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アンケート調査で見る中国の景況感

貯蓄志向が高止まり、不動産価格は下落見込む

提供元:東洋証券

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消費意欲は「旅行」がトップ

中国経済の景況感や温度感は、政府当局発表の統計データからはなかなか読み取れないと言われている。市場調査も限定的で、市民のマインドを知ることも難しい。その中で、一つ参考になりそうなのが、中国人民銀行(中央銀行)が四半期に一度行う都市部預金者アンケート調査だ。消費や貯蓄志向のほか、物価や雇用、不動産価格の見通しなど市民の「生の声」が伝わってくる。

同アンケート調査は、中国人民銀行が全国50都市の預金者2万人を対象に実施する。原則的に2月、5月、8月、11月の下旬に実施し、それぞれ「1~3月期」「4~6月期」「7~9月期」「10~12月期」の結果として公表される。最新版は8月9日に中国人民銀行のホームページに掲載された「2024年4~6月期」の調査結果だ。

この最新調査によると、市民の貯蓄志向が高止まりしていることが分かった。「消費」「貯蓄」「投資」への意欲を問う三者選択方式の設問で、貯蓄を選んだ者は全体の61.5%。前四半期からは0.3pt低下したものの、6割超の高い水準が続いている。景気の先行き不透明感が根強く、安全志向が高まり傾向は変わっていないようだ。

一方、消費は前四半期から1.7pt上昇し25.1%になった。23年7~9月期の21.9%からじわり改善中だ。ただ、投資は13.3%(前四半期比1.6pt低下)と10年以降で最も低い水準となった。軟調な株式市場の影響などから、投資の手控えムードが感じられる。なお、投資方式としては、「銀行・保険・証券会社が取り扱う理財商品」が42.2%、「ファンド・信託商品」が18.2%、「株式」が13.5%だった。

消費では、「向こう3カ月間で支出を増やす項目」という設問(複数選択)に対して「旅行」と答えた者が27.8%と最多だった。“コロナ前”の19年4~6月期以来の「トップ返り咲き」となる。夏や秋の観光シーズンに向けて外出を増やす機運が高まっているようだ。24年上半期の国内旅行者数は前年同期比14.3%増の27億2500万人。中国旅游研究院は今年通年で19年とほぼ同じ60億人超まで回復すると予想している。

また、「付き合い・娯楽」は20.0%。前四半期比で0.5pt低下も、引き続き19年の水準を上回って推移しており、人に会ったりイベントなどに参加する重要性が再認識されていると言えよう。

高額消費分野は右肩下がりだ。「高額品」は前四半期比1.5pt低下の16.2%と19年以降で最も低い水準となった。前四半期は若干改善の兆しが見られた「不動産」も同0.4pt低下の14.6%。景気の不透明感から市民は財布の紐を堅くし、生活防衛意識を高めているのは相変わらずのようだ。

収入・雇用実感が悪化、不動産価格は下落見通し

収入実感についての設問では、5四半期連続で「減少」が「増加」を上回っている。中国の「ゼロコロナ政策」の解除直後、23年1~3月期の調査では「増加」が優勢だったものの、その後の景気回復が想定通りには進まず、市民の収入に悪影響を与えているようだ。国有企業や金融業界などでは給与据え置きどころか引き下げの話も出ており、想像以上に懐事情が悪化しているのかもしれない。

雇用実感は「厳しい状況・就職難・判断できず」と答えた者が48.1%と引き続き高水準。“コロナ前”の19年の30%台と比べると、労働市場の悪化がうかがわれる。「比較的良好な状況・就職容易」は前四半期比0.9pt低下の9.6%となり、雇用の厳しい状況に変わりはない。

物価見通しは、「上昇」が前四半期比2.3pt上昇の23.5%、「下落」は同1.1pt低下の9.4%だった。巷では「デフレ懸念」が取り沙汰されているが、物価上昇を見込む者も一定数おり、下落見通しを上回っているのも事実だ。ただ、やや早計だが、景気低迷が続くと今度はスタグフレーション懸念も浮上しかねないので今後の物価動向に注目して行きたい。

不動産価格の見通しは、5四半期連続で「下落」が「上昇」を上回った。政府当局は23年以降、購入制限の緩和・撤廃や不動産ローン金利の引き下げ、余剰住宅の買い取りなどのテコ入れ策を矢継ぎ早に打ち出しているが、その効果は限定的にとどまっている。市民の間には、「マンション価格はまだまだ下がるかも」「買うのは今じゃない」という買い控えの動きがあるとされる。市況回復にはまだまだ時間を要しそうだ。

(提供元:東洋証券)

著者/ライター
奥山 要一郎
上智大学外国語学部卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。2015年より上海駐在事務所所長。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。
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