これから欲しいのは◯◯のETF

人気投資家・たぱぞう氏に聞いた「東証上場ETF」のメリットと課題とは?

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近年、世界中の投資家に活用されている金融商品のひとつがETF(上場投資信託)だ。その名の通り、株式と同様に“上場している”投資信託となる。

ETFは各国の証券市場で取引されており、東京証券取引所でも多くのETFが上場されている。では、この「東証上場ETF」に対して“投資のプロ”はどんな印象を持っているのだろうか。どういった使い方が良いと考えるのか。

そこで今回話を聞いたのが、FIREを達成した投資家であり、さまざまなメディアで資産運用の情報を発信するたぱぞう氏。現在、投資顧問のアドバイザーも務める同氏は、東証上場ETFの使い方をどう考えるのだろうか。

東証上場ETFを担当する東京証券取引所 株式部株式総務グループ兼ETF推進部・上場推進部の岡崎啓さんが対談相手となり、たぱぞう氏の率直な本音を引き出していった。

東証上場ETFを使う理由は「円で注文できるから」

たぱぞう こういう企画だから言うわけではなく、実はここ数年、東証上場ETFをかなり活用しています。運用のメインになっていますね。よく取引するのはアメリカのS&P500に連動したETFですが、2023年は米国債のETF、それも20年超の長期国債に連動するETFをかなり売買しました。

岡崎
 海外上場のETFも売買できる中で、東証上場ETFを使っている理由はどんなものですか?

たぱぞう ひとつ大きいのは、円建てで売買できることです。海外上場ETFの場合、私たち投資家が円をドルに転換して売買するのが一般的です。対して東証上場ETFは、円のまま売買することができ、その後、商品を運用する側でドルに転換します。個人的な話ですが、会社を作って資産運用するようになってから、すべて円で取引した方が税務的にも煩雑にならないという理由もありました。

岡崎 今の話に関連して、東証上場ETFは「為替調達コスト」が低いのも特徴です。たとえばS&P500や米国債に連動するETFを取引する際、円をドルに換えるには一定の為替調達コストがかかります。為替調達は量が多いほどコストが下がるため、東証上場ETFでは、個人の方がそれぞれ為替を調達するのではなく、個人が円で注文したものを一度まとめて、ETFの運用会社が大量の為替を調達します。こういった仕組みで為替調達コストを減らしているのです。

たぱぞう ETFの信託報酬(※運用・管理にかかる費用)もだいぶ下がってきましたし、私の場合は同時に貸株金利(※株やETFを証券会社に貸し出すことで得られる金利)をもらっているので、ほとんどコストも相殺されているかなと思いますね。

岡崎 ちなみにETFと投資信託の比較についてはどうでしょうか。たぱぞうさんが取引されているETFの場合、似た商品の投資信託もあると思います。その違いはどう感じていますか。

たぱぞう 投資信託も悪くないのですが、ETFはつねに現在値がわかり、取引時間内ならいつでもリアルタイムで売買できます。その点が良いですね。私の場合は値動きのうねり、つまり、大きく株価が変動したタイミングで値上がり・値下がりを細かくとらえてピンポイントで売買したいことがありますので。

とはいえ、基本的には中長期でETFを長く保有するのが私のスタンスで、特にS&P500連動のETFは細かく売ったりせず、長期保有で含み益を出していく考えです。余計なことはせずに持ち続けていれば良い銘柄だと思っていますから。仮に子どもに相続しても、手間のかからない“良い資産”になるかなと。私が生きているうちにこのETFを売って現金化する可能性は低いかもしれません。

「短期から中長期まで、個人投資家はオールラウンドに東証ETFを使える」

岡崎 私たち東証が課題として抱えているのは、個人投資家の方に東証上場ETFがまだ十分活用されていないことです。ユーザーの多くは銀行や保険会社などの金融機関であり、東証の調査では個人の利用はETF全体の残高(日銀保有分除く)のうち約13%にとどまっているのです。

たぱぞう 確かに一般の個人投資家の方はまだあまり知らなかったり、使っていなかったりという印象はありますね。東証上場ETFの情報が少ないのも要因かもしれません。投資に詳しい方は自分から情報を探すので問題ないですが、初心者の方は個別株や投資信託に比べて情報に触れる機会が少なく、たどりつきにくい気もします。

岡崎 たぱぞうさんから見て、個人投資家の方が東証上場ETFを活用するなら、どのような使い方が良いでしょうか。

たぱぞう 長期投資や積立投資にも向いていますし、先ほど話したように値動きのうねりで利益を得たい人にも良いと思います。自分のタイミングで売買できますから、もともと個別株でそういった取引をしてきた方には合うのではないでしょうか。新しいNISAの成長投資枠にもETFは含まれていますし、短期から中長期まで、オールラウンドに使えますよね。

たぱぞう氏が「これから実現してほしい」と願う東証ETFは?

岡崎 一方で東証上場ETFに対する課題や「もっとこうしてほしい」という意見はありますか。

たぱぞう アメリカのセクター(業種)別ETFがあったらうれしいですね。債券ETFに不動産リートのETF、高配当ETFなど、銘柄のバリエーションはかなり揃ってきた印象がありますので、さらにそれも追加されたら良いかなと。

岡崎 アメリカのセクター別ETFはまさにいま私たちも注力しているところで、ぜひ実現したいと思っています。

たぱぞう そのほかに強いて課題を挙げるなら「トラッキング精度」ですかね。ETFは何かしらの指標・インデックスに連動して動くものが多く、S&P500連動なら基本的にS&P500指数の値動きがETFに反映されます。そのとき、いかにベースの指標と同じ動きをするかがトラッキング精度の高さと言えるのですが、以前に比べると格段に良くなったものの、債券のETFなどは同じ指標をベースにしているものでも銘柄ごとの値動きに若干の差があるなど、やや気になる部分がありますね。S&P500連動ETFのような人気のある銘柄は、私の見ている限り問題ありません。

岡崎 おっしゃる通りですね。ETFも上場銘柄が増えていくと、銘柄ごとに取引量の差が出てきます。活発に取引が行われないとその銘柄自体のトラッキング精度や流動性が落ちる懸念もあるので、すでに導入しているマーケットメイク制度(※)を含め、きちんとフォローしていきたいですね。

※銘柄ごとに指定されたマーケットメイカーが常時「売り」「買い」の気配値を提示することで、対象のETFに対して、需給動向を踏まえた公正な価格で十分な量の気配が提示される。これにより、投資家が売買をしたいタイミングで、より良い価格で売買する環境を提供できる。

またこれはあくまで個人的なアイデアですが、今おっしゃったような投資家の方の疑問や不安などを受け付ける窓口なども設けていけたらと思っています。

たぱぞう もうひとつ、これは今日聞いてみたかった素朴な疑問なのですが、たとえば東証で「これから伸びそうな日本企業指数」のような新しい指標を作るのは難しいのでしょうか。TOPIXは上場銘柄すべてを対象にした指標ですが、もっと対象を絞った指標があるといいかなと。わかりやすいところで言えば、NYダウはわずか30社をさまざまな選定基準で選んでおり、定期的に選定企業の入れ替えも行われますよね。日本もシンプルにこれから伸びそうな銘柄の指標を設け、それにもとづいたETFを作れたら面白そうな気がしています。

岡崎 指標を作るのは難しい部分もあるのですが、今のお話に近いものとして「アクティブETF」があります。これは連動する指標やインデックスがないETFであり、市場平均より高いリターンを目指して運用会社が組入銘柄や配分を自由に決められるものです。

アクティブETFは2023年に解禁されたばかりですが、すでに「PBR改善を期待できる企業群に投資するETF」などが上場されています。おっしゃったように「これから伸びる企業」を投資のプロである運用会社が選定し、ETFにすることも可能になっています。

たぱぞう そういった中から人気のETFが生まれると、世界からも注目されますし、市場の活性化にもつながるかもしれません。企業も株価上昇に力をいれる流れになれば、PBR改善も含めて、より良いマーケットになっていくのではないでしょうか。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2024年2月現在の情報です

著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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