日本株の未来 ~立ち上がったクララ~
提供元:日興アセットマネジメント
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<ここがポイント!>
■立ち上がったクララ:賃金上昇、設備投資の拡大、緩やかな円高
■消費を中心とした内需回復で、中小型株に恩恵が
■歩きだせ、クララ!:労働流動性改善に期待
立ち上がったクララ:賃金上昇、設備投資の拡大、緩やかな円高
日本経済の“立ち上がり”を実感できないという人は多い。しかし、2020年以前はおおむねゼロ%程度であった賃金上昇率は、いまやボーナスを除いた所定内給与ですら2%を超える上昇(前年同期比、毎月勤労統計では2024年8月に前年同月比3%増)を示した。
それでも消費回復の実感がわかなかった理由は、インフレ率が賃金上昇率よりも高かったことにある。
そして今夏からは、いよいよ賃金上昇率がインフレ率を上回りつつある。そう考えれば、平均的な家計が収入増とインフレの落ち着きを実感し、財布のひもを緩めるのはこれからであろう。
設備投資の拡大について、9月の日銀短観を見ると、大企業製造業の2024年度計画は前年度比18.8%増で、ソフトウエア投資のみでは同21.3%増と、計画ベースでは高い伸び率になっている。モノへの投資は人手不足で設置が遅くなるなどで遅れることもあるが、ソフトウエア投資は計画通り進み、かつ労働生産性を引き上げる効果が期待できる。とりわけ、景気拡大期の生産性改善は一人当たり売上高を引き上げ、賃金上昇に直結しやすい。
事業計画の前提となる想定為替レート(全規模・全産業)は、米ドル(対円)で2024年度145円程度、同下期144円台とされており、150円台などの円安を想定していないことがわかる。つまり、米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げで円高基調となり、米ドル(対円)に左右される帳簿上の損益が影響を受けたとしても、そのペースが緩やかであれば、輸出産業も含む人手不足による賃上げや設備投資の積極化による能力増強の動きは続くだろう。
リーマン・ショック以来、売上規模が回復しない状態のまま、雇用調整が難しかった日本経済は、ヒト・モノ・カネが余剰となり、賃金は上昇せず、新鋭の設備を入れて雇用を減らすこともできずに既存設備を使い、資金が余りマイナス金利になった。
その後、コロナ禍対応の世界的な財政拡大で、まずは輸出産業から売上数量を回復したが、日本経済はコロナ禍からの回復が遅れたこともあって(まるで『アルプスの少女ハイジ』のともだちのクララのように)病気が治っても立ち上がらず、人手不足を解消する賃金の引き上げや設備投資の拡大が、2023年の終わりから2024年の初めごろに後ずれした。コロナ禍の行動制限が解除され、賃金上昇、設備投資の勢いが増し、いよいよクララ(日本経済)は立ち上がった。
消費を中心とした内需回復で、中小型株に恩恵が
コロナ禍後の経済回復が、米国の輸入増などを背景とした、日本の大企業・外需関連企業の成長中心だったとすれば、これから日本の賃金上昇率がインフレ率を上回るタイミングで、銀行や中小型の内需関連企業の成長も期待できる。
コロナ禍からの回復の勢いは続いており、中小型株の収益成長率の予想は引き続き大型株より強い。東証のスタンダード、グロース銘柄の売上や営業利益の増減率(東洋経済予想)を東証プライムと比べると、プライム企業が10%弱の利益成長に対して、スタンダードは10%強、グロースは約30%の成長が見込まれている。特に売上成長率が10%を超えると予想されるグロース企業の業績は、その多くを国内経済の回復が支えているとみられる。
しかし、株価は中小型が大型を長らくアンダーパフォームしていた。8月初旬発表の米国失業率の上昇などを背景に米ドル(対円)が急落した後は、東証グロースや東証スタンダードが東証プライム指数を上回り始めている。市場は、賃金上昇とインフレの落ち着きによる消費や企業の収益環境の改善、設備投資の拡大を期待して、米ドル(対円)の動向に影響を受けやすい大型株よりも、内需企業が多い中小型株の回復に自信を持ち始める可能性が高まっている。
歩きだせ、クララ!:労働流動性改善に期待
賃金上昇と設備投資の拡大で、ついに病気が治ったことに気づいたクララ(日本経済)が立ち上がったといえる。しかし、歩き出すためには弱った筋肉に力を与え、自ら歩く経済になる必要がある。そうでなければ、次の世界的な景気後退があれば、またヒト・モノ・カネが余剰となり、賃金上昇が止まり、設備投資の見送り、ゼロ金利という“車いす”に座りこまざるを得ない。この体質改善は、つまり経済の構造改善であり、政策にリードされる必要がある。
リーマン・ショック後の日本経済は、売上の規模が回復しないまま雇用調整が難しくなり、ヒト・モノ・カネが余剰となり、賃金は上昇せず、既存設備を使い続け、全体として資金が余ってマイナス金利になった。日銀が金利を引き下げ、さらに非伝統的と言われる量的緩和をしても、企業は活動せずに資金を退蔵してしまい、経済は活性化しなかった。売上が増えるという見込みがあって、初めて資金は設備投資や雇用の拡大に使われる。
ところが、米国のコロナ禍対応の財政出動が大きかったことで、まず輸出が伸びたことがリーマン・ショックからの回復をスタートさせるきっかけになった。しかし、これ自体はカンフル剤で、リーマン・ショック前のピークを超える生産が求められたことにより、企業活動を活発化させたにすぎない。立ち上がったクララは、歩くための筋肉をつけたとは言えない。
石破政権は、基本的に岸田前政権の「新しい資本主義」に関わる経済政策を引き継ぐとみられる。実際に、自民党総裁就任後の記者会見では、新しい資本主義を引き続き進めると発言している。日本経済の体質改善に重要なことは、ヒト・モノ・カネの「余剰」が再び起こらないための労働流動性の向上策である。その点について、石破首相は所信表明で、賃上げと人手不足緩和の好循環に向けて、一人一人の生産性を上げ、付加価値を上げ、所得を上げ、物価上昇を上回る賃金の増加を実現する、個人のリスキリングなど人への投資を強化し、事業者のデジタル環境整備も含め、将来の経済のパイを拡大する施策を集中的に強化する、と述べている。
このような政策は、病気である人にスクワットを要求できないように、経済状態が良い時に進める必要がある。いまこそクララが立ち上がるための千載一遇のチャンスが訪れている。
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(日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山直樹)
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