子どもと一緒に考えたいお金のこと ~投資編~
マネーコンサルタント直伝! 子どもに「投資」の必要性を教える方法
高校の家庭科に「資産形成」の内容が盛り込まれるなど、子どもたちにとっては投資や資産運用が身近なものになりつつある。テレビやYouTubeでも投資が取り上げられることが多くなり、興味を持っている子どもは多いだろう。
一方で、自分は投資経験がないため、何をどう教えたらいいかわからない、と悩んでいる親世代の人も多いかもしれない。そこで、『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)の著者でマネーコンサルタントの頼藤太希さんに、投資の仕組みを子どもに伝える方法を聞いた。
まず伝えたい「株価=人気投票」といわれる理由
「小中学生の子どもであれば、まずは『株式投資』から教えると理解しやすいでしょう。最初に伝えてほしいのは、“株価=人気投票”であること。人気の高い銘柄ほど、株価が上がっていくからです」(頼藤さん・以下同)
人気投票であることを伝えたうえで、さらに説明したいのが、取引できる株式には限りがあるということ。
「株式は有限だから価格が上下する、ということも教えましょう。いわゆる『需要と供給』です。小学校高学年くらいで『需要と供給』は学ぶと思いますが、難しい言葉を使わなくても、『その株を買いたい人が多く、売りたい人が少ないと株価が上がる』『買いたい人が少なく、売りたい人が多いと株価が下がる』と説明すると、子どもも理解できるでしょう」
ここまで説明すると、子どもから「どうしたら株式に人気が出るの?」という質問が出てくるだろう。その答えは、丁寧に話すことが大切だという。
「人気が出る理由を、順を追って説明しましょう。『いい商品やサービスが世に出ると欲しいと思う人が増え、売り切れたり行列ができたりして、売上が上がる。結果として、その商品やサービスを販売した会社が成長し、利益も得られるため、株主に値上がり益や配当金という形で還元される。この状態になると、その会社の株式が欲しいと思う人が増えるため、株式の人気が上がって株価が上がる』というイメージです。ゲームやお菓子、ファミリーレストランなど、子どもが好きな商品を例に出して説明すると、より伝わりやすくなります」
ここまでは個々の会社の株式の話を例に出してきたが、世界全体の株価の話もすることで、株式投資のメリットも伝えられるそう。
「長期的に見ると、株価は高くなっていくことが期待できます。なぜかというと、世界の人口は拡大していくからです。現在の人口は約80億人ですが、2058年には100億人に達すると推計されています。人口が増えると商品やサービスはいままで以上に必要になるので、生産が進み、消費と生産のサイクルが回っていくため、経済は拡大すると考えられるのです。経済が成長すると、会社の業績や株価もよくなるといえます。もちろんすべての会社が成長するわけではないため、見極めは重要ですが、長期的な株式投資はリターンが期待できると伝えていいでしょう」
日本は人口減少が進むといわれているが、「悲観しすぎることはない」と、頼藤さんは話す。
「日本経済だけに絞ると拡大する可能性は低いといえるかもしれませんが、日本の会社は国内だけを対象にビジネスを展開しているわけではありません。世界で活躍する会社は、今後株価が上がっていく可能性が高いといえるでしょう」
株式を「ひと株」買って投資経験を積むのも◎
株式の仕組みや投資の効果の伝え方を聞いてきたが、親が一方的に話すだけでは知識は身に付きにくい。「子どもに経験させることも大切」とのこと。
「最近は、ひと株単位で買えるサービスがあります。例えば、NTT(日本電信電話)のひと株あたりの株価は182.8円(2024年2月27日現在)と、子どものおこづかいで買える金額なので、実際に買わせてみると投資の知識が身に付きやすくなるでしょう。日々株価が上がったり下がったりするので、その会社の価格が変動する理由を自分で調べ始めるかもしれません」
投資を経験させる際、買い物などで手に入れたポイントを使って投資を行う「ポイント投資」はおすすめしないという。
「『ポイント投資』は手軽に投資を体験できるツールではあるのですが、『ポイントはなくなってもいいや』と、激しくリスクを取った投資をしがちなので、投資の勉強になりづらいのです。最近は、100円という少ない金額での投資も可能です。たとえ100円でも、自分のお金を使って投資すると真剣に向き合うようになり、損しない投資手法を考えるようになるでしょう」
親も投資経験がなければ、子どもと一緒に始めて、一緒に学んでいけばいい。ただし、子どもと同じ金額だと親は真剣に考えなくなってしまうため、子どもにとっての100円が親にとってはいくらくらいになるか考え、同じ感覚で投資できる金額で始めてみよう。
投資が「子ども自身の将来」に影響を与える
投資を経験し、株価が変動する仕組みや理由を理解するだけでなく、そもそもなぜ投資するのかという意味を考えていくことも大切だ。
「投資した自分のお金が社会でどのように生かされているのか、子どもと考えてみましょう。投資したお金がいい商品やサービスを生み出すための資金となり、社会への貢献につながる。その結果として会社が得た利益が、株主に分配されて返ってくる。投資は世の中をよくすることであり、自分にリターンをもたらすものでもあると考えると、ポジティブに捉えられるでしょう」
ただし、投資は必ずしもリターンを得られるものではない。お金を失うリスクもあることを踏まえると、値動きとうまく付き合う方法を考える思考にもつながっていく。
「実際に値動きを経験することで、『1つの会社だけだとお金を失うリスクがあるけど、2~3社に投資して1社が下がったときにほかの会社が上がれば、損するリスクが低くなる』といった思考につながっていくでしょう。身をもって分散投資を学べるのです」
分散投資の思考が芽生えてくると、さまざまな会社に注目するようになり、子どもの世界が広がっていく。
「まずは身近な商品を扱う会社から始めると思いますが、徐々に『似た商品をつくってる会社はどうかな?』『もっと業績がいい会社を探そう』と、興味の範囲が広がっていくはずです。さまざまな会社を調べていくと、将来的に成長する会社や業界が見えてくるでしょう。その情報は、子ども自身が働く年齢になったときに、就職先や働き方を選ぶ指標になります。投資も就職も、『将来成長する可能性が高い会社』を見極めるという点はほぼイコールです。投資は、子どもの生活に直結するといえます」
「投資」と「貯金」どちらも必要な理由
ここまで投資の話をしてきたが、子どもに「貯金しておけばいいじゃん」と言われたら、どう答えるといいだろうか?
「まずは『貯金だけでいい』という子どもの意見を尊重し、貯金の必要性や投資のリスクを整理しましょう。貯金は元本が減るリスクがほぼゼロですし、すぐに引き出せるので、ケガや病気などの緊急時に使う資金として必要です。一方、投資は元本より減るリスクがあり、現金として引き出すにも3営業日ほどの時間がかかってしまいます」
貯金のメリットや必要性を踏まえたうえで、デメリットといえる「超低金利」にも触れていく。
「現在の預貯金の金利は年0.001%など、超低金利のところがほとんどです。100万円預けても、年間10円しか増えません。その反面、日本では物価上昇が続いています。仮に物価が年間3%上がっていくとすると、100円の商品が2年後、3年後にいくらになるか、子どもと一緒に計算してみましょう。1年ごとに1.03をかけていくと、物価が上がっていく様子が数字で見え、貯金だけだとお金が実質的に減っていくことを体感できます」
「投資はお金が減るリスクがありますが、増える可能性も秘めています。貯金したまま何もせずに物価上昇を傍観するよりも、投資という手を打って備えておくほうがいいかもしれない。そういう選択肢を増やしていけるといいと思います」
親に経験がないと、投資の仕組みを伝えるのは難しいかもしれない。しかし、そこで諦めるのではなく、子どもと一緒に経験し、一緒に学んでいく姿勢で臨むといいだろう。あまり構えすぎず、まずは少額から投資をスタートしてみるのがよさそうだ。
(取材・文/有竹亮介(verb))