伸び悩む相場局面で役に立つ相場格言
提供元:SMBC日興証券
「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」
有名な相場格言に「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」という言葉があります。これは、遠くで発生した戦争からは直接的な被害を受けにくいため、株価が下がった場合は「買い」だが、近くで起きた戦争からは直接被害を受ける可能性があるので投資は控えるべき(むしろ売るべき)、ということを説いた格言です。
「大きな被害を生む戦争を投資判断の材料にするのは不謹慎だ」と思われる方もいらっしゃると思いますが、古くは第一次世界大戦(1914~1918年)で主に欧州が戦禍に見舞われていた時に、日本では特需が発生して経済が活況を呈した歴史があります。また、朝鮮戦争(1950~1953年)が勃発した際も日本では特需が発生し、その後の高度経済成長へと繋がっていきました。人道的な観点を抜きして投資成果のみを考えると、冒頭に紹介した格言が活きてくるのです。
では、第一次世界大戦や朝鮮戦争当時はともかく、通信技術を始めとしたテクノロジーの進化が目覚ましい現代においても、同様のことは言えるのでしょうか?
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻やイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃など、現在でも戦争や地政学的なリスクの高まりを伝えるニュースが日々報じられています。しかし、日々、株式相場を見ている筆者の感覚としては、地政学的リスクは中長期に亘って株価が下落する要因にはなりにくく、仮に株価に大きな影響があったとしても比較的短期間で収まる傾向があると思います。
地政学的リスクに対して世間がどの程度の関心を持っているのかを測る指標として地政学リスク指数(GPR指数:Geopolitical Risk Index)という指数があります。これは世界的に著名な英字新聞(ワシントンポストやニューヨークタイムスなど)に掲載された地政学リスクに関する用語が含まれる記事をカウントして指数化したものです。
地政学リスク指数は多くの場合、リスクが高まる原因となったイベントが発生した直後には急激に上昇するものの、その後は比較的短期間で元の水準まで戻っており、世間の関心が長続きしない様子が見て取れます。そうした観点からみると、現代においても「遠くの戦争で株価が大きく下がったときは買い」という格言の教えは、ある程度有効であるといえるでしょう。
ただやはり情報伝達スピードが格段に速くなった点と世界経済がグローバルに張り巡らされたサプライチェーンを基盤として成り立っている点は、昔とは大きく異なります。
現場で起きた出来事や要人の発言は瞬時に世界中を駆け巡り、投資家はその情報を基に投資判断を下すことができます。地球の反対側で起きた物流の滞りが、我々の日用品の供給に影響を与えることもあります。大量の情報が素早く駆け巡ることで、投資家の様々な思惑が増幅され、株価の変動が大きくなることも起こり得ます。世の中が便利になった分、我々には物事の本質を見極める確かな目が求められるようになったのかもしれません。
現在、連日報道されている中東情勢も、本コラムを執筆している10月20日時点では、実体経済に与える影響は限定的であるとの見方が優勢です。しかし、情勢は常に流動的であり、1つの出来事が相場の動きを一変させることも想定されます。「遠くの戦争は買い」との格言を頭の片隅に置きながらも、冷静、かつ、客観的に物事を見極めていく姿勢が大事になるでしょう。
皆さまの投資成果が向上することを祈念いたします。
(SMBC日興証券 Kazu)