福永博之先生に聞く信用取引入門
【信用取引入門】第19回:信用情報の見方(買い残高)
【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第18回:リスク管理の具体例4(追証、株価と担保の両方下落2)
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今回から信用取引に関する情報の見方について解説します。信用取引は、株式の買付代金や株券を借りて行いますが、この借りている買付代金や株券の状況が分かるのが信用取引残高の買い残高と売り残高です。
買い残高は、信用取引で買い建てを行った際に発生するものですが、これは買い建てを行ったまま未決済のものを指します。
また、信用取引には返済期限が6ヵ月と決められた制度信用取引と証券会社と顧客とのあいだで期限を取り決める一般信用取引がありますが、どちらも信用取引の残高に含まれます。
では、残高を見ながらどのように判断すればよいのでしょうか。
例えば、買い残高が膨らんでいるということは活発な取引が行われていると考えることができ、上昇期待が高まるところです。
ただ一方で、買い残高は制度信用取引であれ一般信用取引であれ、いずれ返済をしなければなりません。そうしたなか、過去に解説した現引き(品受け)を行う投資家は少なく、売って返済する投資家がほとんどではないかと思われます。
そこで買い残高が膨らむと、売って返済する額も増加すると考えられ、買い残高だけが一方的に大きい場合には、株価変動(下落)要因となることが考えられるのです。
したがって買い残高が大きく膨らんでいる場合、過熱気味になっていると判断されるため、株価の上値が重たくなったり、場合によっては下落したりすることを警戒する必要があるのです。
具体的に実際の残高と株価の関係を見てみましょう。
11月1日時点の買い残高は4兆1,493億円あり、10月25日時点と比較して532億円増加していました。この水準は、8月2日時点の4兆8,720億円以来およそ3ヵ月ぶりの高水準となっていましたが、8月2日と言えば、思い起こされるのが過去最大の下落幅(日経平均4,451円28銭安)となった8月5日の暴落が発生した前営業日です。
米国市場で8月2日(日本時間2日夜)に発表された7月の雇用統計の結果が予想を下回り、米国景気に対する警戒が広がって米主要株価指数が下落したことを受け、2日の翌営業日となる5日に日経平均が過去最大の下げ幅(4,451円28銭)となる暴落が発生しました。
そこで、この暴落が発生した週末(9日時点)の残高を見ますと、3兆9,634億円となっており、暴落発生前の2日時点と比べて9,086億円も減少しており、減少額は東証でデータが遡れる2002年8月以降(13年7月までは東名阪3市場合計)で最大であると報じられているのです。
こうしたデータや値動きを見ますと、残高が膨らむことは商いが活発化しているといったプラスの面がある反面、残高が膨らみ過ぎると、悪材料が出たときの反動が大きくなることも頭に入れておく必要があります。
またこうした情報は、信用取引を行っている投資家だけに必要というものではありません。8月5日に発生した暴落のように、取引を行っている投資家や市場全体の値動きを左右する重要な情報と言うことが言えるため、すべての投資家がチェックする必要があると思われます。
また一概には言えないものの、私から見た最近の経験則では5兆円に残高が接近すると外部環境次第では売り物が多くなって上値が重たくなったり、きっかけ次第では株価が大幅に下落したりすることがあるように見えますので、経験則として覚えておくと良いかもしれません。
では、こうした情報は「どこから」「いつ」見ることができるかと言うと、東証が1週間分集計して、毎週火曜日※の取引終了後に信用残高としてホームページで発表しており、だれでも見ることができます。(※発表日は祝日などをはさむとずれます)
今回解説したように、信用残高やその推移をチェックすることによって信用取引の過熱度合いや将来の株価動向を探る材料になりますので、是非毎週確認するようにしてください。
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長
勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。