今のお金と将来のお金は違う?ファイナンスの基礎を紹介

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近年、金融リテラシーの重要性が高まりつつあります。しかし、金融リテラシーを身につけるために何から始めればよいかわからない方もいるでしょう。

そこで本連載では、大阪公立大学・北野友士准教授のご著書である「学生に読んでほしい お金の攻略本」の内容を全6回に分けて紹介しながら、皆さんと一緒に金融リテラシーについて学んでいきたいと思います。

第2回で紹介するのは、ファイナンスの基礎です。宝くじや年金といった身近な話題を通して、ファイナンスについての理解を深めていきましょう。

第1回「身近なお金について理解しよう!人生に必要なお金のトリセツ」をまだお読みで無い方はこちら

選ぶなら「今のお金」?「将来のお金」?

突然ですが、皆さんは受け取れるなら「今のお金」を希望しますか?それとも「将来のお金」を希望しますか?ファイナンス理論は、このようなお金に関する意思決定の理論です。

宝くじの受け取り方や貨幣の時間的価値などを通じて、ファイナンスについてわかりやすく説明します。

宝くじの受け取り方を考えてみよう

宝くじに当選し、以下の4つの方法の中から自分で受け取り方を決められると仮定します。果たして、どの方法が正解なのでしょうか。

1. 今すぐ100万円受け取る
2. 今すぐ50万円受け取って、1年後に50万円受け取る
3. 毎年10万円ずつ10年間受け取る
4. 10年後に100万円を受け取る

1〜4のいずれも、最終的に受け取る金額は100万円で変わりありません。ただし、ファイナンス論に従って考えると、最も価値のある選択肢は1です。

例えば、今すぐ100万円を受け取って必要になるまで銀行に預金しておけば、利息が付きます。仮に1年の金利が0.3%で定期預金にした場合、1年後に3,000円を受け取れるでしょう(税金を考慮せず)。

ファイナンス論によると、2〜4の選択肢は受け取れたはずの利息を受け取れない分、「損している」と考えます。

貨幣の時間的価値を考慮することがポイント

お金に関する意思決定を行う際に重要な概念として「貨幣の時間的価値」があります。わかりやすく言うと、貨幣の時間的価値とは「現在のお金(例:1万円)」と「将来のお金(例:1万円)」の価値が違うことです。

一般的に、「現在の1万円」は「将来の1万円」よりも価値が高くなります。理由は主に以下の3つです。

1. 「現在の1万円」を銀行に預ければ、将来利息を受け取れる
2. 今後物価が上昇すれば、「将来の1万円」の価値が「現在の1万円」より下がる
3. 「将来の1万円」を受け取れるという保証がない(相手が約束を忘れる、相手の気が変わる、相手が破産する)

つまり、お金に関する意思決定を行う際は、金利の存在・物価の変動・将来の不確実性から貨幣の時間的価値を考慮しなければなりません。

お金を目減りさせないための方法

将来物価が上昇(インフレーション)することで、お金が目減りするのを防ぐためには、複利を検討することがポイントです。そもそも「お金の目減り」とは何かを説明した後で、複利の意義を紹介します。

「お金の目減り」とは

「お金の目減り」とは、お金の実質的な価値が減少することです。低金利の場合、物価の上昇が激しければ預金していてもお金は目減りします。

例えば、普通預金の金利が0.001%で毎年物価が2%上昇しているケース(*)では、20万円を普通預金にしていると、4年後に約1万6,000円(目減り率約−7.61%)も目減りしてしまいます。

*出典:学生に読んでほしい お金の攻略本 p.55,56

複利を検討する

単利は利払いのたびに利息を受け取る方法を指すのに対し、複利は利息を受け取らずそのまま元本へ再投資する方法を指します。金利が同じでも、単利と複利を比べると複利の方が利回り(投資元本に対する儲けの割合)の面では有利です。

しかし、複利で銀行に預ける場合でも、金利が物価上昇率よりも低いと預金額は目減りします。そこでファイナンスの世界では、複利計算と「実質金利」を前提に、将来所得のどの程度を貯蓄に回し、そのうちどの程度を投資に回すか考えることが大切です。

実質金利とは、名目金利(契約上・表面上の金利)から物価上昇率を差し引いたものを指します。

将来のお金を用意するにはいくら必要?

将来のお金を今用意するためにいくら必要になるのかを計算するには、将来価値の計算式を応用します。まず、将来価値の計算式は以下のとおりです。

・FV = PV(1 + r)n

FV:将来価値、PV(現在価値)、r:実質金利、n:年数

ここから、将来価値の計算式や減債基金係数を使って、将来のお金を用意するために必要な額を計算する方法を紹介します。

将来価値の計算式を使って計算する

将来30万円が必要な場合、金利を考慮すれば30万円未満でも今から預金しておけば30万円に達する可能性があります。今いくら預金すればよいのか計算するには、将来価値を用いて現在価値を計算するのが一般的です。

冒頭で紹介した将来価値(FV)の計算式を変形すれば、現在価値(PV)を以下のように求められます。

・PV = FV/(1 + r)n

3%の複利運用を想定した場合、2年後30万円にするために今いくら預金すべきかは、上記の式に当てはめるだけで計算可能です(FV=30万円、r=3%、n=2)。実際に計算すると、約28万3,000円預けると、2年後に約30万円になることがわかります。

減債基金係数を用いて計算する

実際は、一度にまとめたお金を用意するよりも、毎年(毎月)所得の一部を少しずつ積み立てて資産運用しつつ、目標額を目指すことの方が現実的でしょう。一定の金利で複利運用しながら数年後に目標額を達成するために、いくら積み立てればよいか考える際は、減債基金係数を用います。

減債基金係数を用いて計算する方法は、Excelを使う、減債基金係数表を参照するなどです。例えば、減債基金係数表(*)で「4%」と「20年」の交差する欄をチェックすれば、「0.03358」とを確認できます。

30,000,000円に0.03358をかけると、「1,007,400」円です。つまり、年利4%で複利運用しながら20年間で3,000万円を準備するためには、年間約101万円ほど積み立てていけばよいことになります。

*出典:学生に読んでほしい お金の攻略本 p.63

「年金」をファイナンス論で考える

年金生活に必要なお金を考える際にも、ファイナンス論が役立ちます。ファイナンスにおける「年金」の意味や、「年金」の現在価値・将来価値の求め方を確認していきましょう。

ファイナンスにおける「年金」の意味

一般的に、「年金」の話題になると老後に受給できる公的年金などが思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、学問的なファイナンスの分野で使われる「年金」は、定期的に一定金額を受け取ること、もしくは支払うことです。

例えば、50歳で早期リタイアし、65歳で公的年金を受け取るまでの15年間、毎年200万円ずつ預金(4%で複利運用)から取り崩して生活する場合、最低でも2,224万円の元手を用意しなければなりません。ここで、複利運用しつつ毎年支出する200万円が「年金」、50歳時点で必要な元手2,224万円が年金の現在価値(年金現価)です。

「年金」の現在価値・将来価値の求め方

年金の現在価値(年金現価)の意味を知ると、将来価値(年金終価)も気になるでしょう。年金の将来価値とは、例えば毎年100万円を積み立てて年利3%で運用したら、20年後にいくらになるかということです。

年金の現在価値はExcelのPV関数、年金の将来価値はFV関数を使って求められます。また、それぞれ年金現価係数表、年金終価係数表を参照すれば、より簡単に計算可能です。

そのほか、退職金受け取りなどで、手元のお金を複利運用しながら一定額ずつ取り崩すには、毎年いくらまで取り崩し可能なのか知りたいと思う場面も今後出てくるでしょう。その際は、ExcelのPMT関数や資本回収係数表などを使って計算できます。

金利と国債(債券)の関係

債券とは、定期的な利息の支払いと一定の期間後に返済(償還)することを約束し、発行する債務証書(借金)を指します。具体例は、国が発行する「国債」、地方公共団体が発行する「地方債」、企業が発行する「社債」などです。

国債(債券)の金利変動は、国債(債券)自体の価格を変動させます。国債(債券)の金利が上昇すると価格は下落し、金利が下落すると価格は上昇することが一般的です。

老後の生活資金を考える

ここから、複利運用を使って老後の生活資金について考えていきましょう。複利運用の計算例や、債券と預金のどちらを選ぶべきか説明します。

複利運用の計算例

現在の年齢が45歳で、65歳(年金支給開始予定)から85歳までの20年間にわたって、公的年金以外に年間200万円の生活資金を準備したいとします。45歳の時点で積み立て期間4%、老後期間2%で複利運用する場合(老後資金として準備している額が0円と仮定)、年間積み立てが必要な額は最低117万円です。

それに対し、複利運用をせず必要資金を貯めるには、毎年200万円積み立てていかなければなりません。あくまで理論上の計算ですが、複利運用を活用することで、現在の生活も老後の生活も豊かにできる可能性があることを理解できるでしょう。

債券・預金どちらを選ぶか

「90万円で購入すると10年後に100万円になって償還される債券(割引債)を購入するケース」と、「金利1%(複利)の定期預金にするケース」で比較してみます。この場合、一般的に「割引債を購入するケース」の方がお得でしょう。

「金利1%(複利)の定期預金にするケース」で10年後の100万円を現在価値にすると、90万5,287円です。つまり、10年後100万円にするためには今「90万5,287円預金しなければならない」です。それに対し、「割引債を購入するケース」では、今「90万円」用意するだけで済みます。

今回は割引債・銀行預金の二択でしたが、選択肢に5年満期の利付国債や社債などが加わることもあるでしょう。それぞれ異なるキャッシュフローを持つ金融商品を比較する際も、すべての選択肢について現在価値を求めて比較することが合理的です。

なお、ここではあくまで特定の条件において「債券」の方がお得という結論になりましたが、収益性以外を考慮すると「預金」にすべきケースもあります。あくまで意思決定するためのひとつの物差しとして、現在価値に引き直して考える方法を理解しておきましょう。

お金の価値は日々変化する

今回は、大阪公立大学・北野友士准教授の「学生に読んでほしい お金の攻略本」の第2章、「お金の価値は毎日変わるーファイナンス論の基礎ー」の内容を紹介しました。

リタイアした後のことを考える際に、「今のお金」と「将来のお金」を意識しなければならないことがあります。選択に迷ったときに役立つのが、ファイナンス論に基づき「現在価値」や「将来価値」などを算出し、比較することです。将来を見据え、自分が今必要なお金や、積み立てるべき金額などを計算してみましょう。

なお、今回は一部の計算方法について説明を省略しています。計算方法をより詳しく学びたい方は、以下の書籍を参考にしてください。

*本記事は、こちらの第2章をもとに作成しています。

第3回「借金の活用法や注意点とは?住宅購入と賃貸の選び方も紹介」は7/15(月・祝)に公開予定です。

ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。

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