子育てにまつわるお金の話

乙武先生!金融教育、見にきてください

乙武洋匡がFP高山一惠さんと考える、大人にも子どもにも金融教育が必要な理由

TAGS.

早期の金融教育がいっそう盛んになっている昨今。「東証マネ部!」では、教員経験を持つ作家の乙武洋匡氏をレポーター役に、金融教育の最前線を追っていく。

第3回は、早い時期から積極的に金融教育に取り組んできた、株式会社Money&Youのファイナンシャルプランナー、高山一惠氏が登場。金融教育の必要性に着目したきっかけや、子どもにお金の知識を教えることで得られた気づきについて話を聞いた。

金融教育に感じていた課題

乙武 高山さんは金融教育に明るいファイナンシャルプランナー(以下、FP)だとお聞きしました。金融の中でも教育というジャンルに関心を持ったきっかけは何だったのでしょう。

高山 私自身が小学生の子どもを持つ親であることが大きかったと思います。日頃、育児に関わる中で、子どもの時から金融について学ぶことの大切さを実感する機会も多く、自然と大学などで講義を行う機会が増えていきました。

乙武 FPとしてのキャリアはどのくらいになるんですか?

高山 資格を取得したのは19年前になります。それまでは営業職に就いていたのですが、何らかの形で独立したいと考え始めた時、これからは金融に関する教育がより求められるようになるのではないかと考えて、仲間とFP 会社を立ち上げました。

乙武 なるほど。営業職からFPへの転身とは、面白いキャリアですね。

高山 他にも語学教育や中学受験など、教育産業の中でいろいろ検討していたのですが、結局のところ一番大事なのはお金だろうという結論にたどり着きました(笑)。

乙武 逆にいうと、高山さんにそう感じさせる社会課題のようなものがあったということだと思います。金融教育に的を絞った決め手は何だったのでしょう?

高山 周囲にはお金のことで悩んでいる人がたくさんいるのに、当時はそれを相談する場所がほとんどなかったんですよ。証券会社などは、富裕層を対象に資産運用の相談窓口を開いていましたが、一般の方はどこへ行けばいいのかわからない状況で。だったら一般の方、とくに女性を対象にお金のアドバイスをするFPになろうと考えました。

乙武 おお、それは先見の明ですね。ちなみに、女性に対象を絞ろうと考えたのはなぜですか?

高山 女性は結婚をするのかしないのか、子どもを産むのかどうかといったライフプランによって人生設計が大きく変わりますから、男性よりも悩みが多いように感じたんです。当時はとくに、今よりも女性が仕事と家庭を両立するのが難しい時代でしたから、なおさらでした。将来のことを考えて悩んでいる人たちが、気軽に相談できる場所を作りたかったんです。

お金の話題がタブー視される日本の文化

乙武 そんな高山さんが実際に金融教育に着手し始めたのはいつ頃ですか。

高山 FPとして独立して9年目くらいからでした。

乙武 すると、もう10年以上も前ですよね。かなり時代を先取りした取り組みだったのでは?

高山 日々、いろんなお客様の相談にのっている中で、否が応でも感じざるを得ないのが、根本的に金融に関する教育がされていないという現実でした。お金に関する知識があるかないかで、この先のライフプランや貯蓄の効率がまったく変わるのに、これはもったいないなと痛感し、教育に力を入れなければならないという使命感が芽生えたんです。

乙武 そこで、大人に向けて教育をやるのか、子どもに向けてやるのかという、大まかに2つの選択肢があったと思いますが、最初に着手したのはどちらだったんですか?

高山 大人を対象とした金融教育でした。これは単に、子どもに対する教育ノウハウを持っていなかったからで、それまでずっと大人のお客様に対して相談業務をやっていましたから、まずはそこからやってみようと。

乙武 そこから対象を子どもにも広げていったのは、どのような経緯だったのですか。

高山 これはお客様のご要望が大きかったです。ご自身がFPに相談をする傍ら、自分の子どもには早いうちから金融について知ってほしいと考える方が、たくさんいらっしゃったんです。ところが日本のカルチャーとして、我が家の資産状況がどうであるとか、お父さんの給料がいくらであるとか、お金のことを話すのはタブー視されているじゃないですか。だったら、子どもにお金について教えてくれる場が外にあればいいという発想ですね。

乙武 なるほど、高山さんにはニーズが明確に見えていたわけだ。でも、先ほどおっしゃっていたように、子どもに対する教育のノウハウはお持ちではなかったわけですよね。そのあたりはどう解決されたのでしょうか。

高山 先駆け的に金融の早期教育をやっているスクールがあったので、まずはそこへ勉強させてもらいに行きました。私も実際に子ども向けの授業を受けてみたりしながら、1からノウハウを学んだ形ですね。

金融指導を始める最適な年齢は?

乙武 子どもたちと一緒に学ぶというのは、高山さんにとってもきっと新鮮な体験だったでしょうね。実際に授業を受けてみて、どのような気づきがありましたか。

高山 一番感じたのは、吸収の早さです。たとえば、一緒に投資ゲームをやっている時にちょっとしたポイントを教えてあげると、子どもってすぐにそれを踏まえて行動するんですよ。自ずと、コツを知っている子とそうでない子ではっきりと成果に差がつくので、なおさら金融教育の重要性を実感しました。

乙武 たしかに、私も教員をやっていた経験があるので、吸収力では大人は子どもにまったく敵わないということは、身をもって感じていました。

高山 ですよね。とくに「楽しい!」と感じたことに対しては、子どもは猛烈なスピードでものを覚えますから。たとえば『鬼滅の刃』が流行っていた頃に、どんな銘柄に投資するのがいいかと訊ねてみたら、「コンビニにいっぱいグッズが売っているから、お菓子メーカーが良さそう」とか、「映画がすごく人気だったから、映画を作る会社がいいと思う」とか、すごく議論が活発化するんです。

乙武 なるほど。興味を持った子どもというのは、本当に強いですよね。実際には親からもらうお小遣い程度しか元手がないので、投資という行為に実感を持てるわけではないと思うんですが、アニメなどの話題を用いて上手に関心を誘導されている様子が伝わってきます。

高山 やはり、漫画やゲームはすごく食いつきがいいですね(笑)。あるいは、ディズニーランドが大好きな子たちは、どこが運営しているんだろうと関心が向いて、オリエンタルランドという会社を知ることになります。こういう興味関心からの流れが作れると、学習効率が目覚ましく上がります。

乙武 こうしてお話を伺っていると、伸び盛りの時期に学び始めるのがベストなのだとあらためて感じますが、高山さんから見て、金融教育をスタートするのに適した年齢はどのくらいだと思いますか?

高山 小学校の高学年くらいでしょうか。このくらいになると算数の学習が進んでいて、割合という概念が身に付いているなど、数字的な感覚が養われていますから、理解が早いんです。

乙武 そうですね、そのあたりある程度計算ができる素養があるのは大前提なのかもしれません。高山さんのお子さんは今、おいくつですか?

高山 11歳、小学6年生です。

乙武 すると、金融教育を始めるのにちょうどいい時期ですね。

高山 そうですね。最近は買い物の際に、私がキャッシュレスでピッと支払いを済ませるのを見て、何でも買える魔法のカードを持っているものと勘違いしていたこともありましたから(笑)、ちゃんと教えないといけません。

乙武 ああ、現金を使わなくなった弊害が、思わぬところに表れているんですね(笑)。そういう、時代に即した金融教育というのも、これからは考えていかなければならないのかもしれません。

<あわせて読みたい!>
子どもに年収を聞かれたらどうする? 乙武洋匡がFP高山一惠さんと考える、家庭環境が金融リテラシーに与える影響

お話を伺った方
乙武 洋匡
1976年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。大学在学中に出版された『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活動。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。地域に根差した子育てを目指す「まちの保育園」の経営に参画。2018年からは義足プロジェクトに取り組み、国立競技場で117mの歩行を達成。2000年、都民文化栄誉章を受賞。
お話を伺った方
高山 一恵
(株) Money&You取締役/ファイナンシャルプランナー(CFP®)
一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株) エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。「マンガと図解でしっかりわかる はじめてのNISA&iDeCo(成美堂出版)」など多数の書籍を出版。
著者/ライター
友清 哲
1974年、神奈川県生まれ。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て独立。主な著書に『日本クラフトビール紀行』『物語で知る日本酒と酒蔵』(共にイースト・プレス)、『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)ほか。また近著に、『横濱麦酒物語』(有隣堂)がある。
用語解説

"※必須" indicates required fields

設問1※必須
現在、株式等(投信、ETF、REIT等も含む)に投資経験はありますか?
設問2※必須
この記事は参考になりましたか?
記事のご感想や今後読みたい記事のご要望などをお寄せください。
(200文字以内)

This site is protected by reCAPTCHA and the GooglePrivacy Policy and Terms of Service apply.

注目キーワード