ニッポン、新時代

市場の変動に強いポートフォリオを形成する

日本株は「3方向への分散投資を」 ニッセイアセットマネジメント・三国氏が考える投資理論

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米国株やオルカン(オール・カントリー:全世界株式)が話題になる中、「日本株の魅力」はどこにあるのか。これから期待できる国内の産業や投資テーマはあるのか。こうした質問を“日本株のスペシャリスト”にぶつける連載「ニッポン、新時代」。今回お話を聞いたのは、ニッセイアセットマネジメント 株式運用部 上席運用部長の三国公靖氏だ。

主に日本企業の株式に投資する「ニッセイJPX日経400アクティブファンド」の運用を担当し、実績を残してきた三国氏。同氏は日本株に投資する際のポイントとして「最低でも3つの方向性の銘柄に分散投資するのが重要」とアドバイスする。どのような意味なのか。国内で注目している投資テーマとあわせて聞いてみた。

市場変動にも強い「日本株3方向への分散投資」

投資信託の中には、特定の株価指数をベンチマークにして、それを上回る成果を目指すものがある。株価指数とはTOPIXや日経平均株価などが一例。三国氏が運用を担当するニッセイJPX日経400アクティブファンドは、「JPX日経インデックス400」という指数をベンチマークにしている。

2024年2月に誕生10周年を迎えたこのファンドは、良好なパフォーマンスを残している。上述のベンチマークに対して、設定来で50.2%の超過収益が出ているという。(2024年8月末現在)

そのファンドを運用してきた三国氏は、最近の日本株の動きをどう見ているのか。特に2024年8月以降は市場の乱高下も起きたが、こうしたシーンで個人投資家はどう対処すれば良いのだろうか。

まず乱高下に至るまでの“前段”として、日本株は2023年から上昇基調を続けていた。これについてはいくつかの要因があるという。なかでも大きいのは中国の経済成長に懸念が生じたことだ。

「これにより、海外の機関投資家が中国に対する投資のウェイトを落としたと考えられます。その分、同じアジアで流動性の大きい日本と、成長の観点で魅力的なインドに資金が流れたと見ていますね」

加えて、ウォーレン・バフェットが日本株に注目したことや、新しいNISAの登場も株高の流れを後押ししたという。

その後、2024年8月に乱高下が起きた。要因として、三国氏は追加利上げの決定や日銀からの発信内容がこの動きにつながったと見ている。ただし、最初に強く反応したのは株式ではなく為替のマーケットだったと三国氏は指摘する。その上で「為替が大きく動くと、それに影響を受けるのが日本の株価です」と話す。

「なぜなら日本は輸出企業が多く、収益に影響が出るからです。今回は一気に円高となったため、日本企業にはマイナスになると考えた投資家が増え、いったん売る動きが出ました。まさしく売りに売りが重なり、あれだけの下落局面になったと考えています」

こうした市場の変動に対して、個人投資家はどう向き合えば良いのだろうか。「日本株でいえば、最低でも以下3つの方向性の銘柄に分散投資するというのが私の考え方です」とアドバイスする。

「3つのうち1つ目は、輸出で利益を出している日本企業です。製造業などに多いでしょう。2つ目は、国内の消費で利益を出している企業。私たちがよく使うお店や国内で展開している商品の提供企業などが代表ですね。そして3つ目は、株主への配当が安定している企業です」

上記3つに分散投資をすると一定のバランスが生まれ、相互に補完しやすいという。例えば海外のビジネスが良いときは輸出に強い企業、日本の景気が良いときは国内消費に強い企業、どちらも芳しくないときは高配当企業が支えるという構造に。相場の変動に耐えやすいと三国氏は考える。

なぜROEをもとに投資先を選ぶのか

多数いるファンドマネージャーの中でも、三国氏は自身の特徴として「ROE(自己資本利益率)を重視した運用を行っていること」を挙げる。ROEとは、株主が出資したお金(自己資本)を元手に企業がどれだけ利益を上げたか測る指標。自己資本でどれだけ効率よく利益を上げているかを見るものといえる。

三国氏はこの指標に重きを置いているが、それは単純にROEが高い企業に投資するということではない。例えばこれからROEを引き上げられる企業、それが期待できる企業を探すという。

「分かりやすく言えば、経営としての“断捨離”ができる企業を探していくといえます。10億円の利益を出すのに100億円の元手を使うのか、半分の50億円で行うのか。もちろん後者の方が良いですよね。より効率的に利益を出していける企業を見つけるのが私の仕事であり、そのためにひたすら企業の方とお話ししています。ROEを上げられる余地がその企業にあるのか、あるならばいつどのように実行するのか聞いていくのです」

同氏がROEに着目したきっかけは若い頃にさかのぼる。ロンドンの投資顧問会社に出向し、外国人投資家の運用手法を間近で見たときだった。

「現地の投資家は、基本的にROE基準で運用を考えていました。日本では前年度比の営業利益やEPS(1株あたり純利益)といった指標が注目されますが、それとは大きな違いがあったのです。私はこの手法を日本で実践したいと考えました」

ROEを軸にした運用は、今も「日本では主流ではない」と三国氏。しかし、主流ではないからこそ「成果につながっているのでは」と分析する。

今後注目の投資テーマは「日本でこれから足りなくなるもの」

そんな三国氏にとって、これからの日本株で注目している投資テーマはどのようなものか。同氏は2つの視点を紹介する。

「1つ目はやはり『効率的な経営』を実践する企業です。人口が減少する日本でこれから重視されるのは間違いなく効率性でしょう。従業員1人あたりの売上高や利益をどう高めるか。例えばソフトウェアの力を借りて経営をマネジメントするなど、効率的な経営ができる企業がポイントになってきます」

ではどうやってその企業を探すのか。もちろん企業が公開している決算資料や取り組みから読み解くのは重要だ。あわせて、ひとつの見方として「経営陣に若い方が入っている企業に期待したい」と話す。人口も経済規模も“拡大基調”だった昔の日本を知らない若い世代、拡大基調の時代から引き継がれてきた経営手法にとらわれない人が経営陣に入っている企業に着目したいと考える。

2つ目の注目テーマは「電力」だ。「今後、日本で間違いなく足りなくなるのは電力です」と力を込める。

AIが世界的トレンドになる中、三国氏はこの潮流によって電力不足が起きると予測する。理由の1つは、AIに欠かせないデータセンターの設置が全国で進んでいることだ。データセンターとは、インターネット用のサーバーやネットワーク機器を配備し、安定運用するための施設。日本でもすでに、北海道や九州などで大型データセンターの建設などが予定されている。

しかしこのデータセンターは、大きな電力を必要とする。一例として、大型のデータセンターや半導体工場の新設が決まっている北海道では「電力供給を現状の3割ほど高める必要があるとの試算も出ています」とのこと。そこで電力が今後のテーマになるという見立てだ。

「ただし電力を生み出す企業というよりは、今ある電力を最適に分配する、効率よく活用するといった電力マネジメントの企業や技術が鍵になるのではないでしょうか」

企業経営における効率性。そして需要が増す電力においての効率性。これらは今後の投資戦略で重要になると三国氏は考える。日本株を見続けてきたファンドマネージャーは、今こうした視点で戦略を描いている。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2024年10月現在の情報です

著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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