「社内ビジコン」「副業・兼業の支援」で従業員が活躍できる場を与える

ビジネスパーソンなら知っておきたい「人的資本経営」の取り組み ~双日編~

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“人的資本経営元年”といわれる2022年、初めて実施された「人的資本調査2022」。そのなかで「人的資本リーダーズ2022」に選定された企業のひとつが、総合商社の双日だ。

双日が行っている人材管理や育成といった人的資本経営に関する取り組みは、2022年5月に経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート2.0」で、先進事例として取り上げられている。また、双日の有価証券報告書や統合報告書では、人材施策とその目的や課題が明確に記載されており、人的資本情報の開示が進んでいることもわかる。

実施されている人的資本経営の取り組みと現状を、双日人事部人材開発課長の田中泰生さん、人事部デジタルHR推進室長の善家正寛さん、双日プロフェッショナルシェア取締役副社長の山崎聡介さんに聞いた。

「いま重点的に取り組むこと」を指数化した人材KPI

双日では、どのような目標を掲げて人的資本経営の取り組みに臨んでいるのだろうか。そのキーワードとなるのが“事業や人材を創造し続ける総合商社”。

「当社は総合商社という技術やモノを持たない業態なので、以前から人材が企業の力の源泉であるという意識を持ち、人材の力をどのように企業の力につなげていくか、考えて続けてきました。そして、2030年の目指す姿として掲げているのが、“事業や人材を創造し続ける総合商社”です。マーケットニーズや社会課題が目まぐるしく変わる時代において、変化を機会と捉えて前向きにチャレンジし、お客様にアイデアを提案するなどのアクションにつなげていく人材を増やしたいと思い、取り組みを進めています」(善家さん)

双日人事部デジタルHR推進室長の善家正寛さん

目指す姿を実現するため、双日が打ち出した3つの柱が「多様性を『活かす』」「挑戦を『促す』」「成長を『実感できる』」。この柱を軸に、人的資本経営の取り組みを考え、実施しているのだ。

3つの柱に沿った取り組みを進めるため、定量的な効果測定も行っている。その基準としているのが、人材KPI。2021年に6つの人材KPIを設定し、その目標に向かって取り組みを進めている。

●双日の人材KPIの目標
・女性総合職の海外・国内出向経験 50%以上(2030年代時点/女性社員比率)
・外国人人材によるCxO比率 50%(2025年度時点)
・育児休暇取得率 100%(2023年度時点)
・二次健診受診率 70%(2023年度時点)
・デジタル基礎研修修了割合 100%(2023年度時点)
・チャレンジ指数 70%(2023年度時点)

「すべての人材施策をKPI化したわけではなく、2030年に向けていま重点的に取り組まなければいけないテーマを、経営層を交えてディスカッションし、出てきたのが掲げている6つです」(善家さん)

KPIの目標は、あえて高めに設定したものもあるという。そのなかで見えてきたのは、数字を上げるためには社内の理解、浸透が欠かせないということ。

「デジタル基礎研修修了割合は、2023年度中に100%を目指しています。腰が重い従業員もいるなかで全員に受講してもらうには、なぜデジタル基礎研修が必要なのか、なぜ数字に注目しているのかといったことを丁寧に伝える対話の場が欠かせないとわかりました。2年以上にわたって、組織の理解も得ながら対話を行ってきた結果、数字が上がってきています。人を動かすには、共感を得ながら、粘り強く継続的に働きかける地道な取り組みが大切なのだと、改めて感じました」(善家さん)

6つのKPIのなかでも、チャレンジ指数はとりわけ抽象的な指標だが、どのような部分を測っているのだろうか。

「日々の業務のなかでの挑戦はもちろん、所属する組織(部署)での+αの取り組みや業務外でのチャレンジも含めて測る指数です。3つの柱の『挑戦を促す』の部分に当たります。評価項目のなかにチャレンジ項目を設定し、そこでさまざまな挑戦の案件を評価し、指数と紐付けています」(善家さん)

2021年に人材KPIを設定してから、徐々に数字が上がってきている。その結果から、人的資本経営の取り組みが社内に浸透し始めている実感もあるとのこと。

「エンゲージメントサーベイ(社員意識調査)の結果を見ると、『双日では挑戦が奨励されている』という項目に『はい』と答えた率が、2021年度の90%から2022年度は93%に上がっています。挑戦に関するほかの項目も上がりつつあることから、社内での挑戦に対する認知が高まるとともに、挑戦そのものが当たり前になり、『やってみたい』という気持ちが増えつつあるのではないかと感じています。数字を見ると実感につながりますね」(善家さん)

出典/双日「統合報告書 2023」双日のエンゲージメントサーベイの結果

「各組織の管理職が、ほぼリアルタイムで組織のKPIの進捗を見られるようにしています。全社平均との比較も見られるので、『うちの組織はここがいいけど、ここは遅れている』『ほかの組織は結構進んでいるんだ』といった刺激になり、活性化につながっているのではないかと思います」(田中さん)

双日人事部人材開発課長の田中泰生さん

「発想の習慣化」と「横のつながり」を生む社内ビジコン

さまざまな人的資本経営の取り組みを進めている双日だが、なかでも注目を集めているのが3つの柱のうちの「挑戦を『促す』」につながる取り組みだ。

「挑戦を促すという切り口で打っている施策のひとつが、『発想×双日プロジェクト(通称Hassojitz PJ)』です。いわゆる社内ビジネスコンテストなのですが、さまざまな組織、年齢の方がチームを組んで進めていく形を採用しています」(田中さん)

「Hassojitz PJ」は、1年かけて新規事業のアイデアを事業計画案に落とし込んでいくプロジェクト。最初は従業員が個々にアイデアを応募し、選考を通過した従業員は事業の実現に向けてチームメンバーを探すところから始めていく。

「新規事業を生み出す経験をすることが大きな狙いではあるのですが、担当している事業の枠から外に出ることで、さまざまな発想で考える習慣が付いたり、横のつながりができたりと、副次的な効果も生まれています。チームで進める構成にしているので、異なる組織の人とのつながりが生まれ、入社1年目の新人と50代のベテランが組むこともあります。先輩後輩関係なく教え合ったり学び合ったりすることで、社内活性化につながるという文化が醸成されてきているように感じます」(田中さん)

挑戦や発想を社内に根付かせるため、若い人材が「Hassojitz PJ」に参加できる仕組みも整えているという。

「若いうちから挑戦を習慣化してもらいたいですし、過去の成功体験にとらわれずに発想してほしいので、2021年度から内定者版の『Hassojitz PJ』を始めて、トップになったチームは従業員と一緒に本戦に参加してもらっています。2023年度からは、総合職・事務職といった枠に関係なく、1年目の新人にもチャレンジしてもらうようにしています。『新規事業は自転車に乗るようなもの』といわれるように、場数や知識の習得といった基礎的な部分が大切になるので、若いうちから習慣化することで、企業も強くなるのではないかと期待しています」(田中さん)

「Hassojitz PJ」で立ち上げられた事業計画案で、既に新規事業として動き出しているものもある。第1回となった「Hassojitzプロジェクト2019」で社長賞を受賞したワイヤレス充電のアイデアは事業化に向けて動き出し、電機メーカーのダイヘンと大日本印刷と手を組んで、ワイヤレス充電機能を搭載した商用電気自動車(EV)を開発し、国内初の登録認可を取得。2023年3月から、公道での実証実験を開始している。

そのほかにも、eスポーツビジネスのアイデアから発展し、双日はeスポーツ関連事業を展開する会社GRITzを設立。アイデアを出した本人と中堅社員が共同代表となり、eスポーツ大会の運営や選手の育成、メディア事業などに動き出している。

脱炭素社会に関するアイデアをもとに双日と東大発ベンチャー・本郷植林研究所が設立した新会社・双日モリノミライでは、植林後5年で伐採可能な早生樹を生産し、バイオ燃料の材料とすることを目指している。

「挑戦を実績につなげるサポート体制も整えています。事業計画案をつくって終わりではなく、7つの営業本部からスポンサーになってくれる本部を募り、アイデアを出した本人の思いを大事にしながら事業化に向けて検討するところまでをセットにしています」(田中さん)

「多様な働き方」の支援のための新会社設立

従業員の挑戦を促すにあたって、会社としても新たなことに挑戦している。新会社・双日プロフェッショナルシェアの設立だ。

ジョブ型雇用を実践したり、兼業や副業を支援したりするための会社で、35歳以上の希望する従業員は双日プロフェッショナルシェアに移籍することで、双日での勤務日数や時間を調整しながら、副業や兼業、子育て・介護との両立が可能になる。例えば、双日では週3日働き、残りの時間は自身で起業した会社の業務に充てるということができるのだ。

「多様な働き方の支援のために会社を設立したのは、プライム市場上場企業のなかで初めての取り組みです。『双日で働きたいけど、身に付けたスキルを外でも試してみたい』『キャリアを見直して資格を取りたいから、時間が欲しい』『親の介護があるから、週3日の出勤にしたい』と考える従業員をサポートしたいという思いがあったのですが、双日で実施するには制度の問題などがあったので、新会社の設立という形に至りました。個を尊重した価値観を企業が受容していかなければ、個が活躍できる環境にならないと考えています」(山崎さん)

双日プロフェッショナルシェア取締役副社長の山崎聡介さん

実際に双日プロフェッショナルシェアに移籍した従業員のなかには、静岡県の上場企業の経営補佐を行う人もいれば、岩手県の菓子屋の経営コンサルティングなどを行う人もいる。副業・兼業の形もさまざまだ。

多様な働き方を支援することで人材の流出につながる可能性があるが、双日ではそこも見越して、アルムナイ(退職者)とのつながりも大切にしているという。

「独立する方とのつながりを持てるよう、『双日アルムナイ』というプラットフォームを用意しています。双日は2つの会社が合併して生まれ、その過程で退職された方もいますが、戻ってきた方もいます。さまざまな経験を積んで戻ってきた方はパワーアップしていて、企業にとって欠かせない人材になるという実感があるので、今後もつながりは大切にしたいと考えています」(山崎さん)

「アルムナイのなかには起業した方もいるので、『Hassojitz PJ』に呼んで、座談会や案件の壁打ちを通して新規事業の考え方をレクチャーしてもらうこともあります。そこから新しいアイデアが生まれますし、アルムナイの方々も『双日の若手に還元しよう』と貢献してくれているので、いいコラボになっていると思いますね」(田中さん)

有価証券報告書に人材施策の詳細を記載した理由

人的資本経営の取り組みを、有価証券報告書や統合報告書でも詳細に記載している双日。人的資本情報の開示が義務付けられる前から開示しているが、当初はもっとシンプルな内容だったそう。

「3年前はシンプルな構成にしていたのですが、投資家の方々から『全体のストーリーや細かい部分を知りたい』という声をいただいたので、2023年3月期の有価証券報告書は人材施策にかなりのページを割き、双日の成長に向けた取り組みを等身大で見せることを意識しました。その結果、『独自性があり、納得性が高くなっている』という声をいただいています」(善家さん)

一方で、ハッとさせられるような声も届いているとのこと。

「『指数や割合は増えているけれど、会社の力や目指すところは数ではなく質を見なくてはいけないのではないか』という声もいただいています。我々が開示したものをご理解いただいて生まれた疑問は、我々の気付きにもつながるので、貴重な声だと感じています。投資家の皆さんの声も施策に盛り込みながら、開示の方法や視点も改善し続けていきたいと思っています」(善家さん)

企業の力を強くするために、その源泉となる人材の力を高め、発揮する場を与えている双日。このような取り組みが、企業のスタンダードとなれば、日本全体で個を活かす環境づくりができるかもしれない。
(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/森カズシゲ)


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著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
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