名前なので、あえて違う名前にする必要はないだろうと。2024年からは『NISA』に一本化される予定です」と、その理由も明かした。
今井氏が語った「新しいNISA」誕生秘話の完全版は、別の記事でも紹介しているので、ご一読いただきたい。
「金融庁の金融税制調整官が語った「新しいNISA」誕生の裏側」
金融のプロが解説「インフレ時代の投資は難しい?」
第三部は金融のプロを招き、「徹底討論! インフレ時代の資産運用」というテーマでパネルディスカッションが行われた。
司会は投資信託クリニック代表のカン・チュンド氏、パネラーはイボットソン・アソシエイツ・ジャパンCIOの小松原宰明氏、Bogleheads(R)日本チャプター代表の金野真弓氏、投資ブロガーのセロン氏の3人。
インフレを実感したエピソードという投資初心者でも入りやすい話題からトークが始まり、賃金上昇の話が出ると、セロン氏が「勤務先では実質目減りで、自分のお小遣いを減らさないといけないかなと思いました」と、心情を吐露。カン氏が「物価上昇率と賃金上昇率が同じように伸びれば良いインフレ?」と疑問を口にすると、小松原氏は「そうですね。需要が伸びると物をたくさん作らなきゃいけない。労働需要もひっ迫して賃金も上がり、物が売れるので企業収益も上がる良いインフレです」と解説。
中盤でカン氏が「インフレ率0%のときにリターンが+5%の株式を買ったら、実質リターンは5%。ところが、インフレ率が2%で推移すると、同じ株式でも実質リターンは3%になるから、インフレ時代は投資が難しい?」と、投資に絡めた質問をすると、小松原氏は「考え方は間違っていません。ただ、過去のデータを見ると、インフレ率1~8%のときは株式のリターンが上がる傾向にある。しかし、インフレ率8%以上だとリターンがマイナスになりやすいんです」と、インフレ率と株式の関係を教えてくれた。
トークのなかで「投資期間や投資に入れるお金を一定にするのが大事」という話になり、セロン氏は「新卒の2010年に投資を始めたときに投資方針書をつくって、その通りに投資しています」、金野氏も「半分くらいを株式のインデックスファンド、残りを不動産や現金。“航路を守る”=投資比率を守ることが成功のカギだと感じています」と話す。
後半には、「為替ヘッジをかけた株式は、個人の資産運用ではあり?」という最近のトレンドに踏み込んだ質問をカン氏が投げる。ここでも小松原氏が「為替ヘッジは状況次第。海外と日本の短期金利差が大きいときはかけるべきではないですが、差が狭まりヘッジコストに見合うリターンが期待できれば、検討の余地はあると思います」と、解説した。
パネラー3人の経験や知識をもとにしたトークに、参加者も深く頷きながら、聞き入っている姿が印象的だった。
経済評論家からのメッセージ「インデックス投資家であることにプライドを持って」
イベントのラストには、2009年の初回から参加している経済評論家・山崎元氏が参加者に向けてメッセージを届けた。
まず「インデックス投資家は、日本でもっとも合理的で洗練された投資家であると、プライドと自覚を持って、それらしく振る舞ってほしいと思っています」と、エールを送り、“それらしく振る舞う”の意味を語る。
「意味は3つあって、1つは徹底的に頭を使って、論理的に結論を出すこと。『初心者でインデックス買ってるだけなんでわからない』と言わずに、自分で考えて、堂々と意見を言ってほしい。2つ目は、“N=1”に動じないこと。ベテランのファンドマネージャーが語るテクニックに感心しがちだけど、それはその人だけの小さなサンプルで、それに惑わされないように。3つ目は、合理的で正しい投資で人生を楽しんでいるんだから、精神的に余裕を持って意見の違う人とも接すること。寛大さを持ってもいいのかなと思います」
2時間のイベントは、インデックス投資のことだけに終始するわけではなく、登壇したメンバーの人生が垣間見える瞬間もあり、胸が熱くなる場面もあった。投資家の人柄を知って、投資に興味を持ち、自分でも実践してみる…という始め方もあるのかもしれない。
(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/森カズシゲ)