福永博之先生に聞く信用取引入門

【信用取引入門】第11回:決済方法の具体例(返済売り)

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【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第10回:信用取引の活用4(信用売りで保有株の評価損を減らす)

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今回から信用取引の決済方法について、具体的に解説していきたいと思います。信用取引の決済方法については、第5回(【信用取引入門】第5回:信用取引の決済方法について | 東証マネ部! (money-bu-jpx.com))で紹介しましたが、そこで紹介した決済方法を具体的な取引例を用いて解説します。

今回例に取り上げるのは信用取引の「返済売り」(転売)についてです。返済売りとは、信用取引で買い建てを行い、その後に売って決済することですが、この決済時に買値よりも株価が上昇していれば利益となり、買値よりも値下がりしていると損失になります。
また、決済後に利益が出た場合は信用取引口座に利益分が加算されますが、含み益の段階では加算されません。

一方、建玉に損失が発生している場合は含み損の段階でも委託保証金から差し引かれます。
そのため、追加の委託保証金(追証)を避けるためには信用取引の委託保証金を多めに差し入れておく必要がありますので注意してください。

それでは返済売りで利益となる例と損失になる例を紹介したいと思います。

利益になる例から見ていきます。取り上げるのは不動産株です。不動産株では、三井不動産、三菱地所、平和不動産、東京建物、京阪神ビルディング、住友不動産など日本を代表する会社の株が東証プライム市場に上場していますが、2024年初めは日銀の金融緩和が継続する見通しと伝わっていたこともあり、2023年後半から2024年にかけて不動産株の上昇が続いていました。

そこで、2024年1月に三菱地所(コード8802)を2,000円で500株、信用買いしたとします。この時の購入代金は2,000円×500株=100万円になりますが、委託保証金は100万円×30%=30万円以上となります。
ただ、ぎりぎりでは損失が発生してしまった時に追加で委託保証金を差し入れる必要が出てきますので、多めに委託保証金を入れておきましょう。

その後の株価動向についてですが、予想通り上昇が続き、4月12日には3,082円の高値をつけましたが、株価が伸び悩んだことから5月の大型連休の間の5月2日の終値2,900円で返済売りを行いました。

結果は・・・。※以下、税金や手数料などのコストは考慮していません。

2,900円(売値)-2,000円(買値)=900円
900円×500株=45万円(利益)

となり、信用取引口座の委託保証金にこの45万円が加算されることになります。
仮に委託保証金が40万円だった場合、利益の45万円がプラスされて85万円の委託保証金となります。委託保証金が85万円になると、信用取引で買うことができる金額は85万円÷30%(委託保証金率)≒283万円となり、金額や株数面で購入できる銘柄の選択肢が広がります。

一方で、損失になった場合はどうなるのでしょうか?

例として挙げるのは自動車株です。自動車株では、日産自動車、いすゞ自動車、トヨタ自動車、日野自動車、三菱自動車など日本を代表する会社の株が東証プライム市場に上場していますが、これらのなかでトヨタ自動車(コード7203)を例に解説します。

トヨタ自動車の株価は2024年3月27日に高値をつけたあと伸び悩む展開となっていました。頭打ちになっていた理由の1つとして考えられるのが円安の一服です。
ただ販売は好調ということもあって、5月の大型連休入り前の4月26日に3,500円で200株、買い建てを行いました。この時の委託保証金は40万円とします。

その後一旦上昇したものの株価は頭打ちとなり、買値の3,500円も下回ってしまいました。買値を下回ってしまうと、返済していなくても信用取引の委託保証金から含み損の金額が差し引かれることになります。

委託保証金が信用建玉の20%を下回った場合に追加の保証金が必要になりますので、追加の保証金が必要になる前に返済を行って損失を確定することとします。
実際の株価は5月の大型連休明けから買値を下回った状態が続いたことに加え、その後も円安が一服していたこともあって買値まで戻らなかったことから、5月29日に3,390円で200株を売り返済しました。

結果は・・・。※以下、税金や手数料などのコストは考慮していません。

3,390円(売値)-3,500円(買値)=-110円
-110円×200株=-2.2万円(損失)

となり、2.2万円の損失が発生します。この時、信用取引口座の委託保証金から2.2万円が差し引かれるため、委託保証金の額は40万円-2.2万円=37.8万円に減少します。

この委託保証金の減少によって、信用取引で購入できる金額が40万円÷30%≒133万円から37.8万円÷30%≒126万円となってしまいます。

この委託保証金であれば引き続き信用取引を行うことができますが、30万円を下回ってしまうようなことになれば、新たに信用取引を行うためには追加の委託保証金が必要になり、信用取引口座に新たに入金しなければなりませんので、早めに損失を確定させることが重要です。

決してほったらかしにはしないようにしてください。

【第12回】はこちら

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著者/ライター
福永 博之
国際テクニカルアナリスト連盟 国際検定テクニカルアナリスト
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長

勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。
著者サイト:https://www.itrust.co.jp/

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