身近なお金について理解しよう!人生に必要なお金のトリセツ
皆さんは、年々重要性が高まりつつある金融リテラシーを身につけられていますか?本連載では、大阪公立大学・北野友士准教授のご著書である「学生に読んでほしい お金の攻略本」の内容を全6回に分けて紹介しながら、皆さんと一緒に金融リテラシーについて学んでいきたいと思います。
第1回で紹介するのは、身近なお金についてです。学生生活でどんなお金が必要だったか思い浮かべながら、「お金」について理解を深めていきましょう。
人生は「生きがい」「計画」「お金」?
皆さんは就職先を選ぶにあたって、何を基準にしたでしょうか?人生で大きな決断をする際や、生きていくうえで大切な概念として、金融リテラシーやライフデザイン・ライフプランなどがあります。
ここから、金融リテラシーの重要性や、ライフデザイン・ライフプランの意味について確認していきましょう。
金融リテラシーの重要性
金融リテラシーとは、個人が生きていくうえで必要なお金に関する知識や能力のことです。
近年、「貯蓄から投資へ」あるいは「貯蓄から資産形成へ」といった文脈で、金融リテラシーの向上が求められています。少額投資非課税制度(NISA)の拡充や、個人型確定拠出年金(iDeCo)の創設などが話題になっていることからも、金融リテラシーの重要性がわかるでしょう。
昨今、物価上昇の影響により、家計の節約や家計の見直し方の重要性が増しています。また、金融トラブル(例:振り込め詐欺や還付金詐欺など)も後を絶ちません。
騙されないための知識や能力、行動を身につけることも、お金を減らさないための金融リテラシーと言えます。
ライフデザイン・ライフプランとは
「ライフデザイン」とは、自分がこう生きたいという人生を思い描くことです。具体例として、「いつか自分の会社を作ってみたい」「山を買って自分だけのキャンプ場を作りたい」などが挙げられます。
ライフデザインは、仕事に限定されるものではありません。趣味や自分の望む家族構成、譲れないこだわりなど、自身の価値観を反映したものがライフデザインとなります。
「ライフプラン」とは、「ライフデザイン」を実現するための計画です。ライフデザインが定まれば、おのずと自分がいつ何をすべきか(ライフプラン)も決められるでしょう。
例えば、先ほどの「自分の会社を作ってみたい」といったライフデザインには、「会社を設立するために経営学や会社法を学ぶ」というライフプランが考えられます。また、「キャンプ場を作りたい」(ライフデザイン)には、「山を探して選ぶ」計画(ライフプラン)を立てられるでしょう。
なお、ライフデザインとライフプランが決まったら、次に出てくるのがお金の話です。ライフプランを実行するため、必要なお金をどのように準備するか考えることを「ファイナンシャル・プランニング」と呼びます。
「お金」には5つの選択がある
一般的に、人生の三大費用(資金)は、住宅資金・教育資金・老後資金です。
三大費用に自動車資金や生命保険料まで加えると、少なく見積もっても8,000万円を超えるお金が必要になるでしょう。つまり、生涯賃金2億円と仮定しても、5つの資金だけで4割が消えてしまうことになります。
そこで、お金に関する以下5つの選択について理解しておくことが、今後のために大切です。
1. 稼ぐ
2. 消費・貯蓄の割合を決める
3. 貯蓄と投資の割合を決める
4. 借入を行う
5. リスクを把握・管理する
それぞれの概要を紹介します。
1. 稼ぐ
「稼ぐ」とは、職業を選んで働き、収入を得ることです。「お金」に関する選択の出発点になります。
例えば、結婚して子どもを持つつもりがない場合、教育資金は不要です。そのため、生涯賃金が2億円の会社員でも、趣味や車にお金を使う余裕があるかもしれません。
しかし、豪邸に住んで高級車を何台も持ちたいのであれば、会社員以外の選択肢も検討する必要があります。
2. 消費・貯蓄の割合を決める
「消費・貯蓄の割合を決める」とは、稼いだお金を「今使うお金(消費)」と「将来使うお金(貯蓄)」に分けることです。自分の将来や家族のために、稼いだお金をすべて使わずに、一定割合で残しておかなければなりません。
もちろん、やりがいのある仕事を一生続けるつもりの人もいるでしょう。しかし、病気やケガなどで退職や引退を余儀なくされることも想定しておかなければなりません。
3. 貯蓄と投資の割合を決める
「貯蓄と投資の割合を決める」とは、「貯蓄」として安全に置いておくお金と、「投資」によって積極的に増やすお金との割合を決めることです。
「貯蓄」は、急に取り崩す可能性を考慮し、目減りしにくく現金化できる状態にしておきます。ただし、貯蓄のうちすぐに使わない部分は、株式投資などで積極的に増やすことも検討しなければなりません。もし投資でお金が増えれば、生涯賃金にプラスアルファの所得を生み出せるでしょう。
4. 借入を行う
「借入を行う」とは、必要に応じて一時的に足りないお金を借りることです。
若手社員のうちに、3,000〜4,000万円の住宅を現金一括で購入できる人はほとんどいません。仮に生涯賃金が2億円でも、それは40年近く働き続ける間に少しずつ受け取れる額を合わせたものです。
そこで、住宅ローンを利用して住宅を購入することがあります。住宅ローンとは、足りないお金を借りて、将来の給料から返済する仕組みです。住宅ローンや奨学金のような借金には、将来の収入を現在の支出へと組み替える効果があります。
5. リスクを把握・管理する
「リスクを把握・管理する」とは、1〜4の意思決定において予定などが狂った際に備えておくことです。
人生では、「急に給料が下がった」「物価が上がって貯蓄をする余裕が亡くなった」「投資している株式が値下がりした」などのアクシデントに見舞われることもあります。このような状況がどのように起こりえるのか、もし起きた場合にどう対処するのかをあらかじめ考えておくのが「リスクを把握・管理する」ことです。
学生時代にどんなお金が必要だった?
身近なお金について理解できるように、学生時代にかかる以下の主な支出(収入)を紹介します。
・学生時代の収入と支出
・ダブルスクールによる支出
・自動車学校通学による支出
社会人になっている方は、学生時代を思い浮かべながら読み進めてください。
学生時代の収入と支出
学生時代の生活は、主にアルバイト・家庭からの給付・奨学金などの収入で成り立っています。一方、主な支出は学費と生活費です。
アルバイトを頑張れば、収入を大きく増やせます。ただし、アルバイトに集中しすぎて大学の授業で欠席を繰り返し、単位取得に苦戦すると、ライフデザイン・ライフプランに悪影響を及ぼしかねません。
*日本学生支援機構の「令和2年度学生生活調査結果」によると、国立大学に通う学生の支出は年間142万円でした。例えば、奨学金(平均的な額40万円)と100万円超の仕送りを受け取れる学生であれば、アルバイト収入がほぼ不要と計算できます。
また、私立大学に通う学生の支出は年間192万円でした。この場合でも、奨学金(40万円)と仕送り(100万円)に加え、アルバイト収入が年間50万円超あれば生活できることになります。
このように、どれだけのお金が必要なのかを考えながら、収入と支出を考えることが大切です。
*出典:学生に読んでほしい お金の攻略本 p.33〜34
ダブルスクールによる支出
学生時代は、大学での学費以外に、他の教育機関に通うこと(ダブルスクール)で大きな支出が発生することもあります。ダブルスクールを検討する主な理由は、入学後に将来目指す職業が変わった、独学での取得が困難な難関取得を目指すなどです。
ダブルスクールの種類によって年間80万円かかるケースもあります。この場合、1ヶ月あたり7万円弱の費用がかかる計算です。そのため、学費と生活費を工面するためには、大学・ダブルスクールに通いつつ、アルバイトもかなりの時間こなす必要が出てくるでしょう。
難関資格を目指す際、アルバイトに多くの時間を割くことは得策ではありません。また、保護者に費用を負担してもらえるとは限らないでしょう。
そこで、アルバイトに時間を費やさずダブルスクールに通うために、奨学金を借りる・通っている大学の制度を利用する・国や民間の教育ローンを利用する、などの方法を検討することがあります。
自動車学校通学による支出
自動車学校の通学も、学生時代に発生する大きな支出のひとつです。
運転免許の取得には、最低でも20万円は用意しなければなりません。保護者からの支援が期待できない場合は、アルバイトで稼ぐことが望ましいです。
また、運転免許ローンを利用する方法もあります。ただし、分割手数料が高い可能性もあるため、メリット・デメリットを十分比較して決断しなければなりません。
成年年齢引き下げによる影響とは?
成年年齢には、「ひとりで契約できる年齢」と「父母の親権に服さなくなる年齢」のふたつの意味があります。成年年齢の引き下げに伴い、18歳から自分だけでさまざまな契約をできるようになりました。
18歳からできるようになったことの具体例として、以下が挙げられます。
・ひとり暮らしの部屋を借りる
・携帯電話を契約する
・クレジットカードを作る
一方で、お酒やたばこ、公営競技(競馬・競艇など)に関する年齢制限は20歳のままです。
仕事で18〜19歳の顧客と接する可能性もあるため、社会人ですでに成年を迎えている方も制度を理解しておきましょう。
まずは身近な「お金」から理解しておこう
今回は、大阪公立大学・北野友士准教授の「学生に読んでほしい お金の攻略本」の第1章、「学生生活とお金のトリセツ」の内容を紹介しました。
人生において、さまざまな場面で「お金」と向き合わなければなりません。限られた収入のなかから三大費用などの大きな支出をするためには、お金に関する5つの選択について理解することが重要です。
また、金融リテラシーを身につけることや、ライフデザイン・ライフプランを描くことも将来に役立ちます。この機会に、まずは自分のライフデザインについて考えてみてはいかがでしょうか。
*本記事は、こちらの第1章をもとに作成しています。
第2回「今のお金と将来のお金は違う?ファイナンスの基礎を紹介」は7/14(日)に公開予定です。
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。