~貴金属の希少性と投資~
貴金属は金(ゴールド)だけではない!
提供元:三菱UFJ信託銀行
上昇続ける金価格
2024年5月の当欄で「国内金価格、史上最高値を更新!」と書きましたが、その後も価格の上下動はあったものの最高値を更に更新し、現在2024年10月時点でもその高値水準を維持しています。
普通なら最高値を更新すると一旦の利益確定売りなどが出て価格は下落してしばらくは調整(価格低迷)するものです。確かに夏場に急速な円高局面があり、国内金価格は一旦下落しました。しかし、為替相場がまた円安方向に推移しだすと価格上昇が目立つようになり、結局は現在の高値水準に回帰してきています。
海外の金価格はドル建てで取引されており、半年前の相場からほぼ一本調子で上昇の一途を辿っています。
国内外の金価格がなぜ?上昇しているのか。答えは簡単です。金を買っている人がたくさんいるからにほかなりません。では、なぜ?これだけ高くなった金を買っているのか。この背景についても2024年5月の当欄で記しておりますが、今一度ポイントを再掲します。
・米インフレの行方:コロナ禍の信じられないインフレ(物価高)からは鈍化してきてはいるものの、FRB(米連邦準備制度理事会)が目標設定している2%を上回った状況にあります。
・地政学リスク:終結をみないロシアによるウクライナ侵攻に加えて中東情勢の悪化が非常に大きくなっています。これが国内外の金価格が史上最高値更新を記録した背景の大きな一つとなっています。更には台湾海峡問題、北朝鮮によるミサイル発射など不安要素は満載しています。
・11月米大統領選:民主党ハリス氏と共和党トランプ氏との争いになりますが、「もしトラ(もしトランプ氏が当選したら)」が実現すると全ての輸入品に高率の関税を課すことは間違いなく、結果的に米国内のインフレが助長される可能性が高いです。
・米財政赤字:11月の米大統領選でどちらの候補が勝利しても、財政拡大路線(国の借金が増える(米ドルを増刷する))を歩むことになるでしょう。米ドルの増刷は米ドルの価値低下につながり、一般的に無国籍と考えられている金の価値が高まります。また世界各国は「いざ!」という時に使うための資金=「外貨準備」というものを持っています。日本などもそうですが、通常どの国も米国国債で保有することが多いです。
ところが近年、中国(外貨準備金額の世界ランキングはトップ)はじめその他新興国が外貨準備として、米国国債を売却して金を購入するケースが目立ってきています。これは何を意味しているのか?米国国債=米ドルに対する信認・信用の低下だと筆者は考えています。各国中央銀行が金を購入する結果、一般市場への金の供給量が減少して金価格高騰を演出している面もあります。
以上のようなことを背景に資産価値を守る手段として、実物としての価値があり景気に左右されにくい安全資産とされる金が買われているのです。
取り残されたプラチナ(白金)…
金価格上昇の凄まじさは上記のとおりです。一方、この流れの蚊帳の外に置かれているのが、金と並んで貴金属の代表であるプラチナ(白金)です。先ずはその価格の違いをみてみたいと思います。
以下のグラフは、国内の金ETF(金の果実(証券コード:1540)) とプラチナETF(プラチナの果実(証券コード:1541))の価格推移を折れ線グラフで表したものです。
足許の約10年間の状況は、金ETFの価格がプラチナETFの価格を上回っている状況が続いています。以前はプラチナETFの方が金ETFよりも高かったのです。
それもそのはずです。プラチナの有史以来の生産量は、7千数百トンと非常に少なく、金の19~20万トンと比べてもその26分の1以下しか生産されていません。その意味で金以上に希少性の高い貴金属と言えます。
なぜ?価格の逆転状況が生じているのか。
契機は2015年あたりにあります。プラチナは優れた触媒作用や高い融点、化学的に安定しているという特性から、自動車(特にディーゼル車)の排気ガス浄化触媒として用いられてきました。ところが、当時、欧州で排気ガス不正問題が明るみに出て、今後ディーゼル車は造らない?との懸念が前面に出てきたのです。それ以降、価格の低迷が続いている状況なのです。
それにしても、プラチナは金よりも希少性は断然高いにもかかわらず、その価格は現在、金の二分の一以下。以前は金よりも高かったにもかかわらず、現在の状況はあまりにも安すぎる!と筆者は考えています。金に対してかってないほど「割安」な状態になっていると考えています。
プラチナの素顔とは?
みなさんもご存知のとおり、プラチナは結婚指輪などジュエリー(宝飾品)に使われていることが一般的です。純粋なプラチナ自体は銀白色(鉛色)で、パラジウムやルテニウムを混ぜて強度や光沢を出しています。しかし、プラチナの主要な需要は、工業用需要です。2023年の工業用需要は173トンと、全体の需要の約71%を占めており、これは金の10%程度と比較し高いことが分かります。
自動車の排気ガス浄化触媒だけにとどまらず化学、電子産業、ガラス、石油精製、高温測定などの工業用、さらには医療、環境関連分野にまで及んでおり、実は21世紀の産業に欠かせない貴金属と考えられています。このため、プラチナの需要及び価格は世界の景気動向の影響を受けやすいものとなっています。工業用需要の中では、自動車触媒用需要が最大で約58%を占めています。因みに、宝飾品需要は全体の約24%を占めるにとどまっているのが実態です。
一方、プラチナの供給の特徴は、まず鉱山生産量が金・銀に比べ少ないことが挙げられます。2023年の世界のプラチナの鉱山生産量は174トンと、金の鉱山生産量3千数百トン、銀の2万数千トンと比較すると小規模です。またプラチナの鉱山生産は、南アフリカ共和国(123トン)とロシア(21トン)の2国で世界全体の約83%を占めており、供給ソース(供給源)の偏在が著しいものとなっています。
(上記プラチナの需給統計に関する数値は、World Platinum Investment Council のデータによります)
以上、プラチナについてみてまいりましたが、これだけは覚えておいてください。
■ プラチナは金よりも希少性は断然高い
■ プラチナは21世紀の貴金属
投資するには?
過去に掲載した当欄では、「金は投資のメタル」と繰り返しお伝えしています。一方、プラチナはじめ銀(シルバー)、パラジウムは「工業のメタル」と言うことができます。
どれも貴金属として希少性はあると考えますが、希少性ということならやはり金・プラチナです。
貴金属はその希少性が貴金属の価値を保証しているのです。
金は投資商品の一つとして認識されてきた感じが十分あると考えています。欧米では資産保全の手段としてポートフォリオの一部に金を取り入れることは、半ば常識とされてきました。我が国NIPPONでもようやくその流れが出てきているように感じます。
一方でプラチナは確かに工業のメタルではありますが、今回のテーマである「プラチナの割安さ」の観点から、長い目で投資するのも一つの手だと考えています。もちろん、「断然高い希少性」があるからです。
長い目…3年、5年ではありません。
10年、20年、30年…といったところです。
なお貴金属には株式・債券などと異なる特徴があります。
貴金属の最大の弱点は、利息・配当などのインカムゲインがないことです。
では…買い方ですが、長期保有を前提として時間分散のうえ少しずつ購入していくのが得策と考えています。
また金もプラチナも国際的にはドル建てで取引されています。国内では円建てで取引されているため、為替は関係がないとお考えの方もいらっしゃいますが、国内の金・プラチナ価格は為替の動向も織り込んだ円建て価格で取引されますので、売買の際には注意が必要です。
金をはじめとする貴金属は、基本的には「供給と需要」で価格が決定されます。貴金属が高い資産価値を有しているのはその希少性です。
世の中に存在が限られているわけですから…。
具体的な貴金属投資方法としては、金・プラチナ地金を保有することです。ただ、これ自体は否定しませんが、保管上の問題がクローズアップされます。金貨・プラチナ貨幣もその加工費にプレミアム(上乗せ価格)が付いてしまい地金よりも割高な価格になってしまうという問題があります。
そこで金融商品として、私ども三菱UFJ信託銀行が送り出したのが「金ETF」「プラチナETF」です。これは金・プラチナ価格に連動する投資信託を証券取引所に上場した商品です。
証券口座をお持ちであれば、株式と同様にリアルタイムでの取引が可能です(なお、取引価格には消費税は含まれておりません)。
比較的少額から取引が可能で、保有コストが比較的廉価であることなどのメリットも備えています。
■ 金ETF「金の果実(証券コード:1540)」の場合(10/11現在)
1口:東証終値=11,915円(質量 約0.94g)、信託報酬率:年0.4%(税抜)
■ プラチナETF「プラチナの果実(証券コード:1541)」の場合(10/11現在)
1口:東証終値= 4,305円(質量 約0.92g)、信託報酬率:年0.5%(税抜)
三菱UFJ信託銀行が管理会社である「金の果実」、「プラチナの果実」においては、金・プラチナの現物が信託財産として日本国内に保管されているため、実質的に金・プラチナの所有権を持つことでもあり、一定量以上になれば一定条件の下で現物に交換(転換)することも可能です。
発行体である三菱UFJ信託銀行が破綻しても、金・プラチナの現物は“信託財産として分別管理されている”ため大切な資産を失うことはありません。
(2024年10月11日、記)記載内容は筆者の個人的見解に基づくものであり、三菱UFJ信託銀行全体の見解ではありません。