福永博之先生に聞く信用取引入門
【信用取引入門】第5回:信用取引の決済方法について
【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第4回:信用取引のリスク管理について
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信用取引は投資家が現金や株券などを担保に、証券会社より株を買う資金や株券を借りて売買するもので、借りた資金や株券については期限内(制度信用は6ヵ月)に返済する必要がありますが、この資金や株券を返すことを「決済」と呼んでいます。
また、この決済には信用取引の買いと売りでそれぞれ2種類の方法があります。信用取引の買いの場合、買い建てた建玉を売り、売却後に信用取引口座に入ってきた売却代金を資金の返済に充当する方法です。これを「転売(てんばい)」と呼んでいます。
転売は、買い付け時に借りた資金よりも売却代金が多ければ、差額が利益として信用取引口座に残りますが、借りた資金よりも売った代金の方が少なかった場合、損失として信用取引口座から不足の代金が差し引かれることになります。
したがって、信用取引で買い建てた場合、現物株の取引と同様に売却代金と購入代金の差額が損益となるわけです。
続いてもう1つの決済方法ですが、これは証券会社から借りた資金(信用取引の買付代金)を別途用意して、証券会社に支払う方法です。買付代金(金利などの諸費用を含む)を支払ったあと、現物の株券を受け取ります。
この決済方法を「現引き(げんびき)」または「品受け(しなうけ)」と呼んでおり、この決済方法を選ぶメリットがあります。
1つは、「現引き」を選択することで、信用取引の建玉と現物株が置き換わることになり、信用取引で発生するコストが無くなることになります。この時のコストとは金利などのことを指します。
また、この「現引き」を有効活用することで、売買タイミングを逃さずに投資できるようになります。
例えば、自社製品やクオカードなどがもらえる株主優待狙いなどで、株価が値上がりしているとき、株を買うために必要な買付代金が用意できるまで待っていると株価が高くなっているところを買わなければならなくなりますが、購入代金の30%以上の資金が手元にあれば、信用取引を使って買い建てることができます。
その後、株主優待が受け取れる権利が確定するまでに「現引き」を行えば、買うタイミングを逃すことなく優待も受け取ることできるというわけです。
ただこの場合、買い建てした後に買付代金が用意できることが条件になります。一般的にはボーナスなどの一時金が受け取れると分かっているときや、定期預金が満期になるなど、予め決まった期日に購入代金が用意できることが分かっているようであれば、信用取引と現引きを有効活用できるのではないでしょうか。
続いて、信用取引の売りの場合の決済についてです。売り建ての決済は借りた株券を返すことになりますが、この返す株券を市場で調達するか、持っている株券を充当するかで決済方法が異なります。これらのうち、返す株券を市場で調達する場合が「買い戻し」です。
現物取引の場合、株券を売ったあと売却代金が口座に入りますが、信用取引の場合、売り建てを行っても売却代金は入ってきません。
株券を返済して初めて取引が完了することになります。これが「買い戻し」です。
実際の取引の流れですが、信用取引で売り建てたあと、その売り建玉の銘柄を同じ株数だけ買い戻すことで株券が返済される仕組みです。
また、売り建てたときの代金と買い戻したときの代金の差額が損益として発生します。例えば、売り建てた代金が100万円で、買い戻したときの代金が90万円だった場合、10万円が利益となります。
この考え方についてですが、何らかの要因で現時点より株価が下落すると予想した場合に、予め高い株価で売っておいて、その後値下がりしたところで株券を買い戻して返済に充てるというものです。
したがって売り建てたあとに株価が下落すれば利益になりますが、逆に株価が上昇した場合は売った価格よりも高い価格で買い戻すことになり、差額分を支払う必要があります。
仮に損失が発生した場合、信用取引口座にある保証金から差し引かれますが、信用取引口座にある保証金が足りなくなるようですと、追加で保証金を差し入れる必要が出てきますので、前回解説したリスク管理が重要になることを頭に入れて取引を行うようにしてください。
なお、買い建てを行って損失が発生した場合も同様に保証金から差し引かれ、保証金が足りない場合は追加で保証金を差し入れる必要がありますので要注意です。
では最後に、信用取引の売りにおける残りの決済方法について解説します。これは、「現渡し(げんわたし)」または「品渡し(しなわたし)」と呼ばれるものです。
前述のように、売り建てたあとに株価が上昇してしまうと、「買い戻し」では損失が大きくなってしまう心配がありますが、この「現渡し」は、保有している株券を使うため、売建玉を買い戻して株券を調達する必要がありません。
そのため株価が上昇してしまっても売建玉と同じ株数を保有していれば、「現渡し」を選ぶことによって損失の発生を防ぐことができます。
一方で、保有株を決済に充当した場合、株価が信用取引で売り建てた価格より上昇していても、売り建て価格での売買代金しか受け取ることはできませんので、これも覚えておきましょう。
また「現渡し」を行うつもりで売り建てる場合、予め保有している銘柄と同じ株数だけ売り建てる必要がありますので、間違わないようにしましょう。
仮にですが、保有している株数以上に売り建てを行った場合、「現渡し」のあとに残った株数を市場で「買い戻す」か、あるいはどこかから株券を調達する必要がありますので、「現渡し」決済をするつもりで保有株を売り建てする場合、くれぐれも保有株数以上に売り建てしないよう注意が必要です。
【第6回】はこちら
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長
勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。