世界共通語「ESG/SDGs」

個人投資家が問いかける「“本当のESG投資”とは?」~後編~

【ESG投資を知る】個人投資家が「ESG投資」で注意すべきこととは?

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世界的に注目されているESG投資。「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」に関する取り組みを行う会社を評価し、投資する手法だ。近年、ESGを冠した投資信託も出てきており、個人投資家でも実践しやすくなってきている。

前編では、24年の投資経験を持つ個人投資家の吉田喜貴さんにESG投資で必要になる知識について話してもらったが、今回は個人投資家がESG投資を行う際の注意点を聞いた。

投資信託の判断基準は「ESG」という言葉ではなく“中身”


――「ESG」というキーワードが入っている投資信託はずいぶん増えましたが、どのように選んでいくといいでしょうか?

「まるでブームのようにESGを冠した投資信託がたくさん出たのですが、『どのような基準で投資の意思決定を行い、なぜこの会社の株を組み入れたのか』というところまで情報開示している投資信託は、意外と少ないんです。組み入れ銘柄を選んだ理由が書かれていないと、私たち個人投資家は投資しにくいですよね。

この状況を改善するため、金融庁が2023年春に『金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針』を一部改正し、ESGを掲げる投資信託の定義や情報開示の方法を見直しました。その結果、ESGや環境、次世代エネルギーといった名称が入っている投資信託でも、目論見書を細かく読むと『当ファンドはESG上の具体的な成果を目指す商品ではありません』という文言が入るものが出てきたんです。投資信託の名前だけで判断せず、目論見書や月次レポートを読み、中身を把握することは必須だといえます」

――ESGと書かれていれば問題ないと思ってしまいそうですが、ESG投資においても、目論見書などを読み、納得したうえで購入することが大切ということですね。

「その通りです。そもそも投資信託を購入するにあたっては、どのような判断基準で組み入れ銘柄を選んだのかという情報を月次レポートなどに載せているものでなければ、期待したリターンは得られないのではないかと思います」

――確かに、中身を理解できないものに投資すること自体が不安ですし、期待から大きく外れる可能性もありますよね。

「ESG投資を目指す投資信託のなかには、アクティブファンドも多く存在します。アクティブファンドは銘柄ごとに投資判断の基準や組み入れ銘柄が異なるからこそ、丁寧な情報発信が重要だといえます。そして、情報発信をしているアクティブファンドだけが個人投資家に支持され、残っていくともいえます。

私の経験から考えると、個人投資家が継続購入しているアクティブファンドは、投資の判断基準や組み入れ銘柄のどこかしらにESGの要素が入っているものです。ESGの要素が入っているからこそ、個人投資家に共感され、長期的に保有してもらえるのだと思います。そういう意味では、継続的にお金が入ってきているかどうかという点も、投資信託を選ぶ際の決め手になるでしょう」

投資すべきは「継続的な収益」を目指す投資信託


――継続的にお金が入っているかどうかは、どのような部分を見ると判断できるでしょうか?

「その投資信託の純資産総額が、長期にわたってなだらかに上昇を続けているものは、継続的にお金が入っているといえます。さらに、積立投資の顧客比率が高いと、なおいいですね。一時的な売買ではなく、長い期間をかけて継続的に購入している人が多い投資信託ということがわかるからです。純資産総額の急増が見られる場合は、販売会社のキャンペーンなどで一時的に上がった可能性が高いので要注意。

売って終わりの売り切り型ではなく、顧客となる個人投資家と信頼関係を築き、継続的に収益を得られるビジネスを目指している運用会社の投資信託を選ぶといった視点が大切なのです」

――なるほど。つい直近の成績のいいものに目が向いてしまいそうですが、投資信託の性格みたいなものもしっかりチェックしていくと選び方が変わりそうです。

「会社と同じで、成績などの数字だけを見るよりも、定性的な情報を見るほうが長く持ち続けられると思います。数字で表せない情報を見ているほうがワクワクするし、その投資信託に対する期待度も上がる気がします」

「ESG投資」が人生を変えるきっかけになる


――個人投資家の視点から、これからESG投資はどのように展開していくと感じていますか?

「ESG投資の時代はそろそろ終わって、インパクト投資に変わってきているように感じます。言葉が変わっても投資手法の本質は変わらないのですが、インパクト投資は定性情報の開示だけでなく、取り組みの結果として社会にどのようなインパクトを与えたかという成果の報告も運用会社に求めるものです。成果まで見えると、その会社への投資が本当に社会のためになるのかを判断できるので、いい変化だと感じています」

――会社が発信する情報も変化してきているのですね。吉田さんのお話を聞いていると、投資信託だけでなく個別株への投資もありなのかなと感じてきます。

「個人投資家の場合は、まず株式指数に連動する投資信託などでのインデックス投資で資産の土台をつくることが最優先だと思いますが、余裕が出てきたら個々の会社に目を向けるのもいいと思います。

投資をしないで暮らしていると、自分の勤務先以外にどのような会社が存在しているのか、知る機会がほとんどないですよね。特にBtoBの会社は、生活には入り込んできません。しかし、投資を行うことで、いままで知らなかった業界や会社に目が向きます。その結果、投資先の選択肢が広がるだけでなく、思いがけない転職先が見つかったり、新たなビジネスのきっかけになったりすることもあるでしょう。さまざまな会社を知ると可能性が広がり、人生が変わるかもしれません」

――投資きっかけで調べていくと、魅力的な会社がたくさん見つけられそうですよね。より共感できる会社を見つけていくことも、ひとつの楽しみになりそうです。

「そうですよね。ただ、いい悪いの境界線ははっきり引けないことが多いので、自分のなかでの価値基準を考え続けることも大切だと思います。例えば、かつて原子力発電は究極のクリーンエネルギーといわれていましたが、東日本大震災によってそこが疑問視されるようになりましたよね。あらゆる事業は社会課題を解決するために存在しますが、別の角度から見ると悪になってしまうこともあります。そうなったときに投資を継続するのかしないのか、その都度考えていくことが個人投資家の役割といえると思っています」

ESG投資をきっかけに各社の情報を見るようになると、思いがけない発見があり、自身の仕事や生活にも影響してくるだろう。だからこそ、どの会社にお金を託すか考えることは重要である。まずは名前を知っている会社の情報を見て、どのような事業を展開しているか知っていくと、新たな興味が湧いてくるだろう。
(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/森カズシゲ)

お話を伺った方
吉田 喜貴
個人投資家。1978年生まれ。2000年春から株式投資を開始。個別企業への長期投資を信条とする。広い視野で投資の意思決定をするため、古今東西あらゆる書物を読破することをライフワークとしている。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
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