今こそ日本株再評価で個別株にも注目
資産配分を再考、最適な投信の組み合わせは?
提供元:auカブコム証券 投資情報室
新NISA(少額投資非課税制度)がスタートして早3カ月。日経平均株価が史上最高値を更新するなど国内株式市場の活況が日々報じられる一方で、新NISA経由で国内投資家の投資マネーが向かっている先は主に海外資産のようです。特に、ファンドマネジャーなどの専門家が運用を代行してくれることから投資初心者も利用しやすい投資信託(以下、投信)では、全世界株式や、米国の主要株価指数S&P500指数を投資対象とした商品が人気です。
こうした人気投信は確かに魅力的な商品性を持つ一方で、インターネットやSNSなどの一部では過度な楽観論や、最近の日本株式市場の変化を見過ごした論調も見受けられ、いま一度、資産配分の再考が必要であると感じます。
そこで今回は人気の投信に投資する際の注意点も踏まえたうえで、投信の最適な組み合わせを選ぶ際のポイントをお伝えするとともに、上昇機運高まる国内株式の投資比率引き上げを提言します。
人気投信の特徴とは
全世界株式を投資対象とする投信は、複数の国・地域の株式に分散投資することにより、それ1本で世界全体の経済成長の恩恵を享受できることが魅力です。特に人気が高いのが“オルカン”の略称で知られるeMAXIS Slim全世界株式(オールカントリー、以下オルカン)です。資産構成は株式がほぼ100%を占め、そのうち先進国株式が約85%、新興国株式が約10%、国内株式が約5%となっています(1/31時点)。さらに組入上位国・地域では先進国の中でも米国が約63%と高い比重を占めています。
一方、S&P500指数を投資対象とする投信では、最先端技術を持つIT・ハイテク企業や、世界で活躍する企業が米国に集まっているため、高成長の米国のみならず実質的に世界全体におけるビジネス拡大の恩恵を享受できることなどが人気の理由として挙げられます。S&P500指数を投資対象とする投信で人気が高いのがeMAXIS Slim米国株式(S&P500、以下S&P500)。資産構成は米国株式がほぼ100%を占めており、組み入れ上位にはマイクロソフト、アップル、エヌビディア、アマゾンなど有名企業が名を連ねます。
オルカン、S&P500ともに特定の株価指数などのベンチマークと同じ値動きをめざすインデックス型の投信であり、運用コストが低いことから長期運用に向いている点も人気の理由です。
米国を含め世界の株式市場は長期的に上昇基調にあり、全世界株式およびS&P500指数を投資対象にした投信は運用資産の中核として位置付けるに相応しいでしょう。また、投資初心者の「初めの一歩」としても良い選択肢ではないかと考えられます。
オルカンやS&P500だけで大丈夫?ライフステージに適した戦略を!
投資対象として魅力的なオルカンとS&P500ですが、それゆえにネット上など一部ではオルカンかS&P500のどちらか、もしくは双方に投資をしておけば十分かのような情報も散見されます。これに対する結論はライフステージやリスク許容度によって異なるでしょう。
まず、投資の世界では一般的に資産(株、債券、REIT、コモディティなど)、地域、時間を分散することでリスク(リターンの振れ幅)を抑え安定した運用成績が期待できるとされています。
オルカンとS&P500を例にみると、前述のようにオルカンの資産構成は米国株式を中心とした先進国株式の比率が高く、「リスクを低く抑える」という観点では必ずしも十分に分散されているとは言えません。また、S&P500の資産構成はほぼ100%米国株式であるため、オルカンとS&P500の組み合わせは米国株式の上積みであり分散効果は期待できません。オルカン、S&P500は先進国株式、特に米国株式の動向に影響されやすい特性があることに注意する必要があります。
図1は投資信託の分類別平均騰落率を示したものです。2023年は先進国株式が+24%、国内株式が+24%、新興国株式が+12%と総じて株式が高いリターンを示しました。しかし、2008年のリーマンショック時には先進国株式が-52%、国内株式が-42%、新興国株式-64%など株式の下落率が大きくなる局面があったこともわかります。仮にオルカンやS&P500のみに投資をしていたら、いずれの投信も資産価値は一時的に大きく毀損したはずです。
投資期間を長く確保できる若年世代や、継続的な収入がある勤労世代であれば、一時的に資産が目減りしても値戻りを待つ時間的余裕がありますし、投資を継続して時間分散効果を得ることも可能です。もし相場が大きく下落しても運用を継続できるのであれば、オルカンやS&P500に絞って投資することも一考かもしれません。
しかし、退職して継続的な収入が減少するシニア世代では、投資可能期間が限られることに加え、定期的に運用資金の取り崩しが必要になることも想定されます。資産価値が下落した局面で売却を余儀なくされるという事態は最も避けたいところ。そのためシニア世代ではオルカン、S&P500に集中投資するのではなく、より幅広い投資対象に分散することを心掛けたほうが良いでしょう。
相性の良い投信の組み合わせを見つけ、分散効果を狙おう
では、分散投資を行う場合、オルカンやS&P500のほかにどのような商品を組み合わせると良いか。参考になるのが相関係数です。相関係数は銘柄間や指数間の値動きの関係性を示す指標です。-1から1までの範囲の数値で表され、数値が1に近ければ双方が同じ方向に動く傾向があり、0に近い場合は双方の値動きに関連性が低い、-1に近い場合は反対の動きをとる傾向にあることを意味します。一般的には相関係数が-0.7~0.7の組み合わせで分散効果が高いとされます。
図2は分類別投資信託の組み合わせに応じた相関関係を示しており、分散効果が期待できる組み合わせほどマスの色を濃くしています。オルカンであればタテ列4グローバル株式に分類されるため、-0.7~0.7の範囲にある資産の組み合わせは国内債券、国内REIT、コモディティ、先進国債券(投資適格)、新興国債券。数値が小さい(色の濃い)組み合わせほど分散効果が期待できます。S&P500はタテ列2先進国株式に分類され、国内債券、国内REIT、コモディティ、新興国債券との組み合わせにより分散効果が期待できます。このように保有する投信と相性の良い投信を組み合わせることで、ご自身のポートフォリオがより盤石になるはずです。
今こそ日本株式(国内株式)を再評価し投資比率を引き上げるべき、身近な日本株式ならETFや個別株の選択肢も
ここまでオルカン、S&P500を中心とした分散投資を考えてきました。しかし、そもそも新NISAでオルカンやS&P500を買うべきであるとの論調は、日本の株式市場がバブル崩壊後に低迷が続き米国株式および全世界株式に比べてリターンが見劣りした過去の実績が前提にあるのではないでしょうか。
賃上げによる脱デフレ期待、東証による企業への資本効率改善要請、円安によるインバウンド消費拡大と輸出企業の採算改善などを背景に、昨年からの海外投資家の日本株式見直し買いが続き、日経平均株価は2月22日に史上最高値を更新しました。日本株式は名実ともに新ステージに入ったと言えます。世界を見渡しても最も大きな構造変化を遂げつつある日本株式への投資比率を高める局面だと感じます。
日本株式への投資比率を高めるにあたっては、日経平均やTOPIXなどに連動するインデックス投信を選択するのも悪くないですが、分散投資とリアルタイムな売買を兼ね備えた上場投資信託(ETF)が有力な選択肢でしょう。また、身近な日本株式であれば、投資信託に頼らず個別株に直接投資した方が運用コストがかからない分、投資効率が高まる可能性もあります。まずは各業界のトップ企業や自身が良く知る企業に着目するのが良いでしょう。日本株式の上昇機運が高まってきた今、オルカンなどの投信だけでなく、日本の個別銘柄やETFにも積極的な投資を検討してみてはいかがでしょうか。