福永博之先生に聞く信用取引入門

【信用取引入門】第10回:信用取引の活用4(信用売りで保有株の評価損を減らす)

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【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第9回:信用取引の活用3(下落相場に対応して利益をあげる)

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今回も信用売りの活用例についての解説です。ただ前回と少し異なる点があります。それは、保有している銘柄の信用売りを行って利益を上げるとともに、その利益と保有株の評価損を合算し、トータルで損失をおさえるところです。

具体的には、保有株が下落し始めたときに保有株数の範囲内で同じ銘柄の信用売りを行い、保有株で発生した評価損と信用売りの利益を相殺することになります。

では、さっそく確認していきましょう。

この信用売りを行う際にまず確認することがあります。それは、保有銘柄が貸借銘柄かどうかです。貸借銘柄とは、制度信用取引で株券を借りて売ることができる銘柄のことを言います。保有銘柄が貸借銘柄の場合は、制度信用売りを行うことができますが、一方、貸借銘柄でない場合は、制度信用取引としては信用売りを行うことができませんので要確認です。(ただし、一般信用取引にて、証券会社が個別に信用売りが可能と定めた銘柄の場合、一般信用取引により信用売りを行うことができます。しかし、制度信用取引とは異なり、返済までの期限や貸株料などのコストに当たる部分が制度信用取引の銘柄と異なる場合がありますので、取引を行う前に必ず確認するようにしましょう。)

それでは、具体的な銘柄として今回は電鉄株を見てみましょう。電鉄株は、株主優待を受け取ることを目的として保有している投資家も多いと思います。このような投資家は、株主優待を受け取る権利がいったん確定してしまうと、そのあとは株を売却してしまう場合もあるため、権利落ち日以降、株価が下落することがあります。さらに様々な相場要因により、その後も下落基調が続くと、株主優待だけが保有の目的ではない投資家にとっても、保有し続けていることが不安になることがあります。

そんな時にこそ信用取引の出番です。保有株を権利落ち後も保有しつつ、信用売りするとどのような結果になるのか考えてみたいと思います。

〇電鉄株の2024年3月29日終値と5月28日現在の比較による評価損益

※上記の評価損益は3月29日と5月28日との比較であり、買値との比較ではないため注意

上記の表は、電鉄株を銘柄コード順に若い方から並べたものになりますが、3月29日の終値と5月28日の終値とを比較してみると、東急の1,150円の評価損から東武鉄道の99,750円の評価損まで差が大きく開いているものの、5銘柄すべてが下落して評価損が発生しており、ただ単にほったらかしにして保有していただけでは優待の価値以上に下落していることもあり、注意が必要なのです。

そこで、これらの銘柄が下落し始めたなと感じたら、信用取引の売りを思い出してください。もちろん現物株を売ってしまって現金化できればそれでも良いと思います。

ただ、これらの損失が発生する前に保有株と同じ銘柄の信用売りを活用することで、評価損の発生や拡大を防ぐことができます。

具体的に見てみましょう。例えば東武鉄道を100株保有していたとします。3月27日が優待などの権利確定日になりますが、その翌日から株価の上値が重たくなってきたため、3月29日の終値で100株を信用取引で売りました。

この時の信用取引にかかる委託保証金は、保有している東武鉄道100株を代用有価証券として差し入れれば、追加の資金は必要ありません。なぜなら、3,781円×100株×80%(掛け目)=302,480円となり、必要な委託保証金額である、約定価額の30%(3,781円×100株×30%=113,430円)、及び最低委託保証金の30万円を上回っているからです。保有株と同じ銘柄を売っているため、東武鉄道の株価が下落して保有株の価値が下がったとしても、信用で売り建てた東武鉄道の建玉に利益が発生しているため、保有株の価値の下落と売建玉の含み益で相殺され、評価損益は固定されることになります。

つまり、表にかかれているように株価が2,783.5円まで下落すると、保有株では99,750円の含み損が発生するわけですが、一方で信用売りの建玉では99,750円の含み益が発生しているため、合算すると損益は0(ゼロ)となり、安心して保有することができるというわけです。ただ、売り建玉に対して手数料や貸株料などのコストは発生しますので注意して下さい。

このように、保有株を代用有価証券として委託保証金を差し入れることができれば、新たに資金を追加することなく信用取引で売ることができます。

また信用売りでは、保有株を有効活用して下落リスクを回避(ヘッジと言います)することもできるようになるというわけです。

このような取引のことを「つなぎ売り」と呼んで、下落リスクの回避(ヘッジ)に使われることがありますので是非覚えておきましょう。

【第11回】はこちら

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著者/ライター
福永 博之
国際テクニカルアナリスト連盟 国際検定テクニカルアナリスト
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長

勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。
著者サイト:https://www.itrust.co.jp/
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