乙武先生!金融教育、見にきてください

50代が見えてきた乙武洋匡も気になる! 消費者教育・金融保険教育教材「ライフサイクルゲーム」で学べることは?

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老後2000万円問題が話題になるなど、生涯設計に不安を持つ人が多い昨今。早期の金融教育の必要性が高まる世相に合わせて、第一生命保険株式会社が開発したのが、「ライフサイクルゲーム」だ。

すごろく感覚で金融の最新事情を学ぶことができるこのゲーム。もともとは中学校、高校での活用を前提としていたものだが、最近ではシニアからの注目も高まっているという。前回に引き続き、作家の乙武洋匡氏をレポーター役に、同社・カスタマーファースト推進部 消費者志向推進室の藤脇智恵子氏に話を聞いた。

成年年齢引き下げがリニューアルのきっかけに


乙武 この「ライフサイクルゲーム」が秀逸なのは、すごろくの形式で楽しく生涯設計を学べることはもちろん、時代に合わせてゲームの内容がちゃんとアップデートされていることだと思います。現在リリースされているのは、昨年登場したバージョン3とのことですが、改訂のポイントは何だったのでしょうか?

藤脇 ひとつは成年年齢の引き下げが大きかったですね。私が講師として高校にお邪魔する際、18歳から成人扱いになることで、たとえば契約の取り消しができなくなってしまうリスクなどを解説していました。こうした問題こそ、ゲームに取り入れなければと感じたんです。

乙武 確かに、契約に自分で責任を負わねばならないことは、成人と未成年の大きな違いですよね。一方で、クレジットカードなどはあったほうが便利なわけですし、闇雲に脅かすのもよくない。その点、こうしてゲームを介在させることで、よりきちんとした学びに変換できるのは素晴らしいですね。

藤脇 おっしゃる通りで、出張授業のあとに高校生の皆さんから、「楽しく学ぶことができた」「将来のことをちゃんと考えるきっかけになった」といった声と一緒に、「騙されないように気をつけたい」という感想も多数いただいています。ゲームとして楽しみながら、リスクをしっかり意識することが重要なのだと思います。

乙武 また、金融教育の早期化というのも、「ライフサイクルゲーム」においてターニングポイントですよね。こちらはゲーム内容にどのような影響を与えていますか。

藤脇 たとえば投資信託など、金融商品にはどのようなものがあり、それぞれどんな特徴があるのか、解説に盛り込みました。

乙武 歴史の授業などと違って、金融関係の商品名や用語というのは、このゲームで初めて目にする生徒も多いと思います。そうしたとっつきづらさは、この分野のひとつのハードルだと思うのですが、そのあたりについてはいかがでしょう?

藤脇 いまの教科書には、投資信託とは何か、株式とは何かといった、ある程度の金融商品について解説が掲載されているので、実はそうしたハードルは皆さんあまり感じていないようです。むしろ、授業で習ったことをこのゲームで復習するという良い流れができていて、実際に「ゲームのおかげでより理解が深まった」という声もいただいています。

乙武 なるほど。教科書の内容ひとつをとっても、それだけ金融が身近なものになっているというのは、私の時代とは隔世の感がありますよ。

藤脇 「ライフサイクルゲーム」を使った出張授業の後、生徒さんから「あの時、保険にさえ入っていればなあ」なんて声が聞けたりすると、本当にこのゲームを作ってよかったと感じますね(笑)。

「結婚」が当たり前ではない時代に合わせた改訂を

乙武 ゲーム開発の過程で、最も苦労した点は何ですか?

藤脇 最新の情報をなるべくリアルに反映させようという点については、けっこう注力しました。消費者被害ひとつをとっても、たとえば最近は社会人の方が引っ越しをする際に、退去トラブルに見舞われるような事例が増えていますから、そういう事象をどう盛り込んでいくか、などですね。あるいは逆にプラスの要素としては、「投稿した動画がバズる」みたいなイベントを取り入れたりもしています。

乙武 たしかに、非常にいまっぽいですね(笑)。

藤脇 また、大きなテーマとしては、「結婚」の扱いをどうするかというのも問題でした。結婚することが決して当たり前の時代ではないですし、現に出張授業でもたびたび、「別に結婚なんてしたくないんだけど」なんて声も聞かれます。そこで最新版では、結婚というイベントは残しつつ、するかしないかは自分で選べるように改変しました。

さらにいうと、当初は男女の結婚式をイラスト化していましたが、必ずしも異性同士のカップルがスタンダードではない時代ですから、別のイラストに差し替えるなどの配慮もしています。

乙武 それはとても興味深いです。ゲームの中でそこに配慮されているということは、第一生命さんが提供する保険商品自体にも、時代に合わせた変化が生じるということですよね。これまでは結婚して子どもを設けることを前提にライフプランを設計していたものが、そうではないケースに向けた保障が求められるようになってくるはずですから。あるいは男性同士、女性同士の世帯に向けた商品なども今後は必要でしょう。

藤脇 その通りだと思います。保険の種類にしても、従来は残された家族に残す死亡保険が一般的でしたが、昨今は自身の将来のため、何かあった時のための医療保険として、というニーズが高まっています。これも時代の流れですね。

乙武 そうしたニーズをいち早く拾うことができるのも、「ライフサイクルゲーム」の面白いところですよね。教育現場でいまの10代のリアルな声をヒアリングできるわけですから、時代を先取りしてどんどん新しい商品を生み出すことができるはずです。

藤脇 そうですね。出張授業では生徒の皆さんに、何歳で就職、何歳で結婚といったライフイベント表を描いてもらっているのですが、本当にいろんな意見や考え方があって、思わずはっとさせられることは多いです。とても勉強になります。

人生100年時代の生涯設計を学べるシニア版も登場


乙武 ところで、今回のバージョンから65歳の時点をスタートとするシニア版もリリースされました。これはどのような狙いで生まれたものですか?

藤脇 これまでは65歳がゴールで、退職金をもらって終わりだったのですが、人生100年時代と言われるようになった影響なのか、高齢者の方から「自分たちの世代に合わせたものも作ってほしい」という声をたくさんいただいていたんです。たしかに、私も40代なのでここから先の生涯設計をテーマにしても、一定のニーズがあるのではないかと感じました。

乙武 そうですよね。47歳の私としても、やはりプレイさせてもらうならシニア版がやりたいですよ。

藤脇 内容もシニアに向けてアレンジしていまして、「お墓の購入」というイベントがあったり、普通の一般的なお墓はなく「樹木葬」(※墓石ではなく樹木を墓標とする墓)を選ぶことができたり。さらには高齢者を狙った特殊詐欺なども盛り込まれています。残念なことにこうした消費者トラブルは枚挙に暇がないですから。

乙武 たしかに、高齢者こそこういうゲームを介して、どんな詐欺の手口が横行しているのか、ちゃんと学んだほうがいいですよね。ちなみに「ライフサイクルゲーム」は、どうなったら勝ちなんですか?

藤脇 現状は、ゴールした時点で最も多くの資産を持っている人が勝ち、ということになっています。

乙武 次のリニューアルに向けたポイントはそこかもしれないですね。金融ゲームとして考えると、いまの社会の仕組みでは子どもは作らないほうが得ということになってしまい、家族を作る尊さみたいな部分は、なかなか表現しにくいでしょうから。

もっというと、結婚する気がない、子どもを設けるつもりがないという人にとっては、お金をたくさん残すことが価値ではないわけですから、ゴールまでにきれいに全資産を使い切ったほうが豊かな人生という考え方もありそうです。

藤脇 実は、実際にプレイされたシニアの方から、そうした声はいただいているんです。家族もいないのにお金を残しても仕方がないよね、と。

乙武 ああ、やはりそうですよね。つまりは終活の考え方ですが、こういう議論が生まれることで私自身もいろいろ考えさせられますし、これこそが「ライフサイクルゲーム」の価値なのだとあらためて実感しました。このゲームが今後より多くの人に伝わって、また、さらに時代に合わせてアップデートしていく様子を楽しみにしたいと思います。

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お話を伺った方
乙武 洋匡
1976年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。大学在学中に出版された『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活動。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。地域に根差した子育てを目指す「まちの保育園」の経営に参画。2018年からは義足プロジェクトに取り組み、国立競技場で117mの歩行を達成。2000年、都民文化栄誉章を受賞。
著者/ライター
友清 哲
1974年、神奈川県生まれ。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て独立。主な著書に『日本クラフトビール紀行』『物語で知る日本酒と酒蔵』(共にイースト・プレス)、『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)ほか。また近著に、『横濱麦酒物語』(有隣堂)がある。
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