子育てにまつわるお金の話

乙武先生!金融教育、見にきてください

子どもに年収を聞かれたらどうする? 乙武洋匡がFP高山一惠さんと考える、家庭環境が金融リテラシーに与える影響

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教員経験を持つ作家の乙武洋匡氏をレポーター役に、金融教育の最前線を追うこの連載。シリーズ第3回の後編では、前回に引き続きファイナンシャルプランナーの高山一惠氏と共に、環境や時代、そして家庭が金融リテラシーにどのような影響を与えるのかを考察した。

高校の金融指導に見られる課題とは

乙武 10年以上前から金融教育に携わってきた高山さんですが、現状の金融教育のあり方について、どのように感じていますか。

高山 2022年の4月から、高校の家庭科の授業の一環で資産形成について教えるようになりました。これ自体はとても有意義なことですが、内容はまだまだ消費者教育にとどまっている印象で、実践的な資産形成を学ぶ段階までいけていないように感じています。要は、まだ家計管理など浪費を避ける方向に重点が置かれている印象です。

乙武 なるほど、興味深い視点ですね。もちろん家計管理も大切ですが、なぜそこにばかり偏ってしまうのでしょうね?

高山 授業が家庭科の先生に委ねられていることに一因があると思います。実際に現場の方に話を聞いてみると、「これまで運用の経験などないのに教えなければならないのは、非常にハードルが高い」という声が多々あるんです。先生自身が資産形成についてちゃんと学んだことがないのですから、適切な指導が行えないのも仕方がないですよね。

乙武 一度も海外へ行ったことのない人が英語を教えるようなものですからね。たしかにそれは無理がある。

高山 株式投資を怖がって避けていた人が、生徒に「投資をしましょう」と言わなければならないのは、いかにも不健全ですよ。まして、長期積立や分散投資なんて言葉を前にしても、ちんぷんかんぷんでしょう。

乙武 本当にそうですよね(笑)。では、そうした問題を解決するためには、教育委員会が教員を対象とした研修を行うのがいいのか、あるいは高山さんのような外部のプロフェッショナルに委託するのがいいのか、どちらが適切なのでしょう。

高山 金融庁でもすでに、できるかぎりの指導は行っているようですが、正直、餅は餅屋なので、外部のプロに委託すべきだと思います。もっとも、予算の問題もあってなかなか難しいのが現実ですが。

乙武 家計管理が“守り”だとするなら、資産形成や運用は“攻め”に相当します。この“攻め”の部分が手つかずになっているのは、将来的にも不安材料ですよね。

高山 おっしゃる通りで、いろんな方のマネー相談を受けていると、同じ20代でも数千万円の貯蓄がある方もいれば、消費者金融に手を出して苦しんでいる方もいて、大きな差がついていることを日々実感します。詳しく聞いてみると、若くして資産を持っている方は、幼少期から親の方針でお金のことをよく教えられていて、投資に抵抗感がなかったケースが多いんですよ。

乙武 やはり教育次第なんですよね。それでいうと、私の世代は10~20代で投資をするなんて発想すらなくて、せっせとアルバイトをして、そのお金を投資にまわす人は皆無でした。

高山 そうですよね。逆に、親がバブル崩壊で大きな損失を被っていて、「投資なんて怖くて手を出せない」と目を塞いでしまうことも多いですから、環境の差も大きいです。ただ、その差が今、大きな貯蓄の差として表れているということですよ。

時代や環境が金銭感覚に与える影響

乙武 一方で消費に目を向けてみると、今の若い世代はお金を使わないとよく言われます。

高山 そうですね。若い世代の方がご相談にいらっしゃると、皆さん口をそろえて「日本経済はもう終わる」「どうせ年金なんてもらえない」などと、将来に対してネガティブなことばかり言う方が多いです。

乙武 うーん、残念な現実ですけど、やはり世代差なんでしょうね。我々の世代は日本経済が上り調子だった頃を知っていますが、今の20代はそうではないわけですから。

高山 そうなんですよ。物心ついた頃からずっとデフレで、ここへ来て急にインフレが起きても給料は上がらないという、悪循環に陥っている感じです。だったら自分で自分の身を守るしかないと、なるべくお金を使わないようにしていて、家計簿を拝見しても非常に堅実で驚かされます。

乙武 シェアエコノミーの概念が浸透していることも大きいでしょうね。高いコストを負担して車を所有するよりも、カーシェアを利用したほうがいいとか。ただ、実は私自身も実は非常に倹約家というか、ケチなんですよ。

高山 え、そうなんですか!?

乙武 一般的な金額かもしれないですけど、お小遣いが小学校4年生で400円、5年生で500円、6年生で600円という設定だったので、相当やりくりしないと何も買えなかったんですよね。でもそのおかげで、大学時代に『五体不満足』が売れてまとまったお金が入ってからも、金銭感覚が狂うことはまったくなかったです。せいぜい、カラオケで延長料金を気にせず歌うようになったくらいで(笑)。

高山 それは意外……というと失礼かもしれないですけど(笑)、これだけ有名な方なのに素晴らしいことだと思います。

乙武 つまりこれも、育ってきた環境が大切であるという話に通じますよね。たぶん私は手足があっても、20~30分くらいの道のりならタクシーに乗らずに歩いて帰る生活をしていたと思いますよ。

子どもに年収を聞かれた際の模範解答とは

乙武 ところで、子どもに対する金融教育ということで言うと、家庭でのふるまいも大切だと思います。もし、子どもから年収を聞かれたら、どう答えるのが正解なのでしょうか。

高山 これは非常によく聞かれる質問で、やはり親の側としては数字をずばり答えるのには抵抗があるようですね。とくに収入が心許ない場合は、親の威厳に関わる問題と捉える人も多いので、難しいテーマだと思います。

乙武 先に私の考えを言ってしまうと、家計がギリギリの場合はむしろ、数字を開示したほうがいいと思うんです。そのほうが子どもも我慢することを覚えるでしょうし、やりくりの大変さを学ぶなら早いほうがいいのではないかと。それに、おもちゃ売り場で「お父さんあれ買って」と言われた時に変な言い訳をするよりも、家計が厳しいことを端的に知らせたほうが教育上もいいでしょう。

高山 その通りだと思います。ギリギリの状況で塾へ通わせている家庭など、その苦労を見せてあげたほうが、子どもも頑張ろうという気持ちになるかもしれませんしね。

乙武 問題は、ギリギリというわけでもないけど、富裕層でもない中間層でしょうか。

高山 その場合、私は世の中の会社員の平均年収を提示することをおすすめしています。今であればおよそ440万くらいですから、それを月割りにすると月給がこのくらいで、そこから社会保険料や税金が引かれて手取りがいくらというのをリアルな数字で説明する、と。そして月額25万~30万円の中で、どうやって生活を賄うのかを一緒に考えるのがいいのではないでしょうか。

乙武 なるほど、これはぜひ世の会社員の方々には参考にしていただきたいアドバイスですね。そして、だからこそ家計管理という“守り”とともに、資産を増やす“攻め”にも頭を使わなければならないということを、子どもたちにも知ってほしい。

高山 実は今、投資詐欺に遭っている若い人が非常に多いんです。LINEで届いたおかしな誘いにのってしまったり、大学の友人がやっているからと怪しいセミナーに参加してしまったり、思いがけないことから300万円くらい借金を抱えて相談に来られるケースが跡を絶ちません。これも結局、金融リテラシーが養われていないという、教育の遅れから来る問題だと思います。

乙武 ああ、運用とは何かを知らないまま、うまい話にのってしまうパターンですね。

高山 そうなんです。株式投資などで小さなミスを体験していれば、おそらくそういう被害は防げるのだと思います。しかし、知識の下地がないからいきなり大きな失敗をしてしまう、ということですね。

乙武 イメージ的には自転車の練習に近いかもしれません。自転車を買い与えて、はい勝手に乗りなさいという親はまずいなくて、最初はつきっきりでレクチャーするじゃないですか。徐々に慣れさせて、そのうち補助輪をはずす。投資も同じで、そういう段階を経てから自分の判断で自由にやるのがベストなのでしょうね。

高山 まったく同感です。とくに最近は、金融系ユーチューバーの影響で投資に興味を持つ若い人が増えていますから、これをチャンスと捉えていっそう金融リテラシーの啓発に力を入れていきたいと思います。

乙武 そうですね。興味を持った人に、いかに適切な学びを与えてやるかが大切でしょう。高山さんのような方の役割も、今後ますます重要になると思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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お話を伺った方
乙武 洋匡
1976年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。大学在学中に出版された『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活動。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。地域に根差した子育てを目指す「まちの保育園」の経営に参画。2018年からは義足プロジェクトに取り組み、国立競技場で117mの歩行を達成。2000年、都民文化栄誉章を受賞。
著者/ライター
友清 哲
1974年、神奈川県生まれ。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て独立。主な著書に『日本クラフトビール紀行』『物語で知る日本酒と酒蔵』(共にイースト・プレス)、『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)ほか。また近著に、『横濱麦酒物語』(有隣堂)がある。
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