掛け金増も素直に喜べない?

【iDeCo】掛け金上限が「倍以上」に引き上げ検討…手放しで喜べない受取時の落とし穴

提供元:Mocha(モカ)

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税制優遇を受けながら老後の自分年金が作れる制度として人気のiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)。このiDeCoの掛け金上限が倍以上に引き上げられることが検討されています。iDeCoの掛け金上限が増えれば、その分お金をたくさん出すことができ、税制優遇を受けられる金額も増加するので、一見良さそうです。

しかし、掛け金増額が手放して喜べない事情も実は存在します。

iDeCoの制度をおさらい

iDeCoは自分で出した掛け金で運用を行い、その結果を60歳以降に受け取る制度。公的年金(国民年金・厚生年金)の上乗せができる制度です。

iDeCoでは、掛け金の「拠出時」「運用時」「給付時」の3つのタイミングで税制優遇が受けられます。

●iDeCoの3つの税制優遇

・拠出時…iDeCoの掛け金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除の対象となるため、毎年の所得税や住民税が安くできる
・運用時…iDeCoの運用で得られた利益には税金が一切かからない
・給付時…iDeCoの資産を受け取る際、一時金の場合は「退職所得控除」、年金の場合は「公的年金等控除」という所得控除の対象になり、税金の負担が減らせる

iDeCoの掛け金の上限額は、公的年金の種類や企業年金の有無で異なります。

●iDeCoの掛け金上限額

【国民年金第1号被保険者】
・自営業者・フリーランス・学生…月額6万8000円・年額81万6000円

【国民年金第2号被保険者】
・会社員
企業年金がない場合…月額2万3000円・年額27万6000円
企業型確定拠出年金のみある場合…月額2万円・年額24万円
確定給付型企業年金がある場合…月額1万2000円・年額14万4000円※
・公務員…月額1万2000円・年額14万4000円※

【国民年金第3号被保険者】
・専業主婦(主夫)…月額2万3000円・年額27万6000円
※2024年12月より月額2万円・年額24万円に増額される

掛け金の上限が「倍以上」に?

金融庁は、2025年の税制改正要望のなかでiDeCoの拡充を要望しています。
もともと、2024年6月の岸田政権時の「骨太の方針」で、iDeCoの掛け金上限引き上げについて「2024年中に結論を得る」と明記していました。具体的にいくら引き上げるかはまだ決まっていないものの、中には「倍以上に引き上げるべきだ」という声もありました。

政府は、掛け金の上限を増やすことで資産形成を後押ししたいと考えています。iDeCoの掛け金は全額所得控除の対象ですので、掛け金の上限が増えれば、その分所得税・住民税を安くできることにつながります。

ただ、掛け金の上限額を上げすぎると「金持ち優遇」になってしまうという懸念もあります。掛け金をたくさん出せる人はそれだけ税額が減らせて老後資金を用意しやすくなりますが、そうでない人には恩恵がないからです。

たとえば、会社員の場合、掛け金上限が月1万2000円(2024年12月からは月2万円)・月2万円・月2万3000円のどれかですが、これが2倍になったり、2倍プラスアルファになったりということは考えられます。ですから、「月5万円にする」くらいはありえそうです。

掛け金上限の増額は実は素直に喜べない?

しかし、iDeCoの掛け金上限の増額を手放しで喜べない事情があります。なぜなら、iDeCoは受け取りのタイミングで税金がかかるしくみだからです。

iDeCoの資産を一時金として受け取るときは「退職所得」となり「退職所得控除」が利用できます。退職所得控除は、一時金から一定の金額を控除して、所得税や住民税の対象になる課税所得を減らすことができるしくみです。

<一時金の場合の税金と退職所得控除>

(株)Money&You作成

退職所得控除が一時金よりも多い場合には、税金はかかりません。また、一時金が退職所得控除より多い場合には、一時金から退職所得控除の金額を引き、さらに「2分の1」をかけた金額が退職所得となります(2分の1課税)。この退職所得をもとに所定の税率をかけ、所得税や住民税の金額が算出されます。退職所得控除の金額は、iDeCoの加入年数が20年以下なら年40万円ずつ増え、21年目以降の部分は年70万円ずつ増えます。

なお、退職所得控除についても2023年、見直しが取り沙汰されたことがありました。「勤続年数20年超」についても、年70万円ではなく年40万円にしようというものです。こうなると、21年目以降の退職所得控除の金額がこれまでより年30万円ずつ減るため、大増税につながりかねません。

岸田前首相は当時「『サラリーマン増税』うんぬんといった報道があるが、全く自分は考えていない」と述べたとのことですが、2023年6月の税制調査会の中期答申の資料には「対応を検討する必要が生じてきています」とあるため、いつ蒸し返されるかわからない状況です。

iDeCoの掛け金が増えると税金はどうなる?

iDeCoの掛け金が増えると、税金はどうなるのでしょうか。試算してみました。

【前提条件】
・40歳から65歳までの25年間iDeCoに積み立てをした
・掛け金額が月2万円の場合と月5万円の場合で比較
・運用利率は年5%
・所得税率は10%、住民税率は所得税率に関わらず一律10%(合計20%)
・退職所得控除は1150万円(800万円+70万円×5年=1150万円)

<シミュレーション結果>

(株)Money&You作成

月2万円の場合、積立元本は25年で600万円です。所得控除による節税効果は120万円です。運用利率5%で運用できると、資産額の合計は1191万円になります。
これが月5万円になると、積立元本が25年で1500万円になります。所得控除による節税効果は300万円に増加します。運用利率5%で運用できると、資産額の合計は2978万円になります。

節税効果が180万円増えて、資産額が1787万円増えるのですから、これだけ見るといい感じです。iDeCoは運用益非課税ですので、値上がり益や分配金なども非課税になります。

しかし、iDeCoでは受取時に課税されます。
退職所得は(一時金−退職所得控除)×1/2ですから、掛け金2万円の場合、退職所得は21万円になります。退職所得21万円の所得税は5%、住民税は所得税率に関わらず一律10%。計算すると支払う税金の合計は3万円です。
節税効果が120万円あって、支払う税金が3万円ですから、差し引きの節税効果は117万円となります。

月5万円で同じように計算すると、退職所得は914万円となります。この場合、所得税の税率は33%、住民税は一律10%なので、支払う税金の合計は239万円に。月2万円のときよりも236万円も税金が増えてしまいます。

掛け金5万円の場合、節税効果が300万円ありましたが、支払う税金が239万円ですから、差し引きの節税効果は61万円に。月2万円のときよりも56万円も少なくなってしまうのです。

掛け金額が増えることで資産総額が増えていることはいいことなのですが、その増えたところから結構税金を払うことになることがわかります。これを納得できるかというのはひとつの問題です。せっかくリスクをとって投資をして稼いだお金に税金がこれだけかかるというのは、納得がいかない方もいるかもしれません。

退職金とiDeCo、両方もらえる場合はさらに増税

退職金とiDeCoを両方もらえる場合の退職所得控除の扱いは少々複雑です。
60歳で退職金を受け取り、iDeCoを60歳以降に受け取るときには、退職金を受け取ってから20年空けないとiDeCoの加入年数に基づく退職所得控除は使えません(なお、「2分の1課税」は使えます)。

iDeCoは75歳までに受け取りを開始しないといけないルールなので、加入年数に基づく退職所得控除は使えません。
つまり、退職金とiDeCoを合算した金額に対して、どちらか多い方の退職所得控除が適用されます。

先ほどと同じ前提条件で、退職金を受け取った際に退職所得控除を使い切り、iDeCoの一時金には退職所得控除を適用できない場合のシミュレーションも紹介します。

<シミュレーション結果(退職所得控除がない場合)>

(株)Money&You作成

月2万円の場合、支払う税金の金額は所得税・住民税合わせて136万円になります。それに対して、所得控除による節税効果は120万円でしたので、税金軽減効果は相殺され、16万円分税負担が増すことになります。
月5万円になると、税金は487万円とかなりの高額です。所得控除による節税効果は300万円ですので、税金軽減効果は相殺され187万円分税負担が増すことになります。

iDeCoの受け取り時に退職所得控除が使えないと、出口のところで税金をたくさん払わなければならないことがわかります。

所得控除の節税効果で税金が抑えられても、出口でたくさんの税金を支払わなければならないならば、税金を繰延しているだけです。しかも、運用で損するかもしれないというリスクを取って、稼いたお金に高額な税金がかかるのですから、納得できない方も多いでしょう。

そもそも、退職所得控除の「合算ルール」はわかりにくいので、掛金上限を増額するのであればむしろ廃止していただき、退職所得控除を退職金とiDeCoそれぞれに適用するようにしてほしいですし、受け取りの際に税金がかからないようにしてくれればなお良いと考えます。

(執筆:マネーコンサルタント 頼藤太希)

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