「SMTAMのESG」
議決権行使:運用会社から見たアクティビストと買収防衛策
提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント
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はじめに
日経平均株価指数が一時4万円を超え、株式市場に対する見方の変化を感じている方も多くなってきたのではないでしょうか。今回の株式相場の上昇を牽引した要因の一つに日本企業のコーポレートガバナンスの改善が挙げられます。その改善に一役買ったのが議決権行使における企業と運用会社、アクティビストの関係性の変化と言われていますが、今回はそれらを取り巻く最近の動きについてお話したいと思います。
アクティビストの隆盛
十年ほど前と比較すると、株主総会は随分と緊張感の高まる場となったように感じます。企業の不祥事等のガバナンス関連の議題や特にこの数年は環境関連のトピック等について目にすることも増えてきました。
中にはメディアを巻き込み、宣伝合戦の様相も呈しながら、企業に対して圧力をかける株主も現れているのは、新たな姿といえるでしょう。
運用会社から見た過去の典型的なケース
アクティビストが株式を保有し、投資先企業の経営陣に対話の機会を求めるなどのアクションによって、最終的に収益拡大を目指す事例の多くには、その対象企業に共通の特徴が認められます。
その最たるものとして株価が割安であり、保有する資産を有効に活用できていない企業が挙げられます。アクティビストにとってそのような状況にある企業は、一定量の株式を保有した後に、経営に関与することで株価を向上させる余地があると考えられ、経営陣に自らの主張を受け入れてもらうように積極的に協議をもちかけます。
しかし協議が難航しているなかにもかかわらず、アクティビスト側が株式の保有比率を高め、支配権を強めようとした場合に、対象企業がそのような状況を好ましくないと判断すれば、「買収防衛策」を用いてアクティビストの主張に対抗することができます。
近年、日本国内では、買収事案が表面化してから、アクティビストに限定して買収防衛策を発動する形式が主流となっています。この買収防衛策を進めるには株主総会でその同意を得ることが必要であり、当社のような運用会社が賛同するかどうかが可決の鍵を握るため、その判断に注目が集まりがちです。
当社は、買収防衛策に対しては、「取締役会の保身を目的とするものであってはならず、中長期的な株主価値の向上に資するものであるべき」と考えております。行使の原則としては、当社は買収防衛策の議案に反対しますが、有事において導入される買収防衛策については、将来見通しを含めた実質的な株主価値判断に基づき、買収防衛策の発動是非と一体で行使判断を行います(注)。ここでは過去にあった当社の買収防衛策に対する判断事例を紹介します。
(注)当社の議決権行使の考え方については、責任ある機関投資家としての議決権行使(国内株式)の考え方|三井住友トラスト・アセットマネジメント(smtam.jp)で公表しております。
■ケース1:東芝機械(現芝浦機械)が投資会社オフィスサポートの同意のない買収への対抗のため、買収防衛策の賛否を問う株主総会が開催されたケース(2020年3月総会)
登場する企業とアクティビスト
株主総会開催までの経緯
オフィスサポートが東芝機械の同意を得ずにTOB(株式公開買い付け)を仕掛けたことにより、東芝機械は買収防衛策を導入
¹敵対的TOBとは| 対象となる会社の取締役会の同意を得ないでTOB(株式公開買い付け)を仕掛けること
当社の行使判断に至ったポイント
「有事」において導入される買収防衛策に該当するケースと思われるため、同社が株主総会前に策定した経営改革プランと、アクティビストの主張が実行された場合のどちらが企業価値向上に資するかを判断基準としました。
■ケース2:コスモエネルギーホールディングスが投資会社シティインデックスイレブンスの買い増しに備え、買収防衛策の発動の是非を株主総会で諮ったケース(2023年6月総会)
登場する企業とアクティビスト
²スピンアウトとは| 企業が特定の子会社や事業を、資本関係を継続することなく、独立させること
株主総会開催までの経緯
シティインデックスイレブンス(シティ)が同社株式を20%以上保有する状況の下、さらなるシティによる買い増しに備えるため、同社は買収防衛策発動の採決を実施
当社の行使判断に至ったポイント
「有事」において導入される買収防衛策に該当するケースと思われるため、同社と継続的に実施した対話内容を踏まえて判断しました。特に脱炭素社会に向けた同社の事業転換をテーマとした対話が、風力発電子会社の将来的な企業価値とのつながりを判断する根拠となりました。
この先の展望
ここでは買収防衛策について2つの事例を紹介しました。いずれも当社では、単に外形的な基準のみではなく、投資先企業との対話や新たに示された事業戦略などを精査した上で、企業価値向上には何が必要かを検討した上で、最終的な議決権の判断を行いました。
アクティビスト活動が活発になる中、複雑化する課題への対応が迫られるのは投資先の企業のみではなく、我々運用会社も同様です。当社では、海外駐在担当者や国内外のイニシアチブなどのステークホルダーを通じた様々な知見の獲得等、迅速かつ十分な対応のための効果的な体制を整えています。今後も当社は企業価値の増大、ひいてはお客様からお預かりした資産価値の増大のために努力してまいります。
(提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント)