野村證券「四季報の会」秋号を徹底解説(前編)
提供元:野村證券(FINTOS!編集部)
野村證券の社内企画「四季報の会」。『会社四季報』(東洋経済新報社刊)秋号の発売に合わせて10月上旬に実施し、数百人のパートナー(個人投資家向けの営業担当者)が、四季報を読破して分析した投資情報部のリサーチャーらの解説を聞いた。今回は秋号の前半(銘柄コード1000~5000番台)の解説の一部を紹介する。
【1000番台】建設は「政策保有株売却」が目立つ
1000番台の中心である建設会社では、資材高や人件費増の影響により夏号から引き続き、軟調な企業も散見されましたが、空調や電設などの設備関連企業の業績が改善しつつある印象を受けました。
大成建設(1801)の見出しには「下ぶれ」とあり、まだ改善していない状況です。厳しい資源・資材高により、業績自体はあまり振るいませんが、株価は上昇傾向にあります。その要因であると考えられるのが、左側の見出しにある「資本効率向上目的に政策保有株縮減 30年度まで2000億円売却意向」という部分です。
銀行などにはかなり前から政策保有株を売却する動きがありましたが、東証からの要請を受け、建設会社など他業種でも同様の動きが活発化しています。大林組(1802)や清水建設(1803)も政策保有株を縮減する意向について記載があります。四季報のコメント欄だけでは、売却した資金の使途はわかりませんが、ゼネコン各社が資本効率向上に向けた施策を打っている点は市場から評価されているとみられます。
土屋ホールディングス(1840)をご覧ください。北海道地盤の注文住宅の会社ですが、見出しに「ラピダス」と書いてあります。土屋ホールディングスは、国策の半導体会社の進出による業績向上が期待されているようです。すでに、TSMC(台湾積体電路製造)の工場が進出する九州では景気への波及効果が出てきています。北海道でも同じことが起こるかどうか今後注目が集まりそうです。
【2000番台】食品は値上げ浸透でV字回復
食料品の企業は「上ぶれ」や「V字回復」「最高益」などの見出しが目立ちました。夏号と比べ、原材料高の価格転嫁がより幅広いセクターや企業に浸透してきている様子がうかがえました。
ニップン(2001)や日清製粉グループ本社(2002)など製造業でも値上げが浸透し業績改善につながっているようです。ただ、販売数量の伸びはコロナ後の回復から一服しているようで、持続的にここから利益を伸ばしていくための次の一手、戦略に注目です。
ヒガシマル(2058)、東洋精糖(2107)などを見ても原材料高による値上げが浸透している様子がうかがえます。夏号の時点で原材料高や物流高に苦しんでいた飼料や砂糖などのメーカーでも、原材料高などが一服してようやく値上げが浸透してきたようです。
森永製菓(2201)など、菓子メーカーの業績も好調です。 以前から値上げは実施していましたが、原材料価格を吸収しきれず、「軟調」や「大幅減益」といった見出しが目立っていました。しかし今回は値上げが続くといったコメントも目立っており、需要に堅調さがうかがえます。
ブルボン(2208)の2つ目の見出しは「増産」とあります。チョコレート市場が成長し、生産設備を増設したようです。値上げだけでなく、より効率化した生産設備に投資することで「次の一手に動いているな」と感じました。
プリマハム(2281)、日本ハム(2282)、丸大食品(2288)なども業績が伸びているようです。菓子やハム・ソーセージのメーカーには「コンビニ向けの販売が伸びた」といったコメントがいくつも見られました。確かにローソン(2651)の見出しは「増額」となっています。
【3000番台】経済正常化で活況呈する飲食店
3000番台は値上げが奏功したり、インバウンドの恩恵を受けたりして好調な企業が多かったと思います。夏号では電力・ガスなどの銘柄の欄に値上げに関する記載が多かったため、外食を中心に、光熱費などのコスト上昇を懸念するコメントが目立ちました。今号では、コスト上昇分を値上げでカバーして、「前号比増額」となった企業も増えています。
銚子丸(3075)は回転寿司チェーンですが、見出しが「増益続く」です。値上げの寄与だけでなく「都心、郊外の両方で新規出店狙う一方で、経済正常化を受けて持ち帰り専門店を順次閉鎖」という記述がありました。経済情勢に合わせて業態を変化させる取り組みを進めているようです。
ドトール・日レスホールディングス(3087)は、星乃珈琲店やドトールなどを展開している企業です。「店舗純増65」という記載があります。前期は「純減30」ですから、出店ペースが加速しています。営業利益も大きく伸びる予想になっています。
物語コーポレーション(3097)は、焼肉店を展開しています。見出しは「連続最高益」。そしてこちらも「店舗純増72」で前期より出店ペースが加速しています。
紙・パルプの銘柄の業績改善も確認できました。王子ホールディングス(3861)は見出しが「好転」、三菱製紙(3864)は「急回復」となっています。株価を見ていただくと、今年に入ってから、反転上昇している企業が目立ちます。価格転嫁による業績改善への期待に加えて、紙・パルプは、多くの企業がPBR1倍を割りこんでいることから、資本政策への期待も含まれているのかもしれません。
【4000番台】半導体関連は「底打ち」か
レゾナックホールディングス(4004)、旧昭和電工は今回「大幅赤字」と書いてありますが、 夏号では半導体・電子が前工程材料、後工程材料ともに低迷して「赤字転落」とありました。秋号では後工程が上向いたものの、補いきれなかったようです。しかし2024年12月期には回復する見通しのようです。
東京応化工業(4186)は、半導体製造の際に使われるフォトレジストで世界首位の企業です。ArF(フッ化アルゴン)関連など先端品が底堅いと書いてあります。足元では顧客の在庫調整が長期化したものの、2024年12月期には回復する見込みであるとのことです。やはり半導体関連は今が「底」なのかもしれません。
住友ベークライト(4203)は「主力の半導体封止材はパワー半導体など車載向けが伸びてけん引」しているそうです。この企業などを見ていると、やはり自動車関連は好調なのではないかと見て取れます。積水化学(4204)も「好採算の中間膜が自動車用回復」とあります。半導体関連の企業でも自動車業界向けは好調との印象を受けます。
オービック(4684)や日本オラクル(4716)など、SIer(システムインテグレーター)の業績は依然として好調のようです。以前と比べDXという言葉を聞く頻度は減ったかもしれませんが、システム投資が下火になったというより、DXという言葉が当たり前のものとして、世間に浸透してきたと捉えた方がよさそうです。
【5000番台】鉄鋼メーカー、PBR改革の行方
4000番台でも目立ちましたが、5000番台でも自動車生産回復の追い風が見受けられました。横浜ゴム(5101)やTOYO TIRE(5105)、ブリヂストン(5108)などのタイヤメーカーをはじめ、自動車部品を手掛ける企業も好業績でした。
ワイパーやブレーキなどの自動車用ゴム製品を手掛けるフコク(5185)も見出しが「最高益」となっており、業績は好調です。また、「27年3月期にROE12%を達成する」目標が掲げられているとの記載もあり、ここでもPBR1倍割れに対する施策がみられました。
PBR改革で注目されるのが鉄鋼業界です。
日本製鉄(5401)の見出しは「減配」となっていて、経常利益、税引き前利益ともに減益になっています。 鉄鋼市況の低迷など、記事の内容はあまりよくない印象ですが、キャッシュフローはしっかり稼げています。
日本製鉄系の企業である中山製鋼所(5408)も見出しが「反落」で営業減益予想ですが、そもそも利益が高水準です。2021年3月期から2023年3月期にものすごく伸びていることがわかります。このように、海外の市況が低迷しても、鉄鋼メーカー各社の業績は高水準が継続すると予想されています。東証の改革だけではなく、利益水準が上昇した点も、PBRの改善につながっていると言えます。
収益性の改善に加え、PBRそのものの改善に向けた取り組みももちろん活発化しています。日本製鉄の子会社である山陽特殊製鋼(5481)ではPBR対策がかなり具体的に言及されています。「適性マージン確保、高付加価値化による収益性改善や政策保有株の相互売却通じ流通株式比率向上、IR強化など図る」と、PBR改善に向けた施策のオンパレードになっています。もちろん親会社である日本製鉄も同様の施策を行っています。
(FINTOS!編集部)